事件(麗華&舞華)
麗華は気付いてしまったんです。
そして、舞華も誰よりも早く麗華が消えたことに気付いたんです。
双子って似てるだけじゃなくて、見えない何かが繋がってるんです。
GEMのステージを眺めていた私は視線を感じていた。
その方向には忘れもしない、あの男が立っていた。
私と舞ちゃんを間違えた男・・・。
私はあの男の存在を周囲に気付かれないように、いつも通り振舞った。
そして、皆と一緒に控え室に戻った。
あの男と話さなきゃ・・・。
皆は今日の出来に満足だったらしく興奮気味だ。
今なら抜け出せる・・・。
私は少しずつ扉に近付き、そっと部屋を出た。
「麗華」
忘れもしない、腹立たしい声。
「やっと会えた」
男は私に近付いてきた。
「場所変えようよ。ここじゃマズイから」
私の言葉に男は頷いて歩き出した。
私は黙って男の後ろに付いて行った。
男が向かったのは非常口。
「で?何の用?」
男の足が止まったのを確認してから私は口を開いた。
「言ったじゃん。俺の所に戻って来いって」
「嫌だって言ったじゃん。大体、私と舞ちゃんを間違えるってどう言う事よ?」
それが一番許せない。
私がパーマ掛けたりブリーチしたりしてるのは間違われないためなのに。
それでも間違う馬鹿が居るとは思わなかった。
「麗ちゃんだと思ったんだよ。昔みたいに髪型とか戻したのかなって」
「ありえないから。私と舞ちゃんを間違えるような奴の所になんか行かない」
惚れてる女かどうかも分からないような奴、信用なんか出来ない。
「そんなに信也がいい訳?」
「そうだね、少なくとも私と舞ちゃんを間違えるような事はしないし」
信也がいいんじゃない。
信也じゃなきゃ駄目なんだ。
「間違えたのは悪かったよ」
「ヤるだけならいくらだって相手が居るでしょ?私じゃなくていいじゃない」
「俺は麗華が好きなんだ」
「よく恥ずかしくもなく言えるよね、私かどうかも分からないくせに」
苛々する。
「もう信也以外の男とは寝ないって決めたの」
私は男の目を見て言い切った。
「何で?今までみたいな関係でもいいじゃん」
「結婚するの。信也と」
男は目を見開いた。
「な・・・何で!俺はどうなる訳?!」
「お互い遊びだって言ってたじゃない。今更そういうのやめてよ」
そう、お互い遊びだと確認してから関係を持ってきた。
本気の男は居なかったはずだ。
「俺は本気だったよ、すっと麗華を見てたんだ」
「とにかく!もう終わり、誰とも付き合わない」
「何で急に結婚なんて・・・まさか・・・!」
男の眼が私のお腹に向けられた。
「そ、出来ちゃったんだよね」
ヘラヘラと笑いながら答えたが、次の瞬間自分が余計な事を口走ってしまったと悟った。
男の眼が怒りを含んでいた。
危険だ・・・。
私は一人で来た事を後悔した。
皆の言う通りにしておくべきだった。
「子供が出来たから結婚するんだ?」
男がジリジリと近付いてくる。
「じゃあ、その子供が居なくなれば結婚する理由もなくなるよね」
・・・え?
それって・・・どういう事・・・?
男は不気味な笑みを浮かべてジーンズの後ろのポケットに手を差し込んだ。
「舞華!」
麗ちゃんを探しに出た私の腕を静が掴んだ。
「麗ちゃんがっ・・・麗ちゃんが居ないの・・・!」
早く探さなきゃ・・・。
女子トイレには居なかった。
あの男の人に会ったのかもしれない。
私は不安だった。
「あぁ、メンバーも気付いて皆で手分けして探してる」
静の言葉に私は小さく頷いた。
静に手を握られて私は走り出した。
広い施設の中、どこを探していいのか分からない。
麗ちゃんは私よりもこの施設の内部を知らない。
知らなくても行ける場所・・・。
男性トイレも人が出入りするから行かないだろう。
ステージ周辺は人が多い。
今日は空いてる部屋もない筈・・・。
「・・・非常口・・・」
私は顔を上げて非常口の方向を確認した。
「静、非常口っ・・・!」
私は静の手を引っ張るように走った。
そこ以外思いつかなかった。
施設の内部を知らない人でも行ける場所は限られている。
一番分かりやすいのは非常口だ。
鍵は内鍵だけだから簡単に開けられる。
人も出入りしない。
目の前に非常口の緑色の光が見えた。
静は私の手を離して扉に向かって全速力で走り出した。
鍵は開いていたらしい。
勢いよく扉が開けられた。
壁にぶつかった扉の音が廊下に大きく響いた。
「麗華!!」
嫌な予感がした。
静の顔は真っ青だった。
やっと辿り着いた非常口の外には、あの男の人と麗ちゃんの姿があった。
「ま・・・」
私の目の前で麗ちゃんが地面に崩れ落ちた。
「麗ちゃん・・・!!」
麗ちゃんのお腹には刃物が刺さっていた。
そこから滴る血を見て、私は両手で口を押さえた。
麗ちゃんの身体から流れ出る血が地面に染みを作っていく。
「てめぇ!!」
静が男の人を殴り飛ばした。
「麗っ・・・華が・・・悪いんだっ・・・!」
男の人が静に殴られながら言葉を発する。
私は麗ちゃんに駆け寄って麗ちゃんの手を握り締めた。
「誰か・・・!誰か来て!」
私は自分の出せる精一杯の声で助けを求めた。
「誰か・・・麗ちゃんを助けて・・・っ!」
扉の音を聞きつけたらしくたくさんの人が走ってきた。
「麗華!!」
信也さんの悲痛な声がした。
「誰か、救急車と警察!」
「早く!」
若林さんや金森さんの声も聞こえた。
信也さんが私を押し退けるようにして麗ちゃんの前に膝を付いた。
「麗華・・・!」
「し・・・や、ごめ・・・」
小さな小さな声で麗ちゃんが言った。
「今、救急車来るから!もう喋らなくていいから!」
信也さんが麗ちゃんの顔を何度も何度も撫でて涙を流していた。
私は地面に座り込んだまま動く事が出来なかった。
手にも服にもベッタリと麗ちゃんの血が付いていた。
何も考えられなかった。
ただ・・・目の前が麗ちゃんの血の色に染まって、私は真っ赤な世界の中にいた・・・。
ご覧頂きありがとうございます。
麗華が刺されました。
周囲の人間は皆見てしまいました。
相当ショックでしょう。
せっかく前に進み始めたのに・・・。
これからどうなっちゃうんでしょう。
今日は3作4話UPの日。
結構キツイ・・・。
2作UPも結構しんどいのに。
何でこんな馬鹿な真似をしてしまうんだろう・・・。
自分が分からない・・・。
☆次回更新12月22日です☆
わぁい♪同居人が帰ってくる日だぁ。
緊張の日々がやっと終わる〜。
長かったなぁ・・・。