有難くない情報(舞華&静斗)
静の部屋に転がり込んで一ヶ月になる。
週末は今までに二回、司が変装してやって来た。
若林さんも時々夕飯時に現れて食事をして帰って行く。
信也さんや金森さんは来ないけど・・・私がここに居る事は知っているらしい。
これだけの人数が知っているのに私は日々穏やかに暮らしている。
意外と見つからないものなんだと思った。
静の居ない間は相変わらず勉強をしたり、最近は静のキーボードにヘッドホンを差し込んで弾いてみたりしている。
高等部に入るまでは週に二回自宅にピアノの先生が教えに来てくれていた。
寮生活になったので習うのを断念したのだ。
通っても良かったんだけど・・・電車に乗るのはあまり好きじゃなかったし・・・。
日曜日などは静が大学で使ってるノートを覗いたりもする。
静は意外にも字が綺麗。
すごく読みやすくて綺麗にまとめてあるので私でも理解できる。
こんな勉強してるんだ・・・なんて知らない静を垣間見て小さな幸せを感じていた。
出会った頃は勉強にあまり縁がないと思い込んでたっけ・・・。
「ただいま」
静が帰って来た。
リビングで勉強をしていた私は立ち上がって彼の傍に歩み寄った。
「お帰りなさい、どうしたの?」
こんなに早いなんて・・・。
私は静を見上げた。
気のせいか彼の顔色があまり良くない。
「静・・・?」
嫌な予感がする。
静が私を抱きしめた。
あまりにも力強くて痛かった。
「・・・美佐子さんから電話があった。この近所に信也の母親の雇っている男達の姿があったって・・・」
私の身体が震えだした。
さっきまで結構見つからないものなんて考えていたのに・・・。
私は静の服を握り締めた。
「嫌・・・帰りたくない・・・」
叔母様は明るいうちは行動しない。
顔を見られたくないから。
「夜、来るかも・・・叔母様は・・・日中行動なさらないの・・・」
私は震える声で静に告げた。
来るべき時が来てしまった。
残された時間は僅か。
外が暗くなるのが恐い。
「静・・・私・・・!」
静が私を黙らせるように唇を塞いだ。
静に連れられ、気が付けば私はベッドに押し倒されていた。
「し・・・静・・・?」
「お前を抱きたい・・・」
辛そうな静の顔を見たら断るなんて出来なかった。
お互いの存在を確かめるように私達は身体を重ねた。
大学の講義を終えた俺はいつものようにバイクに跨ってアパートに帰ろうとしていた。
バイクの鍵穴にキーを差し込んだところで携帯が鳴った。
菊池 美佐子。
舞華の母親からだった。
俺はバイクに跨ったまま電話に出た。
「もしもし・・・」
『菊池です、今大丈夫かしら?』
「はい」
彼女からの電話に嫌な予感がした。
『突き止められたかもしれないわ』
聞きたくない言葉だった。
『私が見張らせていた人物から連絡があったの。貴方のアパートの傍を彼女が雇っている男達がうろついてたって・・・覚悟はいい・・・?』
何の確認だ?
俺は舞華を手放す気はない。
「愚問でしょう?」
『私も仕事が終わり次第そちらに向かうから、何とか粘って頂戴』
粘って・・・か。
「分かりました」
俺はそう言って電話を切りアパートに向かった。
まだ乗り込んでませんように・・・と願いながら。
アパートに着くといつものように静かだった。
まだ来てないのか、既に連れ帰られた後なのか・・・?
俺は不安になりながら部屋の鍵を開け、室内に足を踏み入れた。
舞華の靴は下駄箱の中だが、そこを確認するよりも舞華本人の顔を見て安心したかった。
「ただいま」
静かな室内に声を掛ける。
「お帰りなさい、どうしたの?」
驚いた顔をした舞華を見て俺は少しだけほっとした。
まだ来てないようだ。
舞華は何も知らないらしく俺を見上げていた。
「静・・・?」
俺は舞華を強く抱きしめた。
こいつだけは手放さない。
絶対に・・・。
「・・・美佐子さんから電話があった。この近所に信也の母親の雇っている男達の姿があったって・・・」
舞華の身体が震えだした。
それほどに信也の母親が恐ろしいのだろうか?
「嫌・・・帰りたくない・・・」
そんな事分かってる。
「夜、来るかも・・・叔母様は・・・日中行動なさらないの・・・」
舞華が震える声で小さく告げた。
「静・・・私・・・!」
何も聞きたくなかった。
俺は舞華の唇を塞いで黙らせた。
無駄かもしれないが、俺は信也の母親と会って話をするつもりだ。
それまでは舞華を感じていたかった。
手放すつもりはない、ないけど・・・正直、自信もない。
俺は舞華をベッドに連れて行き押し倒した。
「し・・・静・・・?」
「お前を抱きたい・・・」
この状況下で何を考えても無駄だと思った。
相手は俺の倍以上生きている女だ。
女というだけでも理解できないのに、倍以上生きてるとなるとかなり手強い。
もし、舞華の母親が間に合わなかったら・・・?
そんな事考えたくない。
残された時間は僅かだけ。
その間舞華を感じていたかった。
俺は何度も何度も舞華を抱いた。
不安を拭い去るように・・・。