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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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もう1つの顔(舞華&静斗)


とうとうこの日になりました。

そしてそこでもう1つの事実が明らかになるのです。

土曜日。

GEMが契約書にサインをするのを私は黙って見つめていた。

活動自体は大きく変わる事はないが、レコーディングをしながらABELや他のライブハウスでのライブ活動、所属アーティストのライブでの前座をしながらプロモーション活動。

今までよりも忙しくなる事は確か。

アルバイトは辞めざるを得ないだろう。

契約書を交わしたお母さんとGEMメンバーが握手を交わしている。

契約内容は様々。

同じ契約内容の人物はなかなかいない。

GEMも特殊な契約だ。

そういうアーティストばかり拾うのがM・Kなのかもしれない。

「じゃ、早速だけど紹介したい人達が居るの。一緒に来て頂戴」

お母さんは皆を連れて会議室に向かった。

私も一緒に付いて行く。

「皆揃ってる?」

扉を開けると、そこでは私にとってパートナーと呼べる人物達が寛いでいた。

「社長、おはようございます」

「おはよう」

「あ、舞華も一緒なんですね?」

ディレクターでプロデューサーの結城さんが私に軽く手を上げた。

私も軽く手を上げて挨拶を返す。

静の顔が一瞬険しくなった気がする。

何でだろう・・・?

「貴方達の音楽作りのブレーンになる人達よ」

お母さんがGEMに皆を紹介する。

「ディレクターの結城さんに、コーディネーターの武内さん、レコーディングエンジニアの周防さん、マスタリングエンジニアの相川さんマニピュレーターの鈴木さん」

端から順に紹介していき、ふとお母さんと視線がぶつかった。

「プロデューサーのAKI」

お母さんの言葉で全員の目が私に向いた。

嵌められた・・・。

今回結城さんが仕切るって聞いたから来たのに・・・。

「舞華が・・・AKI?」

信也さんが呟いた。

「結城さんとAKIが組めば怖いものなしよ」

お母さんはニッコリと微笑んだ。

「嵌められたな舞華」

結城さんが微笑んだ。

「・・・そうみたい・・・」

私は小さな溜め息を吐いた。

このメンバーが揃ってるのを見た瞬間逃げるべきだったのかも・・・。

「GEMのデビュー曲の選曲はお任せするわ」

お母さんは私の肩を軽く叩いた。

「曲は聴かせてもらったよ。どれも文句なしだ」

「美佐子さん、当然何か戦略があるんですよね?」

結城さんと武内さんが口を開いた。

「今のところオファーが来てるCMソングに充てるつもりでいるけど」

「・・・舞華、ちょっといいか?」

結城さんが私を呼んだ。

「お前GEMのライブ通ってたって?お前の率直な感想を聞きたい」

いつの間にか私はパートナー達に囲まれていた。

「CMのコンテがあるならそれを見てから選曲した方がいいと思う・・・ないならこちらからイメージしやすい曲を何曲か持って行って先方と相談した方がいいのかも。GEMはどれを使っても大丈夫だけどインパクトが大事だから・・・」

結城さんと私はGEMのオリジナル曲の一覧表を見ながら感想をぶつけ合った。

「幸いにも世間は夏休みだろう?この勢いでレコーディングしてみないか?勿論まだ正式な物ではないし気楽に考えてもらっていい。一発撮りで構わないし。先方に持って行く音源を録っておくのも必要だし、君達のクセも把握したい。ここのレコスタで再来週にでもどうだろう?」

結城さんがGEMメンバーに振り返った。

言い出したら異論を認めない人だ。

ほぼ決定だと思う。

早くもGEMが動き始めた。


水面下でプロジェクトは進められていたらしい。

菊池 美佐子は一週間の間に必要な人材を集めていた。

結城といえば俺がギターを弾くきっかけになった憧れのギタリストで、有名なプロデューサーだ。

何でディレクター?

「プロデューサーのAKI」

美佐子さんの言葉で全員の目が舞華に向いた。

「舞華が・・・AKI?」

信也も知らなかったらしい。

「結城さんとAKIが組めば怖いものなしよ」

美佐子さんはニッコリと微笑んだ。

舞華も予想外だったのか驚いた顔をしている。

しかし・・・舞華がAKI?

AKIと言えば音楽業界でも名の知れた敏腕プロデューサー。

ビルボードの常連からも熱望されるほどの人物。

それが・・・舞華・・・?

・・・コイツには毎度驚かされる。

「嵌められたな舞華」

結城が微笑んだ。

「・・・そうみたい・・・」

舞華と結城はどうやら仕事仲間らしいが・・・何かむかつく。

「静斗、思いっきり顔に出てるよ。気を付けなきゃ」

涼が俺の耳元で囁いた。

「舞ちゃんは貴方達の音をちゃんと分かってるから安心して任せられるでしょ?」

美佐子さんが微笑んだ。

「舞華がAKIだとは思いませんでしたよ」

信也が苦笑した。

「でも納得でしょ?AKIって名前も舞華をアルファベットで書いたのを逆さ読みしただけだし」

MAIKA・・・AKIAM・・・AKI・・・AM。

なるほどな・・・。

単純と言えば単純なんだけど・・・。

音楽の話をする舞華の横顔は真剣だ。

舞華を中心に俺達の話が進められていく。

決して嫌なわけじゃない。

でも・・・複雑だった。

舞華を事務所に残し、俺達は帰路についた。

「驚いたな・・・」

事務所を出て最初に出た英二の言葉だった。

「舞華の事か?」

信也が訊き返す。

「あぁ、それもだけど、あのメンバー・・・超一流だ」

英二は煙草を取り出して火を点けた。

「舞ちゃんがAKI・・・静斗は知ってた?」

涼の言葉に俺は小さく首を振った。

言葉も出てこない。

出てくるのは溜め息だけだ。

「舞華が遠く感じるな」

英二が小さく呟いた。

“・・・不安なの・・・GEMが・・・静が遠くなるのが・・・”。

舞華の言葉を思い出して俺は苦笑した。

お前も随分遠く感じるぞ・・・。

「舞華にそんな事言うなよ」

信也が真剣な顔で英二を見ていた。

「あぁ、舞華が傷付くって言いたいんだろ。大丈夫、俺だってそのくらい理解してる」

「舞ちゃんは舞ちゃんだよ。だっていかにもじゃない?僕達と音楽論議してるの見てたら別に不思議には感じないでしょ?僕は逆に納得したけどな」

涼は何故か俺を見ていた。

確かに舞華は音楽に対して厳しい。

音楽論議してる時の舞華は普段の弱々しい舞華じゃない。

酷評とも思えるほどに、的確で厳しい意見を出してくる。

今思えば仕事の目をしてたんだと思う。

「舞華なら心強いな」

「そうだな。あいつは俺達の音をちゃんと聴いてるからな」

信也と英二が納得するように頷いた。

駅で信也と別れ、俺と英二と涼は同じ電車に乗り込んだ。

「随分凹んでるな」

英二が苦笑した。

「そんなにショックだった?」

ショックな訳じゃない。

俺は小さく首を振った。

「上手く言えないけど・・・モヤモヤしてる。お前達ほど素直に喜べない」

何でなんだ?

「舞華が黙ってたからか?」

「いや・・・あいつは仕事の話を全くしないから・・・確かに驚いたけどな」

気にはしてない。

M・Kのブレーンでもあいつはあいつだと思えたのに。

涼が俺の顔を見てクスクスと笑った。

「単なる嫉妬じゃない?結城さん見る静斗の眼恐かったもん」

嫉妬?

俺は結城の顔を思い出していた。

・・・あ、納得。

ダサッ・・・。

英二も涼も勘付いたらしい。

「お前・・・ガキくせぇ」

「やっぱ静斗だよね」

最寄り駅に着くまで俺は二人にからかわれた。

こいつ等に話した俺が馬鹿だった・・・。



ご覧頂きありがとうございます。


舞華・・・音楽業界で何気に知られている人物なんですね。

絶対音感の持ち主ってだけじゃ終わらない、美佐子がそれだけで終わらせるわけがないですよね。


あれ?

男が苦手の舞華が何で普通に結城さんと話せてるの?

ちょっと変じゃない?って思った方も多いのでは?

理由は後日♪


☆次回更新11月20日です☆

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