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ミーシャ・サンガレアは、今極度に緊張していた。


王都国立高等学校薬学科を卒業し、王宮薬師試験に無事合格して、今日が初出勤だからである。


ミーシャは少々特殊な生まれで、更に規格外な肉体を持っていた。そのせいで高等学校では結局誰一人も友達ができなかった。

高等学校入学の時より、愛する故郷から離れ、王都へとやって来た。元々親しく、なにかと面倒をみてくれている王都在住の父の友人達以外、親しい人はいなかった。


これからまた新しい環境に身を置くことになる。

今度こそは仲良しな人を作りたい。

休みの日に一緒に遊びに行ったり、他愛もない話で盛り上がったり、悩みを相談しあったりできるような、そんな自分と対等な友達が欲しい。

切実に欲しい。


ミーシャは緊張で汗ばむ手をぐっと握りしめ、友達絶賛募集中という願いを胸に職場となる王宮薬師局へ歩みを進めた。







ーーーーーーーー


季節は春である。

麗らかな陽射しが窓より射し込み、柔らかな陽気が室内にも溢れている。普段は物静かな王宮薬師局も今日はどこか浮き足だった雰囲気がある。

それというのも、本日付で新人が入ってくるからである。

一体どんな子が入ってくるのか。

なんとなく、いつもより早めに出勤していた職員達は新人がやって来るのを今か今かと待ち構えていた。


王宮薬師局の出勤時間は午前9時である。

その30分前には薬師局長を筆頭に職員全員が揃っていた。

それぞれ自分のデスクに座りながら、思い思いに今日来る新人の話題等の世間話をしていた矢先、コンコンッと入口のドアがノックされた。


局長の入室を促す応えに、薬師局のドアがゆっくり開いた。



「失礼します。本日付で王宮薬師局に配属になりました、ミーシャ・サンガレアです。よろしくお願い致します」



そう言って室内に入ってきた人物に対して、その時、局員の思いは一つになった。


(でかい!)


その人物は兎に角でかかった。

男性の平均身長がおおよそ195センチであるのに対し、それよりも下手したら頭一つ分以上大きい。

そして何より驚くべきは、男性でも滅多にいないような高身長の持ち主が女性だということである。

その上、身長も人並み以上なら、容姿も人並み以上だった。

三つ編みにされた茶色の長い髪は艶やかで、にこりともしない透き通るような白さの顔は、まるで計算し尽くされた彫像のように冷たく整っている。


つかの間、沈黙が室内を支配した。



「やぁ、ミーシャ君。こちらへおいで」



薬師局長の一声で沈黙は破られた。


彼女は、「はい」という声ともに足音なく室内を横切り、部屋の最奥にある局長のデスクの前に立った。



「試験の時に会ったけど、改めて自己紹介しよう。王宮薬師局長のビリーディオ・ハインケルだ。今年の新人は君一人だからね。これからよろしく頼むよ」


「よろしくお願い致します」


「じゃあ、諸々の説明の前に、局員の皆に自己紹介してもらおうかな。丁度全員いるから」


「わかりました」



くるりと振り向いたミーシャ・サンガレアは愛想笑いを浮かべるでもなく、冴え冴えとした無表情で口を開いた。



「ミーシャ・サンガレアと申します。今年で19歳になります。サンガレア領出身です。趣味は狩りです。父親に似たせいで表情筋が残念極まりない為、無愛想かつ無表情に見えるかもしれませんが、顔に出ないだけで、どちらかと言えば感情豊かな方だと思います。不慣れ故にご迷惑をお掛けすることも多々あるかもしれませんが、一生懸命頑張りますので、何卒よろしくお願い致します」



ミーシャ・サンガレアはペコリと頭を下げた。






ーーーーーー


ミーシャは歩きながら憂鬱な溜め息を吐いた。


(今年の新人、私一人なんて聞いてない……)


せめて同期が一人でもいたら仲良くなりやすそうなのに。指導役になった一番若い先輩でも10年は務めているらしい。

今日は仕事と局内の諸々必要な場所の説明だけで終わった。


(早く慣れるよう頑張らなきゃなぁ……)


高等学校では、威圧感のある父親譲りの死滅した表情筋と高身長、そして若干の人見知りのせいで仲のいい人は作れなかった。

新たな環境にとても期待していたのに、先輩だらけの職場で歳の近い人もいないのであれば仲良くなっても友達にはなってもらえないかもしれない。というか、多分友達になるのは無理だろう。


ミーシャは無意識に丸まった大きな背中に哀愁を漂わせながら、家路についた。





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