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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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深憂(信也&司)

信也は病院から帰ってくる途中にメールを受け取ったようです。

 涼からメールを貰った俺は、帰りがけにコンビニに立ち寄り、ビールを大量に買い込んで涼の部屋に向かった。

 集合が掛かった時ってのは両極端でその場に行くまで緊張する。

 いい話か悪い話か……。

 メールしてきたのが涼だから余計に分からない。

 英二からのメールだったらいい事ではないと一発で分かるんだが……。

 俺はエントランスの鍵穴にキーを差し込んで軽く回した。

 背後で何か物音が聞こえたような気がして振り返ったがそこには何もいなかった。

「気のせいか……」

 俺は首を傾げながら自動ドアを抜けてエレベーターのボタンを押した。

 気になってエントランスの様子を見ていたが、やはり誰もいない。

 気のせいならいいんだが……。

 エレベーターを降りた俺は自分の部屋を通過して涼の部屋のインターホンを鳴らした。

「鍵開いてるよ」

 いつもと変わらない涼の口調にほっとする。

 しかし、リビングに足を踏み入れると、ほんの少し前に感じた安堵感は吹き飛んだ。

 葬式のような空気……。

「お疲れ」

 涼が驚いた顔の俺に苦笑した。

「取り敢えずビールでも飲むか」

 昔から変わらない俺達の習慣だ。

 俺が買ってきたビールをテーブルに置くと各々好きな銘柄を手に取ってプルトップに指を掛ける。

 プシュッという音がして、俺達は無言で一缶を飲み干した。

「僕と静斗、事務所に戻ったでしょ……?」

 口を開いたのは涼だった。

「その時、舞ちゃんが結城さんの膝枕で寝てたんだよね」

 意味深な物言いだが、俺達は黙ってビニールから新しいビールを取り出す。

「市原君、クビになってたって知ってた?」

 涼の視線は俺に向けられていた。

「あぁ。俺と司の前でそんな事言ってたな」

 舞華と市原が関係があるとは思えなかったが、俺は素直に答えた。

「今日、結城さんと舞ちゃんがお茶した帰りに市原君と鉢合わせしちゃったんだって」

 涼はビールを手に取って無意味にプルトップを爪で弾いている。

 静斗は窓の外を眺めながら煙草を銜えている。

 その顔色は頗る悪い。

「でね、市原君……GEMを許さない、って言ったらしいんだ」

 俺は涼の顔を睨むように見た。

「舞ちゃん、あの時の事思い出して取り乱しちゃったらしいんだよね」

 あの時の事……。

 舞華が麗華と間違われた時の恐怖。

 麗華があの男に刺された時の恐怖。

 どちらも舞華のせいじゃないのに、舞華は今でも自分を責めている。

 また、舞華が巻き込まれたのか?

「美佐子さんにも電話が来たらしいよ。同じ内容で、市原君から」

 グシャッ、と缶の潰れる音がした。

 音の発信源は静斗。

 飲み終えたビールの缶を握り潰している。

「静斗! 手っ!」

 涼は静斗から缶を奪い、その手を引っ張って水道の水で洗い流している。

 床の上には点々と静斗の手から流れ落ちた血がキッチンまで続いていた。

「舞華は?」

 英二が立ち上がって涼に尋ねた。

「今司ちゃんが付き添ってる。あ〜もぉ、結構深いじゃん!」

 涼は傍にあったタオルで静斗の手を包むと玄関に急ぐ。

「ちょっとゴメン、病院行って来る!」

 その行動力と判断力には感心してしまう。

 残されたのは事情の分からない俺と英二。

「ったく……またかよ」

 英二が煙草を銜えながら苦々しい表情で呟く。

 俺達は二人が戻るまで会話もなく酒と煙草を煽るしかなかった。


 舞華が目を覚ましたのは深夜だった。

 私も慣れない仕事で舞華のベッドに突っ伏すように眠ってしまっていた。

「起きたのか?」

 布団が動いて目を覚ました私は舞華に声を掛けた。

『市原さんに会ったの……』

 力の入らない手で舞華が言葉を紡ぐ。

「美佐子さんから簡単に話は聞いた」

 あまり語らせないように私は舞華の言葉を遮った。

『また、私のせいでGEMに迷惑……』

「お前のせいじゃない。お前達に会う前に美佐子さんに電話してきてる。お前達に会ったのはたまたまだ、お前のせいじゃない」

 舞華は耳の後ろを押さえて布団に(うずくま)った。

「GEMには用心棒を付けるって言うし、心配はない」

 私は舞華の頭を撫でながら安心させられそうな言葉を探す。

『どうしてGEMだけ? どうして悪い事ばかり起こるの?』

 舞華の手は震えていた。

「美佐子さんに任せておけば大丈夫、きっとすぐに解決する」

 気休めでしかない言葉だと言うのは分かっている。

 舞華が勢いよく起き上がった。

『電話! 司、お母さんに電話して! 麗ちゃんや綾香さんにも誰か付けてって、今すぐに!』

 標的がGEMだからそれに関わる全ての人間が危険だと舞華は思ったらしい。

 大丈夫だと言いたかったが、ここでそれを言えば舞華はまた取り乱しそうな気がして私は逆らえなかった。

 既に深夜。

 美佐子さんだって眠ってるはずだ。

 しかし、私の優先順位では当然舞華の方が上。

 若干申し訳ないと思いながら私は美佐子さんに電話した。

『……もしもし?』

 寝ていただろうダルそうな声に私は苦笑した。

「夜分すみません、杉浦です。舞華が目を覚ましたんですけど、麗華や綾香にも誰か付けてくれって言うもんで電話したんです」

 明日でも良かっただろ、って言われそうな気がしていたのだが、美佐子さんの反応は違った。

『舞ちゃんがそう言ったのね?』

「はい」

 ほんの少しだけ美佐子さんは黙った。

『分かったわ。今から手配しておくから、舞ちゃんにはそう伝えて』

 さすが母親。

 舞華と麗華の事となると行動が早い。

「聞こえたか?」

 音のない部屋の中だ、電話の声は充分に聞き取れただろう。

 舞華が小さく頷いた。

「じゃあお願いします」

 私はそう言って電話を切った。

『ありがとう』

 舞華はそう言って哀しげな笑みを浮かべた。

「静斗呼ぶか? あいつお前の事心配しながら帰って行ったぞ?」

 舞華は驚いたように私の顔を見上げた。

「さすがに私がお前をここまで運べるわけないだろ」

 舞華は乱暴に髪を指で梳きながら俯いた。

「あいつ、お前が望むなら来るってさ」

 静斗が舞華の傍に居られない理由は男の事情だろうとは思うが、それは舞華に話したところで分かる訳がない。

「舞華、お前……静斗との付き合いに線引きしてるだろ?」

 私の言葉に舞華は答えない。

「さすがに不憫だと思う。二年もお前に付き合って距離を置いてたのに、やっと元の鞘に納まったと思ったらお預けってのは静斗じゃなきゃ捨てられてるだろうな」

 今の舞華にはキツイ言葉かもしれない。

 でも、一人で何でもやろうとする舞華は見たくない。

 私の勝手なお節介だってのは分かっている。

 それでも、私や美佐子さんに甘えてこない舞華が心配なのも分かって欲しい。

 私だけじゃない。

 舞華と仕事をしている仲間もGEMの奴等も同じ心配をしているはずだ。

 舞華が仕事に打ち込めば打ち込むほど周囲は不安になっている。

「仕事に縋るな。何のために静斗が居ると思ってるんだ? 惚れた男に甘える事もできないのか?」

 舞華が布団を握りしめながら私を睨んだ。

『司に何が分かるの?!』

「じゃあ、お前は私達の気持ちが分かるのか?!」

 売り言葉に買い言葉だった。

 自分が短気だという事は自覚していた。

 しかし、舞華相手にキレたのは初めてだ。

「お前が一人で無茶してるのを見てる事しかできない私達の気持ちを考えた事なんかないだろう?! 静斗の事が最悪の例じゃないか! お前があいつを避けてる間、あいつはお前のためにに手話を勉強してたんだぞ! お前がそれを知ったのは最近だろう?! 気付こうともしなかった! 違うか?! お前は自分と麗華の事しか考えてなかったんだ! 周囲がどんなに心配したってお前は気付こうともしない、私達が勝手に心配してるだけだって思ってたんだろ?!」

 こんな事言いたいわけじゃない……。

 そう思っているのに、私の口は舞華を責めた。

 “やってはいけない事” だと分かっていても止められなかった。

『違う! 違う……』

 舞華が両手で耳を塞いで首を振る。

 そんな舞華の両手を耳から引き剥がした。

「頼むから……誰かに甘えてくれ、お前に何かあったらM・KもGEMも駄目になる」

 その言葉だけが本心だった。

「私は……お前まで失いたくない」

 舞華の寝室を出た私は、携帯を取り出して静斗に電話した。

『司、どうした?』

 静斗はすぐに電話に出た。

「悪い、今から来れないか?」

『……どうした?』

「すまん、舞華と喧嘩した」

 電話を切って舞華の部屋の外に出ると、周囲の高層マンションの間から吹いて来る冷たい風が身体にぶつかってきた。

 頭を冷やすには丁度いい。

 私は舞華の部屋の玄関前で胡坐を組んで座り、髪を掻き乱した。



ご覧頂きありがとうございます。


信也の感じた人の気配。

静斗の怪我。

司と舞華の喧嘩。

一気にきましたね。


次回更新7月23日……の予定です。



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