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今より遥か昔。
大いなる光の神は伴侶たる闇の神と共に一つの世界を創った。
世界は幾ばくかの歪みがあれど、おおよそ神々の満足いくものに仕上がった。
一通り世界を創り終えると、神々は4柱の兄妹神にその管理を委ねた。
風の神、水の神、土の神、火の神。
4柱の神々は最初はただ神々の住処より地上を眺めるのみだった。地上では様々な生き物が生まれ、滅び、また生まれ、長い時をかけて多くの生命が育まれていった。
人もその一つ。
人は神々の祝福をその身に宿しながら、群れて生活を営み、やがて幾つもの国となった。
人の数も国の数も増えると、彼らは争い、世界は乱れた。
乱れた世界を憂いた神々は、彼らが管理する世界とは異なる世界より4人の者を導き、彼らを神子として地上に遣わせた。
地上に遣わされた神子達は、其々の神の祝福を受けており、人とは比べることさえ馬鹿らしい程の力をその身に宿していた。
そして、其々の神の祝福を受けし民をまとめ、その中から特に神々より寵愛を受ける者、すなわち王と成るものを選び、国を創った。
風の神の祝福を受けた神子と王は風の国を。
水の神の祝福を受けた神子と王は水の国を。
土の神の祝福を受けた神子と王は土の国を。
火の神の祝福を受けた神子と王は火の国を。
それらの国はいつしか宗主国と呼ばれるようになった。
世界の大部分をしめる大陸を4つに分け、各々の宗主国を中心とする国々が生まれた。
時が経ち、大小様々な国ができても、宗主国だけは変わらずあり続けた。
宗主国は神々より寵愛を受けし王と神子の存在により、世界にとって特別な存在となった。
神子は世界の調律の為に、また神々より寵愛を受けし王を護る為に、異なる世界からこの世界へと訪れる。
それが、この世界の理である。
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ミーシャの母は当代の土の神子である。
父は王兄で、今は公爵としてサンガレア領を治めている。
神子は全て異なる世界から神々の導きによってこの世界へ舞い降りるそうだ。
今は神子の母も、異世界では一庶民として普通に暮らしていたらしい。
母が神子として、この地上に現れるまで、ミーシャが生まれ育った土の宗主国は戦ばかりのあまり豊かではない国だったそうだ。
それというのも、およそ2000年前、火の神子と火の王族が土の国を襲撃し、当時の土の神子と土の王族を殺したことから始まる。
火の神子は土の神子を殺した後、土の神子の献属である土竜に殺された。
そして土の神子は殺される時に、おぞましい呪いを振り撒いて生き絶えた。
呪いは土の国全域に広がり、進軍してきた火の民も逃げ遅れた土の民もなにもかも巻き込んで、土の国を死の国へと変えた。
土竜が国全体を囲うように、自らの命と体を要に結界を造ったため、それ以上呪いが広がることはなかったが、かつて土の神の祝福を色濃く受けた豊かな大地は草の一つも生えぬ、死の大地と化した。
何人かの側近達が、赤子だった王族を一人連れて、かろうじて逃げだすことができた故に今でも宗主国として国がある。
逃げ出した彼らは元々国があった所より離れた場所に長い時をかけて、新たな国を造った。
元々あった国は滅べども、土の神の祝福を受けた王を戴く以上、土の宗主国であることには変わりない。
土の宗主国は、土の神の恩恵を受けようとする近隣の様々な国と、2000年前の火の神子らによって加速度的に荒廃への道を歩んだ火の国より、比較的豊かな土地を狙って幾度も戦を仕掛けられた。
2000年ぶりに顕れた当代土の神子は、死の大地と化す原因となった呪いを浄化し、当時将軍であった王兄と結婚した。そして、かつての土の国をサンガレア領として、夫と共に領地の造営と復興に尽力を尽くしている。
当代の王らと協力して、戦を仕掛けられぬよう、土の神子と土の宗主国という存在を舐められぬよう、時に絶大なる神子の力を見せしめ、国内外に土の神子という存在を知らしめた。
そのお陰で、ミーシャが生まれる前から戦とは無縁でいられている。