プロローグ
赴く儘に書いています。
プロローグ
雪は降っていなかった。
白く染め上げられた街並みなら、きっと思い出すら覆い隠してくれたものを。
中途半端に発展した街並みは、田舎が都会への憧れを体現したかのように、張りぼて感で満ちている。
数年ぶりに降り立った駅は、雪で覆われたイメージの跡形もなく、ただ、時間の流れを俺に感じさせるのに躍起になっているとしか思えなかった。
「やぁ、久しぶり」
転校して・・・いや、逃げ出してから8年。
小学生だった俺も、すでに男子高校生と呼ばれるくらい、時は流れた。
「ねぇ、わたしの名前、まだ覚えてる?」
身長も伸びた。体つきも、しっかりした。
もう、子供じゃない。
「おーい、もしもーし」
あの時の俺は、もういない。
例え、雪が降っていなくても。
例え、街が変わりつつあったとしても。
「ねぇー、ね~ぇ~」
町よ!俺は帰ってきた!
もう、逃げたりしない!!
もう、弱い俺じゃないんだ・・・
「はぁ、しょうがないな~」
ジャラッ
金属音にふと目をやると、そこに一人の女の子がいた。
歳は俺と同じくらいだろうか?
黒く真っ直ぐな髪は背中にかかり、太陽を背にして俺を自分の影へと入れている。
「はい、いくよ?」
ジャラッ
女の子の手が、俺に伸びてくる。
ふっ・・・モテる男はつらいぜ。
この町に帰ってきて、もう逆ナンパかよ。
そう思う心と裏腹に、俺のひざはガクガクと震えだした。
おい、どうしたんだMyヒザーズ(ヒザの複数形)?
何かファニーなハプニングでもあったのかい?
「動かないでねー」
ジャラリ
――――――金属音。
・・・ようやく現実を直視できた。
女の子の手には、首輪が握られていた。
それも、ロックバンドがつけるような周りに金属のトゲトゲがついているヤツだ。
ただ、そんなパンキッシュなファッションアイテムと決定的に異を唱えていたのが・・・
トゲは、首輪の内側につけられていたことだ。
「いっ・・・痛てぇ!!」
「タケちゃんが悪いんだよ?どうせまた妄想か何かに浸ってたんでしょ?
今度は何?ゲームか何かに自己投影してたの?
もう・・・いつまでたっても子供なんだから」
そういいながら、女の子は首輪を俺につけると、紐・・・というか手綱を引き始めた。
「ッ!!!!」
首筋に鋭い痛み。
トゲは容赦なく突き刺さる。
痛みを感じたところから、何か液体が流れる感じがした。
「早くぅ、お父さんとお母さん、待たせちゃってるんだよ!」
クイッ、と手綱を引かれる。
「!!!!!!!!」
声にならない叫び。
首筋には、冷たく硬い感触が潜り込み、二本くらいの液筋が増えた。
―――町よ。
お前は俺より長い時を生きるのに、俺はお前よりも変わることができないのだろうか。
意味のよくわからない考えは、女の子についていくしかない現状を何も隠してはくれない。
雪が降っていたら・・・いや、雪も意味がないだろう。
蝉が鳴き始めた、六月下旬の日曜日だった。
『ぐろーいんあっぷ ワッショイ』
赴く儘に書き垂れています。