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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
55/130

妊娠(麗華&舞華)


最近気分が悪い事が多い・・・。

もしかして・・・?

朝から気持ちが悪かった。

最近時々ある。

心当たりもある。

先月も今月も生理がない。

多分・・・そういう事だ。

「麗華?」

信也が私の顔を覗き込む。

「何でもないよ、お風呂行って来なよ。出掛ける時間になっちゃうし」

私は信也の背中をそっと押した。

「具合悪いんじゃないのか?」

「大丈夫だって」

取り敢えず笑ってみる。

信也は心配そうに私を見ながら浴室に向かった。

私は鞄の中から先日購入した妊娠検査薬を持ってトイレに向かった。

結果は・・・陽性―――――。

つまりは妊娠した、という事だ。

これを信也に告げるべきか、黙って堕ろしてしまうべきか・・・。

私は調べる前から悩んでいた。

信也はまだ大学生。

社会人なら悩む事はなかったのかもしれない。

信也はきっと大学を辞めると言い出すだろう。

それが嫌だった。

来年卒業なのに、四年間ちゃんと通ってたのに・・・私のせいで辞めるなんて嫌だ。

今日はライブの日。

私達はいつものライブハウス“ABEL”に向かった。

結局信也には話さなかった。

もう少し考えてから話そうと思った。

全員が集まって簡単な打ち合わせをしてリハーサル。

私と綾香さんも付き合ってそれを眺め、終わると共に控え室に戻った。

私は中には入らず自販機に向かう。

「麗ちゃん」

背後から声を掛けられた。

「お母さん・・・」

何でこういうタイミングでお母さんは現れるんだろう。

私が口を開こうとした瞬間信也の声が聞こえた。

「伯母さん・・・来てたんですか?」

「えぇ、舞ちゃんに誘われたのよ」

私は話すタイミングを失って髪を掻き上げた。

後で聞いてもらおう・・・。

お母さんは信也と話をしながら控え室に入って行った。

直後に静斗が飛び出してきた。

舞ちゃんを探しに行くのかな?

ゾッコンなんだなぁ・・・。

私はお茶を買って自販機前の前にあるボロくさいベンチに座った。

「麗華ちゃん、どうしたの?顔色悪くない?」

綾香さんが声を掛けてきた。

多分皆分のジュースを買いに来たんだろう。

「ちょっと体調不良かも」

苦笑する事しか出来なかった。

信用してない訳じゃないんだけど、お母さんに話す前に他人に話すのもどうかと思ったから。

「無理しないのよ?ステージ裏に折り畳みの椅子でも持って行く?」

「ううん、邪魔になるからいい」

綾香さんは自販機で珈琲や紅茶を買って椅子に並べていく。

「一人じゃ持てないんじゃない?手伝うよ」

「助かる〜英二の馬鹿手伝いにも来ないんだから、ったく!」

そう言いながらも笑顔なのは英二に惚れてるからなんだろう。

素直じゃないけど可愛い人だ。

私は彼女を眺めながら微笑んだ。

GEMの出番は三番目。

女組はステージの裾からその様子を見つめる。

今日は司も一緒に居る。

舞ちゃんが連れて来たらしい。

会話は交わしてないけど。

四曲目に差し掛かったところで気持ち悪くなってきた。

ヤバイ・・・吐きそう・・・。

私はトイレに駆け込んだ。

これがつわりというものらしい。

テレビドラマでもよく見るやつだ。

嘘くさいと思ってたけど、実際に駆け込むものなんだと初めて知った。

ヤバイ・・・立ってらんない・・・。

私がしゃがみ込むと勢いよくトイレの扉が開いた。

「麗華ちゃん?!」

綾香さんが私に駆け寄ってきた。

「大丈夫?!支えるからとにかくここ出よう、自販機の前なら外の空気にも当たれるからそっちで休もう?」

私は綾香さんに支えられながら自販機まで歩いた。

「ごめん、綾香さん」

「いいのよ、ライブなんてまたあるんだから。気にしないで」

自販機前のベンチに横になると、綾香さんがお茶を買って差し出してきた。

「麗華ちゃん・・・もしかしておめでた?」

綾香さんの言葉を否定できなかった。

否定すれば嘘になるから。

「やっぱりなぁ、そんな気がしたんだ」

綾香さんは私の傍にしゃがんで私の頭を撫でた。

「心配しないで大丈夫よ、信也はしっかりしてるから」

どういう意味なんだろう?

綾香さんは多くを語らずに私の傍に居てくれた。

すごくありがたかった。


「驚いたな・・・」

GEMの演奏を聴きながら司が呟いた。

「舞ちゃんが私を呼んだ理由が分かったわ」

お母さんも私の横で微笑んだ。

GEMは自分達の音を見つけていた。

迷いのない音。

「パーソナルトーンね」

お母さんが呟き、私は小さく頷く。

「何だそれ?」

司が不思議そうに尋ねてきた。

「自分の音・・・他の誰にも出せないその人独特の音の事をパーソナルトーンって言うんだけど・・・面白い事にGEMはソレを持ってるの。意識して出せる音じゃないのよ。だからこそ貴重なバンドなの」

お母さんが司に説明する。

「だから不安・・・か」

司が微笑んだ。

幸いお母さんには聞こえなかったらしい。

ほっとした。

GEMは六曲演奏した。

聴けば聴くほど彼等の音は本物だと思い知る。

GEMの演奏が終わり、ステージ裏に戻って来た。

「お疲れ様」

私は全員にタオルを配った。

「綾香と麗華は?」

金森さんの言葉に私は周囲を見渡したが、二人の姿はなかった。

どこに行っちゃったんだろう・・・?

私が探しに行こうとした時、若林さんに肩を掴まれた。

「取り敢えず控え室に行こうよ。もしかしたら先に戻ってるかもしれないし」

私は若林さんに頷いて、皆と一緒に控え室へ向かった。

しかし、控え室には誰も居ない。

裏口の傍にある自動販売機前に二人の姿を見つけた。

麗ちゃんが真っ青な顔をして横になっていた。

「麗ちゃん・・・!」

「麗華!」

信也さんが麗ちゃんに駆け寄った。

「ごめん・・・気持ち悪くなっちゃって・・・」

麗ちゃんは信也さんを見上げながら呟いた。

「信也君・・・聞いてもいいかしら?」

お母さんが信也さんに声を掛けた。

お母さんの表情は硬い。

「綾香、来い」

金森さんが綾香さんを呼んで控え室に入って行った。

「僕達も行こうよ。聞かない方がいいような気がする」

若林さんが静の背中を叩いて控え室に向かった。

それでも私はその場に立ち尽くして動けなかった。

あんなに具合の悪そうな麗ちゃんを放ってなんかおけない。

「貴方・・・避妊してないんじゃない?」

お母さんの言葉に私は動揺した。

今そんな話必要なの?

麗ちゃんが具合悪いのに・・・そんな話後でもいいんじゃないの?

「お母さん、やめて。信也のせいじゃないし、信也は知らないの」

・・・何を?

「麗華・・・?」

信也さんが不安げに麗ちゃんの顔を見た。

「出来ちゃったみたいなんだ・・・」

何が・・・?

「赤ちゃん・・・」

私の頭の中が真っ白になった。



ご覧頂きありがとうございます。


舞華って分かってるのか分かってないのか微妙ですよね。

麗華に関して言えば、趣味がソレと言わんばかりなんで、まぁ納得・・・?

やっと徐々に第一部の終わりが見えてきました。

80話以内で終わらせたいなぁ・・・。

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