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三日という日数は本当に早く過ぎ去った。
マーサ達神子はリーと自身のための戦闘訓練に昼夜問わず明け暮れていた三日間だった。
リーはその間、一度も泣いたりせず、弱音を吐くこともなかった。火の神子になって一年近く、剣を習っていただけあって、マーサより魔力の使い方を体に叩き込まれたら、十分使えると判断されるだけのものになった。
マーサ達が戦闘訓練をしている間、ミーシャ達も土の神官長監督の元、結界の訓練をしていた。
ミーシャ達、神子の血を引く者は、一般の人間に比べて遥かに大きな魔力を有しており、また生まれながらにして結界を得意とする土の神子の祝福を保持しているため、今回年長の姉弟に白羽の矢がたった。
父リチャードは、土の神子の献属を一体、マーサから譲渡されているため、それに伴い、大きな魔力と祝福を得ていた。
神子の子でないのに、リチャードも仮称結界班に組み込まれたのは、それが理由である。また、双子はまだ安定しきっておらず、一人では不安なため二人一組として数えられている。
ミーシャ達、兄弟全員、一般的に魔力が発現するとされる10歳の頃から母親のマーサに結界術を叩き込まれている。
失敗は許されない。
領主である父は祖父を領主代行にし、自身はミーシャ達と、何度も術式の確認と練習を行った。
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神々より武器が届いたのは瘴穴が開いてから四日目の朝のことであった。
その間にマーサが一人で張った第一の結界は破られていた。
これからの運命を決める朝は、拍子抜けするほど『普通』だった。
マーサが作った大量の朝御飯を皆で食べた。久しぶりに食べる母の味噌汁と卵焼きに舌鼓をうつ。山盛りのご飯をおかわりし、生姜の香り高い豚の生姜焼きやほうれん草たっぷりのキッシュ、ジューシーなミートローフ等をおかずにご飯をかきこむ。
腹が減っては戦はできぬ。
その精神により、皆満足いくまで母の手料理を食べた。
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ミーシャは一人で火の国の大地に立っていた。
目視できる距離にはいないが、瘴穴の結界を中心に四方数キロ離れた場所がそれぞれの配置である。
耳には魔導インカムをつけ、目の前には魔導遠視装置のモニターがある。
これで結界内部の神子達の様子を見ることができる。
ミーシャの心は今、不思議と凪いでいた。
母達を信頼しているということもあるが、どこか現実離れしている感が否めないからだ。
母達がしくじれば、自身の肉体と魂を要に結界を張らねばならない。
つまり、ミーシャは死ぬということだ。
ミーシャだけではなく、同じく要となる父や弟達も一緒に。
ミーシャが女だてらに剣を習い始めたのは、下の兄弟達を守るためだ。だというのに、弟達が一緒なことに、一人ではないと安堵している自分がいる。
(姉失格だわ)
どこか冷静な自分の中の自分が、そんな自分を嘲笑った。
戦闘は午前10時より開始される。
現在時刻は9時55分。
先程通信状況を確認するためにインカムに通信が入ったが、今は静かである。
モニターを見れば、マーサは呑気に煙草をふかしていた。母が煙草を吸っているところなんて初めて見る。
背丈も顔も子供みたいなのに、とても様になっていたのが、なんだか可笑しかった。母はいつもと違うけど、いつもと同じように笑っていた。
あと1分で戦闘開始だというときに神子達は円陣を組んだ。
『吹き飛ばせ!
斬り倒せ!
ぶち抜け!
燃やし尽くせ!
いくぞぉぉぉぉ!
おおぉぉぉぉぉぉ!』
叫び声と共に、神子達は四散した。
戦いが始まった。