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ミーシャが王宮薬師局に勤め始めてから、あっという間に1年が経った。
毎日、薬師局の様々な雑事をこなしながら、先輩指導のもと、薬師としての腕を磨くために修行をしていた。
プライベートな会話は相も変わらずないに等しいが、それでも、特に世話役のルート先輩や薬草園の手入れでよく一緒になるブルック先輩とは少しは馴染めた気がする。
未だに友達や一緒に食事や遊びに行くような仲のいい人はできていないが、それなりに充実した毎日を送っていた。
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今日は休日である。
休日になると、家に王都国立高等学校に通う弟達がやって来る。
ミーシャは8人兄弟の長女であった。
そのうち、王都に住んでいるのは、王宮勤めのミーシャと高等学校の寮に住んでいる2つ下の弟と乳兄弟、4つ下の双子の5人である。休みの日がくるたびに、普段はミーシャ1人の家に5人揃うことになる。
時たま、父の友人が様子見がてら土産持参で来てくれるが、彼らと兄弟以外、王都の家に訪れる人は数少ない。
「ミィー」
「なにー?」
朝早くに高等学校から家にきて早々剣の稽古を始め、その後昼食をとった。その片付けをしていると、すぐ下の弟のマーシャルから声がかかった。
「母様から手紙きてる」
「あら、そうなの。気づかなかった」
「中身なんだろうね」
「さあ?」
洗い物していた濡れた手を拭いて、マーシャルから封をされた手紙を受けとる。
気が利くことにペーパーナイフまで持ってきてくれた彼にお礼を言いつつ、封を開ける。
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愛する子供達へ
お元気でしょうか?
なにか困ったこと等はありませんか?
こちらは皆元気すぎる程元気に過ごしています。
今回手紙を出したのは、実はお母さんとチーファが旅行に行くことになったから、そのお知らせです。
イーシャとエーシャは何度も会ったことあるでしょうけど、去年来たばかりの火の神子のリーを含め、四大神子全員で四大国巡りの旅をすることになったの。
各宗主国に一週間ずつ滞在して観光するのよ。
面子は四大神子と各将軍、それから、うちの神官長とチーファ、アマーリエとアーダルベルトの12人の大所帯よ。
中々すごいでしょ。
行くのは七の月の第一週の月曜からよ。
土の国には第三週の月曜に着く予定で、王都に2日、領地に5日間滞在する予定なの。
仕事や学校があるから、まるっと休んでもらうのはさすがに申し訳ないんだけど、リーとはミーシャ達まだ会ってないでしょ?
会いたがってるから、1日だけでもお休みしてくれないかしら?
勿論滅多にない機会だから一週間休んで私達と行動を共にしてもいいわよ。
そこはあなた達各自の判断に任せるわ。
学校をお休みするなら、早めに知らせて頂戴ね。学校に私からお手紙書くから。
詳しいことは陛下か将軍がそっちの家に来たときにでも聞いて頂戴な。
それじゃあ、そういうことだから宜しくね。
何か困ったことや足りないものがあったら、いつでも連絡して下さい。
ご飯はちゃんと食べて体に気をつけるのよ?
母より。
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「「母様なんだってー?」」
手紙を一通り読み終えると、リビングのテーブルで学校から出された課題をしていた双子が近くに寄ってきた。
「なんか、四大神子全員で四大国巡りの旅に行くんだって。」
「え、そうなの?母様が旅行って初めてじゃない?」
「四大国巡りってことはうちの国にも寄るの?」
「みたいよ。七の月の第三週の月曜から王都に2日、それから領地に5日滞在予定だそうよ。火の神子のリー様が私達に会いたがってるから1日でもいいから仕事と学校お休みしてくれないかしら、だって。一週間まるっと休んで母様達に同行するかは各自の判断に任せるってさ」
「「学校休むー!!」」
「即答かよ。まぁ、俺も休むけど」
「マーシャル達は兎も角、俺はどうしたらいいのかな?」
乳兄弟のロバートが考え込むように顎に手をやった。
「ロバートも一緒に休もうぜ。ロバートもうちの家族だろ」
「うーん。四大神子様達だけなら兎も角、将軍まで一緒なら乳兄弟ってだけの俺も一緒はまずくない?失礼にならないかな?」
「そこらへんは母様が上手く言うだろうから大丈夫よ。端からみたら単なる乳兄弟でも、私達からしたら家族だもの。リー様も多分まだ会ってない母様の家族に会いたいんだろうから、当然ロバートも会いたい人の中に入ってるわよ」
「そうかなぁ?」
「「絶対そう!!」」
「リー様にはロブのことも話してるし!」
「ロブにも会ってみたいって言ってたし!」
「そうなの?」
「「うん!」」
「じゃあ、ロブも一緒ってことで決定な。ミィはどうすんの?」
「私なぁ……どうしようかしらね。夏休みを早めに取らせてもらう形にしようかしら。手紙にも書いてあるけど滅多にない機会だし」
「じゃあ、皆参加ってことで、手紙書いちゃおうぜ。善は急げだ!」
「「いえーい!!」」
楽しそうに、早くもはしゃぎ始めた弟達にミーシャも7の月が早く来ないか、と待ち遠しい気持ちになった。