語らい(司&静斗)
話はどんどん暗くなっていきます。
双子の過去が少しだけ見えるかもしれません。
八月に入って夏休みの課題も全て終わらせて退屈な日々を過ごしていた。
私は暇を持て余していたので舞華の家に向った。
舞華と居るのはラクでいい。
気を使わなくて済む。
舞華の家の前に辿り着くと見慣れない車が停まっていた。
事務所の人間なんだろうか?
私がインターホンに手を掛けた瞬間庭先から声を掛けられた。
「杉浦さんじゃないですか?」
美佐子さんの事務所の人間だった。
若い小柄な男。
多分私よりも背は低い。
何度か事務所で見たことのある顔だ。
眼鏡を掛けた地味な印象の男は何故か舞華の家の庭先で草をむしっている。
「何してんですか?」
当然の疑問。
「草むしりです」
見りゃ分かる。
「何故貴方がここで草むしりをしてるんですか?」
「社長命令です」
社長命令・・・?
美佐子さん・・・自分がやりたくないからって社員にこんな命令するなよ・・・。
「舞華居ないんですか?」
舞華がこの男と同じ屋根の下に居るとは思えなかった。
「あ〜・・・それはご本人に訊いて下さい」
どういう意味だ?
「えっと・・・この辺に変なのが出没してて警戒するように社長に言われてるんですよ」
それを平然と告げる目の前の男に緊張感はないし警戒心も感じない。
何よりも秘密を持てないタイプだろう。
番犬にならんな、コイツ・・・。
私は携帯を取り出して舞華の家を後にした。
駅に向かいながら舞華の携帯を鳴らしてみる。
『もしもし?』
舞華の声がすぐに応答した。
「私だ。今どこに居る?お前の家に行ったら事務所の人間が草むしりしてたぞ」
『あ・・・静の所にお世話になってるの』
やはりそうか・・・。
舞華の行動範囲は狭い。
静斗の所か事務所しかないとは思ったが、お世話になってると言う事は何日もそこに泊まってると言う事だろう。
また、何かあったのか?
変なのが出没してるって言ってたけど・・・。
まぁ、私から見れば舞華の家に居た事務所の人間が不審者に見えたが・・・。
『どうしたの?』
私が黙っていると舞華が尋ねてきた。
「あ、暇だったから来てみただけだ。そっちに行っても問題ないか?」
『あ、ちょっと待って・・・静、司呼んでもいい?今おうちの前に来てくれたみたいなんだけど・・・』
傍に静斗が居るらしい。
『もしもし、司か?』
「あぁ、暇してたんだ。そっち行っても大丈夫か?」
『いいタイミングだ。俺はこれから出掛けなきゃならないから、お前が構わないなら来いよ』
舞華を置いて出掛けるのか?
「あぁ、じゃあ今から行く。十五分くらいで着くと思う」
『分かった』
短い会話を終わらせ、私は駅に辿り着いた。
切符を買ってタイミングよくやって来た電車に乗り込んで静斗のアパートを目指した。
上手い事電車が来たお蔭で私は十分程で目的地に辿り着いた。
「早かったな」
玄関を開けた静斗は珍しく微笑んだ。
「あぁ、タイミングよく電車が入ってきたんだ」
「じゃ、頼むわ。俺出掛けるから」
何を頼むんだ?
私が怪訝そうな顔をしてると静斗は顎で舞華を指して出て行った。
舞華に訊けと言う事か・・・。
私は部屋に上がり込んだ。
「お前がここに泊り込むって事は何かあったのか?」
舞華は長期の休みだからといって静斗の所に転がり込むような奴じゃない。
何かあったに決まっている。
「実はね・・・」
舞華はゆっくりと話し始めた。
珍しく俺は信也と二人で喫茶店に居た。
呼び出されたのは一時間ほど前の電話だった。
『話がある、ちょっと出て来れないか?』
何の話なのかは訊くまでもなかった。
そして待ち合わせの喫茶店に入って待つ事五分。
信也がいつもと変わらない様子で現れた。
珈琲を注文してから沈黙の時間が流れる。
俺も信也も口を開かずにただ向き合って座っているだけだった。
従業員達は俺達を見て何か言っている。
どうせくだらない事だろう。
「悪かったな・・・急に呼び出して」
向かい合って座ってから十分以上の時間が過ぎていた。
やっと声を発した信也の口から出たのはそんな言葉だった。
「どうしたんだよ?くだらねぇ話なら聞かねぇからな」
GEMを辞めるなんて言い出しかねない状況に俺は先手を打った。
「・・・お前って嫌な奴だな」
信也は苦笑した。
「で?」
俺は先を促した。
「舞華と麗華って昔からずっとくっ付いてたんだ。同じ顔してるからよく苛められてた・・・その時に真っ先に泣いたのどっちか分かるか?」
信也は急に昔話を始めた。
意味が分からない。
「舞華だろ」
「いや、麗華の方。昔は麗華の方が泣き虫で弱虫で、いつも舞華が庇ってた」
意外な話だった。
「中等部に入った頃の苛めが陰湿だったらしくてな・・・心に深い傷を負ったのが舞華、キレたのが麗華。その頃から今の二人が出来上がったんだろうと思う」
麗華が荒れ始めたのは中等部の頃だったって聞いた記憶があるな・・・。
「麗華は間違われないようにパーマ掛けたりして、舞華と違う事をアピールし始めた。母さんはそんな麗華を見て不良だと言い始めたんだ」
今の二人からは想像も出来ない話だ。
「麗華はもともと母さんに良い印象を持ってないから余計に反発して、。その度に母さんは麗華を罵るようになった。もう見てられない、麗華を助けてくれって舞華は俺に頼み込んできた」
おそらくその頃から麗華の耳を見ていたんだろう。
気付いていたのかもしれない。
「俺はそれから麗華を連れて歩くようになって、麗華も俺の部屋に居つくようになった。母さんはそれも気に入らなかった。麗華が呼び出しにも慣れてきた頃、母さんの言った一言が麗華は許せなかったらしい。その次の呼び出しの時、俺と舞華は麗華に呼び出されて理事室に向かった。その時目にしたのが・・・あの光景だった」
リストカット・・・。
「麗華は母さんの束縛から逃げたかったのと同時に舞華に矛先が向かないようにしたつもりだったんだろうけど結果的には失敗だったわけだ。舞華は常に“貴女だけは”って言葉に囚われて身動きが取れなくなっていった」
この時、舞華が麗華を思うのと同じくらいに麗華も舞華を思っていたんだと初めて知った。
「麗華もそればっかり気にしてた。今回の事も相当ショックだったらしい」
信也は髪を掻き乱した。
「あいつが何をするのか心配なんだ・・・暫くABELでのライブをやめてもらえないか?」
信也はコレを言いたかったのか・・・。
「リーダーはお前だろ。それに、そう言う事は俺だけに訊く事じゃない。英二と涼にも聞かせるべき話だ」
信也は再び黙り込んだ。
俺は携帯を取り出して二人にメールを送った。
そして俺達は再び黙り込んで三十分間口を開く事はなかった。
ご覧頂きありがとうございます。
昔は麗華が泣き虫で舞華が庇ってた。
現在と真逆だったと言う事ですね。
人って本当に何かを境に変わります。
え?って思うことも多々ありました。
舞華も麗華も心に大きな傷を抱えてしまってるんでしょうね。
☆次回更新12月14日です☆