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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
73/130

変化(舞華&信也)

夏休みも残り十日。

今日も彼女はここに居ました。

司は課題を全て終わらせて暇だったらしい。

その後、私が出掛けるたびに付いて来た。

GEMはABELでのライブを暫くやめることにしたらしい。

今日もM・Kの所有するライブハウスでライブをする事になっている。

気が付けば夏休みも後十日しか残っていなかった。

「あっついなぁ・・・」

司は私の目の前でタンクトップに丈の短いジーンズというラフ過ぎる姿で長い足を惜しげもなく披露しながら寝転んでいる。

確かにフローリングは冷たくて気持ちいいけど・・・。

「司・・・行儀悪いよ・・・」

「お前しか居ないのにカタイ事言うな。大体何でクーラーをつけないんだ、あれは飾りか?」

司は暑さで苛々しているらしい。

「だって・・・ここは静の部屋だから・・・」

「いいんだよ、お前が居る事は分かってんだから。これでお前が熱中症にでもなってみろ、M・Kに迷惑が掛かるんだぞ?」

司はどうにかしてクーラーをつけさせようとあの手この手を考えているらしい。

「嫌なら自分の部屋で寛げばいいのに・・・」

「何でお前はそんなに涼しい顔してるんだ?」

涼しくなんかない。

「暑いけど・・・」

司ほど辛くはない・・・かな。

司は暑がりだし・・・。

「クーラー・・・」

「あと一時間もしたら出掛けるんだし・・・」

「一時間も我慢すんのか?!」

「つっ・・・司、窓開いてるし・・・」

そんなに大きな声出さないで・・・。

「・・・そういえば、麗華も一緒に行くのか?」

「麗ちゃんは信也さんと一緒のはずだけど?」

信也さんは麗ちゃんを自分の傍から離さないし・・・。

「何だかんだ言いながら結局納まるべき所に納まったな」

司が大の字に寝転んだまま呟いた。

「そうだね」

私は司を眺めながら小さく答えた。

「よし!舞華、出掛けるぞ。暑い!」

とうとう限界に達したらしい。

司は起き上がるとさっきまでのトドっぷりはどこへ行ったのか、テキパキと戸締りを始めた。

おそらく駅前のド○ールに行く気だ。

そして電車が来る数分前までそこで涼むのだろう。

戸締りを終えた司は半袖のジップアップパーカーを羽織って外に出た。

私はカットソーワンピースにボレロを羽織って大人しく司の後に付いて行った。

駅に着くと先ず、券売機で切符を購入する。

そして店の中へ・・・。

「天国・・・」

司は店の奥に陣取って椅子の背凭れに寄り掛かって天井を見上げた。

甘そうなアイスココアを見ながら私は苦笑した。

「舞華・・・例の男にはその後会ってないんだろ?」

「・・・うん、でもちゃんと話し合いをしたいみたい」

結城さんはABELに通ってあの男の人を探してるけど、まだ見つからないらしい。

信也さんも話し合いをするまで安心できないと言って麗ちゃんの傍から離れないし・・・。

夏休み中に何とか解決するといいんだけど・・・。

私はアイスコーヒーをストローで掻き混ぜながら溜め息を吐いた。


昨日の晩、母さんから電話が来た。

『義姉さんから話は聞いてるわ』

開口一番母さんはそう言った。

「・・・そう」

『ちゃんと男としての責任を取りなさい』

母さんらしくない言葉だ。

伯母さんが上手く話してくれたんだろう。

「あぁ、そのつもりだ」

『今から家に帰って来なさい』

「何で?」

『帰ってくれば分かるわ』

母さんはそう言って電話を切った。

さすがにシカトできないだろう。

「信也?」

麗華が怪訝そうに俺を見ていた。

「母さんから呼び出しだ」

だからと言って麗華を一人部屋に残す気もない。

俺はタクシーを呼んだ。

バイクの方が早いが今の麗華を乗せるわけにはいかないからだ。

すぐにタクシーはやって来た。

実家では母さんと姉さんが待っていた。

五つ上の姉さんは高校教師をしている。

追々母さんの跡を継ぐ気なのだろう。

「あ、冴子さん」

麗華は姉さんの顔を見ると母さんを無視してそちらに向かった。

「信也、ここに来なさい」

母さんはリビングのソファのど真ん中に鎮座していた。

息子が言うのもどうかと思うが・・・デカイ態度、一体何様だ?

俺が母さんの傍に行くと小さな溜め息を漏らした。

「座りなさい」

俺は黙って母さんの目の前のソファに腰を下ろした。

「何の用?」

シャツの胸ポケットから煙草の箱を取り出しながら母さんに尋ねた。

「妊婦の前で煙草はやめなさい」

母さんらしくない言葉だ。

俺は黙って煙草の箱をポケットに戻した。

「渡したい物があったのよ」

渡したい物?

母さんはテーブルの上に一枚の書類を乗せた。

「まだ出してないでしょ?」

婚姻届・・・。

「姉さんが居るのはそういう訳?」

保証人の欄がある。

それも二つ。

「私の目の前で書いて頂戴」

母さんはそう言ってボールペンを書類の上に置いた。

俺は戸惑う事無く必要事項を記入していった。

「必要書類はこちらで用意したわ。都合のいい日に提出して報告して頂戴」

顔を上げると厳しい顔をした母さんと視線がぶつかった。

「男としての責任って言うのは先ずこれでしょう?いつまで放っておく気だったの?」

「最近忙しかっただけだ。その話だって伯母さんから聞いてんじゃないのか?」

「M・Kと契約したんですってね。まったく・・・親に黙って何を考えてるのよ」

「大学を辞めないで済む方法を取っただけだ」

大学を辞めるなら子供を堕ろす、と麗華は言った。

母さんは溜め息を吐いて麗華の背中に声を掛けた。

「麗華、貴女も来なさい」

麗華は嫌そうな顔をしながら俺の隣に腰を下ろした。

「貴女もここ二署名して頂戴」

母さんは記入する欄を示しながら麗華にボールペンを握らせた。

「何・・・コレ?」

「婚姻届に決まってるでしょう?」

母さんは呆れたように答えた。

「書けよ。時間作って出しに行くぞ」

俺が麗華の頭を撫でると麗華は嬉しそうに微笑んだ。

目の前の母さんは多分、麗華の笑顔を初めて見たのだろう。

驚いた顔をしていた。

「義姉さんには話してあるわ。私と冴子で保証人の欄を埋めるから二人で相談して今月中に提出して頂戴」

あと十日か・・・。

まぁ、出しに行く時間くらい取れるだろう。

「叔母さん・・・ありがと」

麗華の言葉に母さんは目が飛び出しそうな位見開いた。

俺も驚いた。

「元気な子を産んで頂戴・・・冴子!」

母さんは恥ずかしかったのか視線を逸らして姉さんを呼んだ。

俺と麗華は顔を見合わせて微笑んだ。

多分・・・今までで一番幸せな時間だったと思う。



ご覧頂きありがとうございます。


婚姻届・・・ようやく記入した2人。

幸せの絶頂・・・なんですかね?

婚姻届って確か24時間受付けしてる筈なんだけど・・・。

麗華に夜道を歩かせたくない信也の気配りなんでしょうか?


更新時間が遅くなってすみません。

体調不良です。


明日から10日連続更新があるというのに困ったもんです・・・。

UPを待ってくださっていた方申し訳ございませんでした。


☆次回更新12月18日です☆



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