選択(信也&静斗)
麗華が妊娠・・・。
信也はソレを知って何を選択するんでしょうか?
GEMメンバーは・・・?
妊娠・・・?
俺は麗華を見下ろした。
「黙っててごめん・・・今朝検査したら陽性だったの」
麗華は困惑した顔で答えた。
最近あまり顔色が良くなかったのはそういう事だったのか・・・。
「何で朝言わなかった?」
「だから・・・ごめんって」
コイツはもしかしたらとんでもない事考えてたんじゃないのか?
「お前堕ろす気じゃないよな?」
微かに麗華が震えた。
やっぱり・・・。
「産めよ、俺大学辞めて働くから」
「だから嫌なの!来年卒業なのに何でそんな事簡単に言うの?!」
麗華が久しぶりに怒鳴った。
「当然だろ、お前と腹の子を養うためには働かなきゃ・・・」
「そんなだから!・・・そんなだから堕ろそうかなって考えるんだよ!何で分かってくれないかな?!」
伯母さんが麗華の前にしゃがみ込んだ。
「麗ちゃんは信也君に卒業して欲しいのね?」
麗華が小さく頷いた。
「絶対に信也は大学辞めるって言い出すと思ったから・・・だから、赤ちゃんは諦めようかなって・・・」
何言ってんだよ・・・?
「好都合かもね」
伯母さんは麗華の頭を優しく撫でると立ち上がり、俺に振り返った。
「M・Kと契約しない?そうすれば収入は約束できるし、大学も諦めずに済むわ」
伯母さんには驚かされるばかりだ。
「今日は舞ちゃんに誘われてきたのよ。それがどういう意味か分かる?」
俺は首を傾げた。
分からないからだ。
「舞ちゃんがGOサインを出したって事なのよ」
俺は麗華と顔を見合わせた。
「貴方達がサインすればすぐにだって活動を広げることが出来るわ。それなりの収入も見込めるし、悪い話じゃないと思うけど?」
伯母さんの話はありがたい。
でも、俺の一存では決められない。
「伯母さん・・・」
「皆と話し合って一週間以内に返事を頂戴」
伯母さんはそう言って麗華の身体を起こした。
「一緒に来なさい。一度診てもらった方がいいわ」
麗華も大人しく伯母さんに従う。
俺は黙って二人の背中を見送った。
「信也さん・・・」
蚊の鳴くような小さな声がした。
振り返ると舞華が立っていた。
「聞いてたのか?」
「ごめんなさい・・・」
「舞華。心配すんな、俺もちゃんと考えるから。それよりも、俺達の音・・・大丈夫なのか?」
「うん、それは保障する。だから・・・」
舞華は動揺しながらも麗華と俺の心配をしてくれている。
「舞華、俺は麗華が嫌がるような事だけはしない」
舞華の表情が少しだけ明るくなった。
俺は舞華の頭を撫でて控え室に向かった。
信也が控え室に戻って来た。
一人で。
「悪い、麗華は伯母さんに連れて行ってもらった」
体調悪そうだったしな。
信也の様子が明らかにおかしい。
「信也、話したい事あるんじゃないの?」
勘のいい涼が口を開いた。
「今日・・・伯母さんが・・・菊池美佐子が来た理由分かるか?」
俺は敢えて口を開かない。
多分、英二と涼に訊いてるからだ。
「俺達の音の事じゃないのか?」
英二が答える。
「契約しないかって言われた。大学に通いながらの活動で構わないらしい」
予想はしていたが、ここまで反応なく話を聞くバンドもいないかもしれない。
めちゃくちゃ反応薄っ・・・。
「で?」
涼が先を促す。
「お前達の意見を訊きたい」
プロになりたかった筈の信也の顔が冴えないのが気になった。
「俺はお前に従う。リーダーはお前だ」
英二は煙草に火を点けながら答えた。
「僕も英二と同じだよ、静斗は?」
綾香と司も含め五人の視線が俺に向けられた。
「舞華は認めてる。だから今日美佐子さんを呼んだ」
俺は涼の言葉に答えた。
「俺はお前の判断で構わないと思う。相手は大手だし、舞華の母親が経営する会社だ。不安要素はないだろ」
信也は小さく頷いた。
「信也、お前が言いたいのはそれだけか?違うだろ?」
今訊くべき話じゃないのかもしれない、でも話して欲しかった。
「麗華が・・・妊娠した」
「え?」
英二だけが驚いていた。
綾香はさっき麗華と居たから聞いたのかもしれない。
涼は多分野生の勘だろう。
俺も何故か、やっぱりと思う程度だった。
司が俺の肩を叩いて控え室を出て行った。
この話し合いの中、出て行けないのを察してくれたんだろう。
「そのせいもあるのかもしれない・・・すまない」
「前進するのに何謝ってんだよ。ほら、全員一致だ。さっさと電話しろよ」
俺は煙草を取り出し火を点けた。
これ以上意味の分からない謝罪なんか聞きたくない。
信也は部屋の隅で携帯を操作し始めた。
「静斗、何でわざわざこの場で麗ちゃんの事聞きだしたの?」
涼が俺の銜えた煙草を横取りして尋ねた。
「別に・・・」
あいつ一人で悩ませたくなかったからだ。
間違った決断しそうだし。
「優しいね静斗」
「蕁麻疹の出そうな事言うな」
「自分の事は話さなかったくせにね〜」
綾香が俺の頭の上に肘を乗せた。
俺とは事情が違うだろ。
「てめぇ俺は肘掛じゃねぇぞ!」
綾香の肘を払って綾香を睨む。
「ま、放っといたらあいつ大学辞めそうだしな」
英二が呟いた。
それもある。
あいつは麗華のためなら簡単に辞めてしまえる奴だ。
大学も・・・GEMも・・・。
「GEMだって辞めそうだよね。静斗がこの場で話させたの、そう思ったからでしょ?」
まったく・・・涼には敵わない・・・。
「まぁな・・・」
「静斗のくせに頭の回転速いじゃない」
「綾香、てめぇ・・・!」
俺が振り返った瞬間ドアをノックする音が聞こえた。
「静斗、舞華連れて帰ってもいいか?」
司が顔を覗かせた。
「舞華がどうかしたのか?」
「いや、ちょっと動揺しててな」
「司、お前舞華の家泊まれるか?」
「あぁ、構わん」
「じゃ、頼むわ」
「OK〜」
相変わらず自由人だな。
「静斗、あの司って子誰?ってか何?」
綾香が疑わしげに俺の顔を覗き込む。
「舞華の親友でここの常連」
「あれ、女の子なんだ?声もハスキーだし男かと思ったわ」
「綾香・・・」
綾香の言葉に英二が溜め息を吐いた。
さすがに分かるだろ・・・。
その言い方じゃ司が気に入らなかったのか?
「でも、何で仲良しなの?」
涼が尋ねてきた。
「あいつが舞華を逃がしたんだよ。それからの付き合いだ。二回うちにも来たしな」
三人は納得したようだ。
「涼、英二、静斗」
信也が俺達を呼んだ。
「一週間後、M・Kの事務所に行く事になった」
GEMが本格的に動き出した・・・。
もう後戻りは出来ない。
「本当にいいのか?」
「「「今更」」」
俺達は信也の不安げな顔を見て、笑顔で中指を突き立てた。
ご覧頂きありがとうございます。
GEMの絆って強いなぁ・・・。
つくづくそう思います。
この関係が凄く羨ましい。
GEMはこのまま変わらないで欲しいなぁ・・・。
そう願わずにはいられません。
☆次回更新11月14日です☆