危険な二人(信也&麗華)
大学の講義を終えてマンションに帰って来た俺は、麗華とベッドに居た。
「信也、電話鳴ってるよ?」
麗華に言われ、俺はリビングのソファに腰掛け、テーブルの上に投げてあった携帯を開いた。
母さんだった。
「もしもし?」
まだバレてないはずだ。
『貴方、私に嘘を吐いたわね?』
開口一番に母さんはそう言った。
「何が?意味が分からないんだけど?」
『舞華を仲間に預けたでしょ?』
見つかったのか・・・?!
「な・・・俺は何も・・・!」
今回のは俺じゃない。
『まさか貴方に裏切られるとは思わなかったわ』
「裏切る?俺が?」
『舞華をあの男の所に預けたのは貴方でしょ?』
「決め付けんなよ、俺は知らない。どこに居たって?あの男って誰だよ?」
俺は問い返した。
もしかしたら母さんが俺を嵌めようとしているのかもと思ったからだ。
『新井静斗、貴方のバンドの男よね?』
調べ上げていたのか・・・。
「確かに静斗は俺のバンド仲間だけど・・・あいつがどうしたって?」
『惚けないで頂戴』
母さんの口調は珍しく冷たかった。
『貴方じゃないなら麗華の仕業かしら?』
「俺達は本当に何も知らない、何で母さんはいつも麗華を悪者にしたがるんだよ?」
『私は貴方達の事だって認めた訳じゃないわ』
母さんはそう言って電話を切った。
舞華が見つかった・・・。
「静斗がどうしたの?今の叔母さんじゃなかったの?」
麗華が怪訝そうに俺を見ていた。
もう嘘は吐けない。
俺は麗華と真っ直ぐに向き合って覚悟を決めた。
「お前に黙ってたことがある」
麗華はベッド脇に落ちていた俺のシャツを羽織って俺の傍にやって来た。
多分今の電話で気が付いただろう。
「舞華が一ヶ月前から姿を消してる」
麗華は目を見開いた。
「寮で手首を切ろうとして誰かが止めたらしい。その後寮から居なくなった」
「舞ちゃんが・・・?」
麗華は自分の左手首を右手でぎゅっと握り締めた。
「多分母さんの監視に耐えられなくなったんだと思う」
「で・・・?舞ちゃんはどこに居るの?」
麗華の顔は血の気が引いていた。
「信也!知ってるんでしょ?!教えなさいよ!」
麗華が俺の腕を掴んだ。
言ってしまって大丈夫だろうか?
俺は不安を感じ、強く目を閉じた。
「・・・静斗の所なの?」
麗華が言った。
「あんたが黙る時って大体あの男が絡んでるもんね。そうなんでしょ?」
俺は目を開け、麗華を見つめた。
「私は大丈夫だからちゃんと話して」
麗華は意外にも冷静だった。
「・・・そうだ、あいつの所にいる」
泣き出すと思った。
なのに、麗華は笑った。
「双子って惚れる男まで似ちゃうのかな?」
何故か安堵したように見えた。
「麗・・・?」
「で?叔母さん何て言ったの?舞ちゃんを連れ戻すって?」
麗華は立ち上がり俺に背を向けた。
「多分そう言う事になると思う」
「行こうか?静斗の所」
麗華は振り返ってそう言った。
「シャワー浴びたら行こう、放っとけないよ」
俺は立ち上がり、麗華を抱きしめた。
「舞ちゃんに何かあったら叔母さん殺すから」
お前にそんな事させない。
「その時は俺が母さんを殺してやる」
俺はそのまま麗華と共にシャワーを浴びて静斗のアパートに向かった。
シャワーを浴びた私達は服を着ながら話をしていた。
「舞ちゃんと静斗っていつから付き合ってるのか知ってるの?」
多分正月前からだ。
何となくだけどそう思っていた。
「一年位らしいけど詳しくは知らない」
信也は短く答えた。
一年・・・か。
「何か変な感じね。あの静斗が舞ちゃんとなんて」
「そうか?」
静斗が女を連れて来なくなって、特定の女を作らない男に何かあったって事だけは何となく分かってた。
相手が舞ちゃんなら納得だ。
「信也心配しないで。私もう静斗の話聞いても大丈夫だから」
信也はいつも静斗の話をする度に辛そうな顔をしていた。
信也にそんな顔されると私も辛い。
「確かに驚いたけど、ショックじゃないよ」
舞ちゃんは多分恥ずかしくて言えなかっただけ。
静斗は私の気持ちに気付いてるから言わなかった。
多分そう言う事なんだろう。
「二人がずっと清い交際をしてたのは知ってる」
信也の言葉に私は噴き出した。
確かに舞ちゃんはそういう事した事はなかったかもしれない。
あんなに真っ赤になる舞ちゃんが男を知るわけない。
でも、よく一年も我慢してたな・・・。
「静斗よく我慢してたね」
「俺もそう思った」
信也が苦笑した。
それだけ本気だってことなんだろう。
その辺の女と同じ扱いだったら許さないところなんだけど・・・。
「あいつは舞華を大事にしてる」
「そうみたいだね、安心した。欲求不満の解消のための女じゃないなら舞ちゃんを譲ってあげてもいいかも」
「あぁ」
「GEMの皆は二人の事知ってたの?」
「あぁ」
だから綾香さんも知ってるんだ・・・。
意外と私だけが気付かなかっただけ?
気付こうともしなかっただけ?
「涼は時々静斗のところで飯食ってる」
やっぱりあの男は何でも知ってるんだ・・・。
私は苦笑した。
「行っても何もできないかもしれないぞ?」
「それでも後悔だけはしたくないから」
そう、何も出来なくたって何もしないよりはいい。
私はそう思いながら鞄の中にそっとあるものを忍ばせた。