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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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寂しさ(舞華&静斗)


ABELでのライブの日。

結城の車でライブハウスに向かう事になった舞華ですが・・・。


いつものライブハウス“ABEL”に向かう途中、駅前まで綾香さんを迎えに行った。

綾香さんは結城さんと初対面。

軽く挨拶を交わした二人は何だか和やかな雰囲気。

静といる時とは雲泥の差。

「あの静斗がよく男の人の車に乗るのを許してくれたわね」

綾香さんはクスクス笑いながら隣に座る私を見た。

「事務所のスタッフですから信用してるんじゃないですか・・・?」

実は凄く不機嫌だったとは言えない・・・。

私は苦笑いで誤魔化した。

「どうだか。俺の顔見た途端敵意剥き出しにした男だからな」

結城さんがハンドルをきりながら微笑む。

「やっぱり・・・静斗って本当に余裕ないんだ」

綾香さんは楽しそうに笑う。

「最近綾香さんが金森さんに似てるって思うのは気のせいですか?」

静を苛めて楽しんでるし、からかうネタを見つけて喜んでいる様がよく似ている気がする。

「付き合ってれば似てくるものじゃない?」

「そんなものですか?」

「う〜ん・・・舞華ちゃん達の場合は静斗が舞華ちゃん化してきてるかもね」

私は首を傾げた。

「間違ってもあんな男に似ちゃ駄目よ?舞華ちゃんは舞華ちゃんのままでいてね」

あんな男って・・・。

それでも私にとって大事な人なんですけど・・・。

私は再び苦笑した。

「でも嫌いじゃないわよ、あのメンバー。何か悔しいけど女の入り込めない結束感って言うか絆があって・・・たまに嫉妬しちゃうけどね」

「綾香さんでもそんな事思ったりするんですね」

何だか意外。

いつも余裕のある女性だと思っていたから。

「そりゃ、自分の好きな男が私よりも仲間を優先したら面白くないわよ」

綾香さんが苦笑した。

何となく分かる気がする。

「でも、音楽やってるときの英二って生き生きしてるし、凄く楽しそうで輝いてるし・・・あんなの見ちゃったら結局文句一つ言えなくなっちゃうのよね」

結城さんは綾香さんの言葉に微笑んだ。

「バンドマンの女が皆君みたいだったら誰も苦労しないんだけどな」

「惚れた弱みですよ」

綾香さんは窓の外を眺めながら呟いた。

「頭の片隅で理解してても不安になるし、不満に思うし、本当は全然納得なんて出来ないけど・・・そう言うしかないじゃない・・・」

綾香さんの小さな声が少しだけ震えていた。

「私も不安でした。でも・・・静が信じろって・・・」

ちょっと前の自分と似ている気がした。

「何よ、ノロケ?」

綾香さんが私の頬を引っ張った。

「はらほひはんほひんほほひへはへへふははひ」

薄っすらと涙を浮かべた綾香さんが噴き出した。

「舞華ちゃんに慰められるなんて思わなかったわ」

頬から手を離して綾香さんは私の肩に頭を乗せた。

ほんの少しだけ見えた彼女の弱さ・・・。

黙り込んだ私達の耳にはカーステレオから流れる切ないラブソングだけが聞こえていた。


「何でお前は一緒に来たんだ?」

目の前に立つ麗華と信也を見て俺は顔を顰めた。

面白くない。

「お前ほど目立たないからな」

信也は短く答えて煙草を銜えた。

「納得できん」

「言ってろ」

信也は煙草に火を点けて煙を吐き出した。

「舞華は今日も結城さんか?」

「静斗あの人に憧れてなかったっけ?」

それを言うな・・・!

楽しそうな英二と涼を睨み付け俺はフォールディングチェアに腰を下ろした。

「安心しろ、綾香も一緒だ」

英二がクスクスと笑いながら俺を見ていた。

舞華はそんな事何も言ってなかったぞ・・・?

「静斗って最近可愛いね」

麗華が俺を眺めながら呟いた。

「はぁ〜?!」

「何か舞ちゃんに一生懸命で可愛い」

信也と英二が声を出して笑い出した。

「余裕ないもんなお前」

「麗華に可愛いって言われるなんてお前も終わったな」

何で笑われなきゃいけないんだ?

「うるせぇ!俺で遊ぶな!!」

「真っ赤な顔しちゃって・・・そんなだからからかわれるんだよ静斗」

涼が苦笑した。

完全に遊ばれてる・・・。

控え室の扉がノックされた。

「GEM、もうすぐ順番だよ」

オーナーが顔を出した。

オーナー自らやって来るなんてどうしたんだ?

「あ、はい」

「・・・信也、M・Kと契約したって本当か?」

オーナーの耳にも届いていたらしい。

「あ、はい。でも、暫くはここでのライブも続けて構わないって言われてます」

「そっか・・・」

少し残念そうな顔をしたオーナーはそう呟きながら扉を閉めた。

気になった俺は扉を開けてオーナーの背中に声を掛けた。

「オーナー、俺等ここからデビューする初めてのバンドだろ?」

「・・・そうだな」

「あんたが自慢できるようなバンドになるから」

恥ずかしくないバンドになるから・・・そんな顔しないでくれ。

「あぁ、頼むよ」

「ここでのライブ俺好きだぜ」

オーナーは苦笑してフロアに戻って行った。

「やっさし〜♪」

からかうような女の声がした。

「・・・綾香・・・」

何でこの女はこういう場面にばかり現れるんだ・・・?

俺は髪を掻き上げながら振り返った。

結城と綾香と舞華が立っていた。

「デビュー前から随分大きな事言ってるな。まぁ恥掻かないように頑張るんだな」

結城が嘲笑う。

マジ張り倒してぇ・・・!

これがこの男の本性なのかもしれない。

「優しいね・・・静」

舞華が優しく微笑んだ。

やっぱりコイツは天使だ・・・。

俺は舞華の手を掴んで引き寄せた。

「しっ静・・・?!」

真っ赤な顔をした舞華を抱きしめながら俺は訳の分からない寂しさを誤魔化した。



ご覧頂きありがとうございます。


綾香の本音がポロッと漏れてちょっとだけ切ない車の中でした。

やっぱり不安なんですね。


オーナーさんも寂しそうです。

デビューしちゃえばABELでのライブもなくなっちゃうわけですし、当然といえば当然なんですけど。

GEMを結成してからずっとお世話になっていた場所ですからGEMメンバーも寂しい筈です。


ちょっとだけセンチメンタルな気分になっている登場人物達でした。


☆次回更新11月30日です☆

とうとう11月も終わりだ・・・。

早いなぁ・・・。


新聞屋さんに来年のカレンダーを頂きました。


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