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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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告白(司&静斗)

「昨日は……悪かったな」

 私は車を走らせながら呟いた。

 カーステレオの点いていない車内。

 大きくはない声だが聞き取れただろう。

『私こそ……ゴメン。酷い事言ったよね。司が一番私の事分かってくれてるのに……ちゃんと分かってるのに……』

 舞華の手を視界の片隅で読み取りながら私は微笑んだ。

「昨日、あいつと寝たのか?」

 正面を見つめながらも唇を少し吊り上げて尋ねる。

 長い時間……いや、想い合う男女が一晩同じ部屋で過ごしたのだ。

 何かあっても不思議ではない。

『司が考えてるような事はないよ』

 舞華の顔は真っ赤だった。

 両手で顔を覆って助手席の窓の外に向けるが隠しきれていないのが笑いを誘う。

 しかし、静斗という男は本気で惚れると相当奥手らしい。

「でも、さっきキスしてたよな?」

 舞華は弾かれるように私を見た。

 部屋に通された後だったが、私は好奇心で二人の様子を窺っていたのだ。

 舞華らしくない積極的なキスの現場を。

「つい好奇心で」

 まさか私に見られているとは思わなかったのだろう。

 甘いな、私は興味があれば自分の欲求に従って覗く。

 自分の欲には驚くほど忠実な人間だ。

『私の気持ちを大事にしてくれてるって分かってるの。でも、司の言いたい事も分かったから……静にちゃんと好きだって分かってもらえるように態度で示そうかなって……』

 私は手を伸ばして舞華の頭をクシャクシャと撫でた。

「舞華は素直だな」

 しかし、それが更に生殺しの状況にしているとは思っていないんだろう。

 つくづく可哀想な男だ。

 私は苦笑した。

「なぁ、舞華」

 舞華の眼は私に向けられている。

 二人が付き合いを再開した頃から考えていた事を言うのに丁度いい気がした。

「お前の日課の事、静斗に話してもいいか? いつまでもあいつに黙っておくのはいい事だとは思えない」

 控えめな付き合いをしているからこそ、黙っているのは良くないと思う。

 舞華は少し考えるように俯き、目を閉じた。

 唇を薄っすらと噛んでいるのは自分の中で葛藤している証拠だ。

「静斗に隠し事をするのは良くないと思う。あいつはお前の事を心配しているし、多少安心させてやって欲しい」

 あいつは器用な男じゃない。

『司は……静の事好きなの?』

 意外な質問だった。

「舞華、それは人としてという意味で訊いてるんだよな? 男としてじゃなくて」

『男として、だよ』

 舞華の不安そうな顔を見て私は噴き出した。

「私は人としてGEMの奴等が好きだ。でも、あいつ等に男を感じる事はない」

 どいつもいい奴だと思う。

 しかし、恋愛感情は微塵も抱いてはいない。

「性別を越えた友達、かな」

 自分で発した言葉がしっくりと心に沁み込む。

 私は自分の言葉に一人満足した。


 風呂で多少さっぱりした俺はスタジオに向かう準備をしていた。

 舞華と別れて一時間半程が経過していた。

 財布をジーンズの後ろポケットに突っ込み、テーブルの上に転がっている携帯と鍵を掴む。

 スタジオにも煙草を置いてるし、持って行かなくても問題はないだろう。

 歩いて数分の場所だ。

 それくらい吸わなくとも死にはしない。

 コートを羽織り、キーケースと携帯をポケットに滑り込ませる。

 玄関でブーツに足を突っ込んだ時、携帯が鳴り出した。

 朝から誰だ?

 遅刻でもするって連絡か?

 俺はポケットから携帯を取り出して開いた。

「司?」

 また喧嘩でもしたのか?

 俺は通話ボタンを押して耳に当てた。

「もしもし?」

『おう、さっきは悪かったな』

 予想に反して機嫌のいい声。

 無事に仲直りが出来たらしい。

「どうした?」

『今、どこに居る?』

「部屋。これから出るとこ」

『いいタイミングだ、今から車で出て来い』

 九時スタジオだろ?

 どこに呼び出す気だよ?

「おま……」

『舞華を迎えに来い』

 は?

 さっき連れ出したのはお前だろ。

「お前、舞華を何処かに捨てたのか?」

 あいつは喋れないんだぞ?!

 ポケットの中のキーケースをギュッと握り締める。

『いや、まだ敷地内に居る。お前にそろそろ話しておこうと思ってな』

 話しておく?

「何をだよ?」

『聖ルチアに来い。警備員には言っておく』

 一方的な電話は司が切る事で呆気なく終わった。

 舞華が絡んでいるなら選択権はない。

 俺は急いで駐車場に向かった。

 車で聖ルチアの門の前にやって来ると、警備員が警戒したような目で睨んできた。

 まぁ、この(なり)では仕方ないかもしれないが……。

「新井といいますが、ここに……」

「静斗」

 司が時間を計算していたかのようなタイミングでやって来た。

「すみません、連れです」

 警備員に微笑む司の顔はいかにも作り物だ。

「奥の私の車の隣に停めてくれ。ちょっと話がしたい」

 馴染みの警備員なんだろう、俺は特別何かを訊かれるような事もなく敷地内に入ることが出来た。

 エンジンを止めた車の正面に教会が見える。

「舞華は?」

「黙って付いて来い」

 司はさっさと歩いて行く。

 どう考えても教会に向かっている。

 階段を上って扉を少し開けた時、舞華の背中が見えた。

 一人ではない。

 隣に白髪の混じったおばさんの姿も確認できた。

 司は俺のコートを軽く引っ張って階段を下りていく。

「おい、司」

「舞華の日課だ。毎日、朝と夕方にここで祈ってる」

 司の言葉に俺は夕方姿を消す事を思い出した。

 毎日、ここで祈っていたのか?

「あの事件から一日も休む事無く通い続けてる。お前には知られたくなかったみたいだから話せなかったが、さっき許可を貰った」

 司は階段に腰を下ろして空を見上げた。

「隣に居るのは信也の母親だ。最近、朝は結構な頻度で顔を出している。夕方はあまり見掛けないけどな」

 司は頭を垂れ、腕時計を見ながら話し始めた。



ご覧頂きありがとうございます。


体調不良のためコメントなしですみません。

次回更新 8月27日です。

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