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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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心(舞華&静斗)


寮に帰った翌日の学校。

舞華は司と一緒に向かいます。

どこへ・・・?

それはやっぱりあそこです。

翌日の月曜日、私は司と共に理事室にやって来た。

司が理事室の扉をノックする。

「どなた?」

叔母様の声が聞こえた。

「杉浦です」

「入りなさい」

司が扉を開けると正面に叔母様の姿があった。

「舞華・・・?」

「おはようございます理事長・・・ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」

私は室内に足を踏み入れる前に深く頭を下げた。

「取り敢えず入って頂戴」

司が私の手を握ってくれた。

室内に入り扉を閉めると、叔母様は作業していた机から離れ、三人掛けのソファの真ん中に腰を下ろした。

叔母様の後ろには教頭先生が立っていた。

「座って頂戴」

「はい」

司は叔母様の視線に動じる事無く返事をして正面に腰を下ろした。

私も司の隣にそっと腰を下ろす。

「ご用件は?」

「昨日、菊池が寮に戻りましたので報告に参りました」

叔母様は驚いたように私を見た。

帰るとは思わなかったのかもしれない。

「そう・・・帰って来たの」

叔母様の目が少しだけ優しくなった気がした。

「話を聞きましたら交際証明や勤務証明を提出されたと言う事ですがお間違いございませんか?」

司が叔母様に尋ねる。

「えぇ、確かよ」

「分かりました。それでは菊池はルチア寮の門限や規則に囚われる事無く行動できると言う事ですね?」

叔母様が司を睨み付けた。

「勤務証明が出ていれば、外出許可も外泊許可も提出する義務はありません。点呼の際に確認する必要もなくなります。まぁ、連絡はつくようにしてもらうつもりではいますが」

最後の一言に叔母様は多少安心したように思える。

「そうね。そうして頂戴」

「はい。それでは失礼させて頂きます」

司は立ち上がると私の腕を掴んで立ち上がらせてくれた。

「舞華」

叔母様の声に私の肩が震えた。

「帰って来てくれて・・・ありがとう」

小さな声だった。

「叔母様・・・私、叔母様の事が嫌いな訳じゃないんです。もう少しだけ自由が欲しかっただけなんです。叔母様の顔に泥を塗るような真似は致しません。お約束します」

そう、恐かっただけ。

苦しかっただけ。

「貴女を信じるわ」

叔母様は力のない声でそう言った。

お母さんに何を言われたのか分からないけど少しだけ叔母様が小さく見えた。

「あ・・・叔母様。今回の事・・・信也さんと麗ちゃんは関係ありません。私が・・・」

叔母様に伝えておきたかった事。

「分かってるわ。信也と麗華の事・・・疑って悪かったわ」

私達は扉の前で深くお辞儀をしてから退室した。

「これでお前は自由になったんだ。私も教頭も証人だ」

司が小さな声でそう言って微笑んだ。

「ありがとう司」

叔母様が二人を信じてくれた事も、司が証人になってくれた事も嬉しかった。

「さて、教室に行くか」

「うん」

私達は笑顔で教室に向かった。


俺はラウンジの喫煙所で煙草を吸っていた。

舞華は大丈夫だろうか?

あのばばぁに罵られたりしてないだろうか?

「静斗」

呼ばれて顔を上げると三人が立っていた。

「何だよ、早いんだな」

「静斗だって早いじゃん」

涼が笑った。

「シケた面してんじゃねぇよ」

英二も信也も気にしてくれていたらしい。

「悪いな、気遣わせて」

「らしくない事言ってんなよ。雨降るから」

「雨じゃないよ、雹じゃない?」

「雷雨」

「雪」

「洪水が起こるかも」

三人の後ろから女の声がした。

「綾香も居たのか」

「何暗い顔してんのよ、昨日が最後って訳じゃないんだからそんな顔しないでよね。何か暗いのが感染うつりそう、あぁ嫌だ嫌だ」

鬱陶しそうに話す綾香もこんな時間に来ていることはない。

やっぱり気にしてくれていたのかもしれない。

「俺様な静斗じゃなきゃ変な感じだな」

信也が苦笑した。

「悪いと思うならジュースくらい奢れ」

「お昼がいい」

英二と涼はたかってるし。

「調子乗んなよ」

こいつ等には敵わないな・・・。

俺は苦笑した。

「ジュースなら奢ってやる」

「やった!一番高いのがいい!」

「値段で決めんなよ」

綾香まで・・・。

ま、今回は世話になったしな。

「俺珈琲」

「紅茶」

「ウーロン茶のペットボトル」

「イチゴミルク」

イチゴミルク?

「そこの紙パックのやつ」

涼はにっこりと微笑んだ。

「お前絶対味覚おかしいって」

「美味しいんだよ、甘くて」

「邪道」

さすがに英二や信也もゲッて顔をしている。

甘い物が嫌いな俺達には信じられない飲み物だ。

取り敢えず言われた飲み物を買って各々に手渡す。

「ほら飲んでみなよ、美味しいから♪」

涼は俺達にイチゴミルクを差し出す。

ストローを刺した紙パックからは甘ったるい臭いがしている。

「臭いだけで充分凶器・・・」

マジ勘弁・・・。

「胸焼けがする・・・」

信也も鼻を摘んで顔を背けた。

「・・・吐きそう・・・」

英二が小さく呟いた。

「今吐くな!吐くならゴミ箱の中だ!」

「涼!頼むからさっさと飲んで捨ててくれ!」

英二の顔色が一気に悪くなっていく。

嘘じゃないらしい。

ここまで苦手だったとは・・・。

「美味しいのに・・・ね、綾香ちゃん?」

「ね♪」

二人は楽しそうに微笑み合っていた。

涼と綾香の味覚が分からない。

「ほら、珈琲飲むか?ウーロン茶か?!」

信也は真剣に英二の心配をしている。

周囲は朝っぱらから煩い俺達を見ながら大笑いをしていた。

俺は勘弁して欲しいと思いながらもほんの少しだけほっとしていた。

涼の励まし方はレパートリーが多い。

多分、これもその一つ。

英二には悪いが涼に感謝。

ご覧頂きありがとうございます。


理事長がここまで大人しくなってしまうとは予想外。

彼女は義姉が苦手なんでしょうね。

でもここまで大人しくなると書き甲斐がないというか何と言うか・・・。


☆次回更新11月6日です☆

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