疑問(麗華&舞華)
静斗が女と暮らしてると聞いてもショックじゃなかった。
自分でも不思議だった。
何で自分がこんなに平気なのか、どうして笑えるのか。
英二と一緒になって静斗をからかった。
嘘みたいに楽しかった。
静斗の顔を見ていて初めて気が付いた。
ドキドキしてない・・・。
以前は急上昇していた心拍数が今は平常運転。
英二や涼と同じだった。
それは恋が終わったという事だと思う。
いつの間にか私は静斗から卒業してたらしい。
なんだか不思議だった。
一月はあんなに落ち着かなかったのに。
今は信也が私を束縛してる事が嬉しいなんて・・・。
部屋に帰ってきた私達は会話もなく少し離れた場所に座っていた。
「麗華?」
ボーっとしてる私の顔を信也が覗き込んだ。
「何?」
信也は私が静斗が好きって知ってた。
だから心配してくれてるのかもしれない。
「ショックか?」
ほらね。
「意外にも平気」
私は信也に微笑んだ。
「無理・・・すんなよ・・・?」
無理なんかしてないよ。
自分より私を優先する信也の方が心配。
信也の傍に移動して私は信也に微笑んだ。
「信也」
「ん?」
「好きだよ」
そう、信也が好き。
勿論、今までも好きだった。
でもそれは恋愛感情じゃなかったと思う。
なのに・・・今は・・・?
私は信也の首に手を回して唇を重ねた。
信也は私をベッドに押し倒して更に深いキスをしてきた。
信也とこうしているとすごく安心する。
「信也、ずっと傍にいてね」
体を重ねながら私は信也に言った。
「あぁ、約束する」
信也の体温が心地いい。
「麗華・・・愛してる」
信也の言葉も手もキスも全てが優しい。
私はこの腕に抱かれて自分の居場所を感じている。
「信也・・・」
私の傍に居てね・・・ずっと、ずっと・・・。
私達は互いをただ求め合い、抱き合ったまま眠りに就いた。
心地いい体温が夢の中に誘う。
信也の“愛してる”という言葉が子守唄のように耳に残る。
そして私達は生まれたままの姿で朝を迎えた。
朝、目を覚ますとテーブルに突っ伏して寝ている静と司の姿があった。
一体何時まで話し込んでいたんだろう?
「ご飯できたよ」
朝食の準備を済ませ、二人に声を掛ける。
「・・・あ?」
司が先に目を覚ました。
「静斗、飯だとさ」
敬語じゃなくなってる。
「ん・・・?」
「ご飯できたよ」
「舞華・・・お目覚めのキスは?」
「するわけないでしょ」
司の目の前で何言ってんの・・・?!
私は顔を赤らめた。
「なら私がしてやろうか?」
司が静の頭を軽く叩く。
「・・・司、お前調子に乗んなよ」
あれ?
杉浦じゃなくなってる・・・。
敬語でもない。
それほど二人で話し込んだと言う事なのかな。
友達と仲良くしてくれるのは凄く嬉しいけど・・・ちょっと複雑。
「舞華、手伝う。何を運べばいい?」
司が私に振り返る。
「その前に飲み散らかした空き缶を回収して」
どれだけ飲んだのよ・・・。
テーブルの上にも下にも中途半端に潰れた空き缶が転がっている。
「司、未成年なんだよ。こんなに飲んじゃ駄目」
「カタイ事言うなよ。自宅じゃ毎日晩酌してるぞ」
嘘ぉ・・・ありえないよ・・・。
司は缶を回収してビニールにまとめた。
「顔洗ってくる」
ビニールを私に差し出すと洗面所に向かった。
「舞華」
静が私の背後に立っていた。
「静も手伝ってくれるの?」
私が振り返ると唇が重なった。
つ・・・司が居るのに・・・!
「んっ・・・」
唇が離れると静が私を抱きしめた。
「舞華の匂い」
クスクスと笑う静に私はどう反応していいのか困っていた。
「朝からそんなもん見せ付けんでくれ」
司がリビングに戻って来た。
「男でも紹介しようか?半年も居ないんじゃ寂しいだろ」
「結構だ。余計なお世話」
半年も前に別れていたとは知らなかった。
司は私と静を引き離して食事をテーブルに運ぶ。
「今日バイトは?」
「昨日ライブだったから今日は休み」
昨日・・・ライブだったんだ・・・。
帰りが遅いからそうじゃないかなって思ったけど・・・。
静は私に軽くキスをしていつものコンポ前に腰を下ろした。
「じゃ、邪魔者は早々に帰るか」
「今更だろ」
静は素っ気無く言い返す。
それはもう少し居てくれって言ってる様な気がした。
「それに多分今日は連中がなだれ込んで来る」
静は珈琲を飲みながらうんざりと呟く。
連中って・・・?
「昨日何かあったのか?」
司の表情が曇る。
「バンド仲間にバレてな。一日からかわれた」
「大丈夫なのか?ドラムは理事の息子だろ?」
司の言葉に私は肩を震わせた。
「あぁ、信也は知ってた。舞華が消えた翌朝にはうちに来たしな」
知らなかった・・・いつ来たんだろう・・・?
静は何も言わなかった。
何で・・・?
「あいつは信じていいと思う。舞華と麗華のためなら母親に話したりはしない。現に一週間以上平和に暮らしてるだろ?」
静が私の頭を抱き寄せた。
「麗華も知ってるのか?」
「相手が舞華だとは知らないけど、俺の部屋に女が居るってのは知ってる」
司の表情は曇ったままだった。
「気にすんな。あいつはもう大丈夫だろ」
どうして麗ちゃん?
何が大丈夫なの・・・?
二人だけが理解している会話に私は一人疎外感を感じていた。