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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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お迎え(静斗&美佐子)

信也のマンションは結構離れている。

電車で来るなら三十分。

待ち時間を含めて多く見積もっても一時間。

しかし、夕飯が出来上がった八時になっても二人は現れなかった。

もしかして外で待機してるのか?

「遅いね信也」

さすがに涼が呟いた。

「来ないなら来ない方がいい。あの二人は特にな」

英二が煙草を吸いながら淡々と言った。

確かに・・・あの二人は居ない方がいい。

「取り敢えず食べちゃおうよ」

「綾香・・・お前が味付けしたのか?」

英二が顔を引き攣らせながら尋ねる。

「味付けは舞ちゃんよ。私は切る担当」

英二の安堵した表情を見て、俺も密かに安堵の息を漏らした。

綾香の手料理は危険らしいからな・・・。

俺達が信也の母親の存在を忘れ掛けた時、インターホンが鳴った。

一瞬にして空気が凍りついた。

俺は黙って玄関に向かった。

玄関を開けるとおばさんと黒服の男が三人立っていた。

「新井静斗さんですね?」

目の前のおばさんは俺に微笑んだ。

「はい」

意外にも俺は落ち着いていた。

そして携帯を取り出し、舞華の母親に電話を掛けた。

「もしもし、新井です。今こちらに来ました」

『そう・・・もうすぐ着くわ。二分待って頂戴』

電話はあっさりと切られた。

「で、ご用件は?」

訊くまでもないけど、俺は携帯電話を玄関の下駄箱の上に置き、目の前のおばさんに微笑んだ。

「菊池舞華がお世話になっていると思いまして訪ねましたの。こちらで間違いございませんでしょう?」

「えぇ、うちでお預かりしてます」

これまた笑顔で返す。

「舞華を返していただけます?」

「お断りします」

今度はきっぱりと真顔で言った。

「な・・・!」

俺が“はいどうぞ”なんて言う訳ないだろ。

「貴女の許に舞華を帰せば、舞華を失う事になりかねない」

そうじゃなくても舞華を追い詰めたんだ、簡単に渡す訳にはいかない。

「ど・・・どう言う事かしら?」

信也の母親は平静を装いながらも怒りを含んだ口調で問い返す。

「舞華は今回未遂とはいえ、手首を切ろうとした。麗華の二の舞は御免です」

「あ・・・貴方・・・!何でその事・・・?!」

「麗華も信也も友人です。知っていて当然だと思いますけど?それに、舞華は美佐子さんにお預かりしたんです。彼女の許可なく貴女にお渡しする事は出来ません」

舞華の母親が来るまでは粘らなければならない。

「嘘を仰い!義姉さんが舞華を貴方に預けたですって?そんな筈ないわ」

「嘘だとお思いなら美佐子さんに確認なさって下さい。番号はご存知でしょう?もし、ご存じなかったらお教えしますよ」

「義姉さんが認めるわけがないでしょう。さ、舞華を連れてきて頂戴」

どうやらこのおばさんは人の話を聞く気もないらしい。

「申し上げたはずです、美佐子さんの許可がないならば舞華をお渡しする事はできません」

「貴方の嘘にお付き合いする時間なんてないの、早く連れて来なさい」

「美佐子さんは法的手段を検討なさっています。麗華に続いて舞華まで追い詰めた事にかなりお怒りです。舞華は会社の跡継ぎでありブレーンです。ご存知ですよね?」

あんたが知らない筈がない。

おばさんは俺を睨み付けた。

俺は玄関の前に立ちはだかり、おばさんと睨み合った。

ここで負けるわけにはいかない。

信也の母親の顔を見て、俺は舞華を帰す気は完全になくなっていた。

冷たい目をして人の話も聞かない・・・こんな女に舞華を渡せる訳がなかった。

俺の傍に涼と英二がやって来た。

「取り敢えずこれを渡すように言付かってます」

俺はジーンズのポケットから取り出した紙を信也の母親に差し出した。

「こ・・・こんな物・・・いつの間に・・・?!」

おばさんの顔色が変わった。

「美佐子さんが認めて下さっていた証拠です」

「こんなのいくらだって・・・!」

「偽造できますか?入手できますか?これはパソコンからダウンロードも出来ない、聖ルチアに行かなきゃ手に入らない偽造防止加工された書類ですよね?」

コピーすると文字や絵柄が浮き出るやつ。

あんたなんかに負けて堪るか・・・!!


車を走らせていると追い越した人物に見覚えがあった。

「信也君、麗ちゃん?」

運転手に車を停めさせて私は車を降りた。

「お母さん!」

麗ちゃんが駆け寄ってきた。

「何してんの?」

「新井君のところに行くんだけど・・・二人も・・・?」

信也君と麗ちゃんは小さく頷いた。

「乗りなさい、一緒に行きましょう」

私は車に二人を乗せ再び車を走らせた。

あと少しというところで携帯が鳴った。

新井君だった。

『もしもし、新井です。今こちらに来ました』

「そう・・・もうすぐ着くわ。二分待って頂戴」

私は簡単に告げて電話を切った。

「何?」

「百合さんが新井君の所に着いたらしいわ」

麗ちゃんと信也君が顔を見合わせた。

鞄を押さえる麗ちゃんの様子に私は不安を感じた。

「麗ちゃん、鞄貸しなさい」

私は半ば強制的に麗ちゃんの鞄を奪った。

「あっ・・・!返して!」

麗ちゃんの反応を見て私は確信した。

「信也君、麗ちゃんを押さえて」

信也君は訳も分からずに麗ちゃんの腕を掴んだ。

鞄の中を覗くと、やっぱり・・・ソレはあった。

「何をする気だったの?」

麗ちゃんは視線を逸らして黙り込んだ。

信也君は驚いている。

知らなかったのだろう。

私は鞄からその物騒な物を取り出し、運転手に預けた。

「これ以上おかしな真似はしないで麗ちゃん。もう傷付けないで自分も他人ひとも・・・お願い」

私は麗ちゃんの左手を握った。

珍しくリストバンドをしていない麗ちゃんの手首は、ケロイド状の傷を露にしていた。

百合さんに会うからなのだろう。

麗ちゃんは深く手首を傷付けた為、薬指と小指が動かない。

これは私の罪・・・。

私は麗ちゃんの手首の傷をそっと撫でた。

「大丈夫、舞ちゃんが嫌がるような事はしないわ・・・させない」

私は麗ちゃんの目を見据えてそう告げた。

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