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「そういえば、母様は服選ばなくていいの?」
着替えながらそう聞くと、化粧品を選んで用意していた母が肩を竦めた。
「リーとチーファが選んでくれてるのよ。私が好みで選んだやつじゃ、悪くないけど地味なんだってさ」
「あらま」
「今回の旅行でチーファはお洒落に目覚めたみたい。風の国でも水の国でも、自分達そっちのけで私とアマーリエの服選んでたもの」
「リー様って服屋で働いていたって聞いてるけど、男性用じゃなくて女性用のお店だったの?」
「らしいわよ。女の子の服の方が華やかで見るのが好きなんだって」
「へぇ~」
「さ、椅子に座ってちょうだい。刺繍の色が緑だから、この淡い緑のアイシャドーはどうかしら?」
「よくわかんないから任せるわ」
「じゃあ、これね」
椅子に座って母に顔を弄られる。真剣な顔つきで化粧をしてくれてあるが、どことなく楽しそうである。
そういえば、母は自分は化粧も華やかな格好もしないくせに、ミーシャ達には可愛い格好をさせたがっていた。
(今が楽しいんだろうなぁ)
ちょうどミーシャの化粧が終わる頃にエーシャとアマーリエが部屋に入ってきた。二人とも服を着替えて、ミーシャが着ているようなワンピースを着ていた。
「母様の服も持ってきたよ」
「あら、ありがとう。ちょうど終わるから次はエーシャね」
「お願いしまーす」
「いいなぁ、ミィ姉様もエー姉様もお化粧できて」
「あと何年もしないうちにできるようになるわよ」
「アマーリエはまだ13歳だからね。16歳になったら、お化粧の仕方教えてあげるわよ」
「早く16歳にならないかなぁー」
「気がついたら、あっという間になってるわよ」
「そうかなぁ」
「さて、エーシャのアイシャドーはどうしようかしらね。ミーシャと同じ色でもいいけど、青い花の刺繍も入ってるから、青にする?」
「じゃあ、青でー」
「はーい。じゃあ、やるわよー」
「はーい」
マーサがエーシャに化粧をしている様子をアマーリエが興味津々といった体でじっと見ている。
背伸びしたいお年頃のお嬢さんを微笑ましく思う。
ーーーーーー
エーシャの化粧も終わり、母が黄色と赤の花が刺繍されたワンピースに着替えると、奥の部屋から出て、店内に戻った。
男性陣もそれぞれ買い物と着替えが済んだようで、店員に出してもらったであろう、椅子に腰掛け、話をしているようだ。他の国では服を買うのに、まるっと半日かかったそうだが、今日はまだ二時間もかかっていない。
マーサが楽しそうにマーシャルと話していたリーに声をかけた。
「もう皆終わったの?」
「うん。今日買うのは今日と明日の分だけだから。領地で着るのは向こうで買った方がいいでしょ」
「そうね。王都と領地じゃ、結構気候違うものね」
「うん。土の国の王都って風の国程じゃないけど、領地より涼しいね」
「本当ねー。私も数える位しか来たことないから、結構新鮮だわ」
「神子殿。ちょっと早いですけど、昼食に行きますか?その後、市場に行きましょう」
「そうね。はーい、じゃあ皆さん。お昼に行きましょー」
マーサが手をパンパン叩きながら言うと、皆それぞれ立ち上がって、ぞろぞろと出口へ向かった。
今日買ったものは、城に運ぶよう頼んでいるので、全員ほぼ手ぶらである。勿論、護衛の将軍達と騎士科に通うマーシャル達は帯剣している。
人数が多いため、複数に別れて馬車に乗り、昼食をとる店に向かう。
ミーシャは馬車では風の国ご一行と一緒になった。ジャン将軍も狩りが趣味だそうで、剣よりも弓の方が得意なのだそうだ。店に着くまでの短い時間、二人でずっと狩りの話をしていた。
そんなミーシャ達をフェリが微笑ましそうに見ていた。
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昼食は、土の国内の様々な地域の料理が食べられる店で食べた。
ミーシャ達も食べたことがない料理が殆どで、少々お行儀が悪いけれど、皆で話ながら美味しい料理に舌づつみをうった。
昼食を終えた後は、店の近くの市場に行った。
領地ではあまり見ない食材や布地、装飾品等、様々なものがあり、あれは何だこれは何だ、と話ながら、本当に楽しく色んな店を見て回った。途中、甘味処に立ち寄りお茶とケーキを食べ、一息ついた後はまた市場を散策した。
市場を一通り見終わる頃には、皆、大なり小なり荷物を抱えている状態だった。
「マーサ」
「なに?兄さん」
「荷物増えたし、歩き回ったから夕食まで休憩しないか?俺行きたい所あるんだけど」
「行きたい所ってどこ?」
「王都のミーシャ達の家」
「あぁ、神子殿。夕食の店は家から割と近いですから。予約の時間までまだ少しありますし、家に行きましょうよ」
「そうね、そうしようかしら」
ということで、フェリの要望でミーシャ達が住む家に行くことになった。
(掃除はこまめにしてるけど、大丈夫かしら……)
乗り気な面子を余所に、ミーシャは少々不安であった。
キレイ好きな母に怒られる程散らかってはいないと思う。
……多分。