女同士の会話(舞華&静斗)
夕食を一緒に作って食べて片付けて。
長い時間、司と手話で話し続けた。
手話を使わずに生活していても結構忘れないものらしい。
「何・・・してんの?」
読み取る事に一生懸命になり過ぎて静が帰ってきた事にも気付かなかった。
「お帰りなさい」
静が不思議そうな顔をしていた。
「何してたんだ?」
「手話で話してたんです」
司が微笑んだ。
「しゅわって何?」
「耳の不自由な方達のコミュニケーション手段です。手で話すと書いて“手話”」
静はなるほどと頷いた。
「何でそんなんやってんだよ?」
「私の母は耳が不自由なので私には日常会話です」
司は平然と答える。
以前は周囲の目が冷たいからってあまり話さなかったのに・・・。
司は話し相手が居なくなったお母さんが心配で毎週末自宅に帰ってる。
なのに・・・私まで司に迷惑掛けちゃって・・・。
「舞華、お前そんなん出来るのか?」
静がギターを下ろして意外そうに私を見る。
「司みたいには無理。ゆっくり日常会話ってレベル・・・かな?」
「そんな事ないぞ、しっかり読めてたじゃないか」
「でも、自分が表現できなきゃ会話って言わないもの」
「大丈夫、出来てたよ。それよりも手が疲れたんじゃないか?」
司は私が手首を振っているのを見て苦笑した。
「司は大丈夫なの?」
「あぁ、慣れだろ。私は母さんといつも話してるからな」
慣れ・・・かぁ・・・。
「こんな時間に帰って来て言うのも何なんだけど・・・終電終わってますよ?」
静が敬語で話している姿が何だかおかしい。
司は私と同じ年なのに。
「そうみたいですね・・・タクシーでも構いませんから」
静が考え込んだ。
「もし、迷惑じゃなきゃ泊まっていきません?」
え?
「はい?」
「あ、迷惑じゃなきゃですよ?」
「そりゃ・・・構いませんけど?」
一体どうしたの?
私には静の考えが全く分らない。
「舞華と夜更かしでも何でもしてやって下さい。あ、風呂行って来る」
静はそう言って浴室に向かった。
「優しい男だな。お前にかなり惚れ込んでるみたいだし」
司の言葉に私は真っ赤になった。
「大事にされてんじゃないか。幸せ者」
私は両手で頬を押さえながら俯いた。
恥ずかしい・・・。
「あの男なら私も安心だ。お前を第一に考えてくれているからな」
司の手が私の頭の上でバウンドする。
「でも、もうすぐ・・・見つかっちゃうよ、きっと」
幸せな時間は長く続かない。
「心配すんな、あの男と美佐子さんを信用しろ」
お風呂から出た静は作曲に使う部屋で寝ると言って行ってしまった。
私と司はお風呂に入ってからベッドに潜り込んでからも話し続けた。
「しっかし・・・このベッドいつも二人で寝てるんだろ?何か落ち着かないな」
司が呟いた。
「どうして?」
「だってお前達が毎晩この上でヤってると思うと・・・」
「つ・・・司?!」
ヤってるって?!
司のダイレクトな言葉に私は動揺した。
「だってそうだろ?」
「ちっ・・・!」
「違うのか?」
平然と司は聞き返す。
「違うもん・・・」
「まだ、なんて信じんぞ?」
まだ・・・とは言わないけど・・・。
「一回・・・」
は・・・恥ずかしい・・・!
私は布団を頭まで引き上げた。
「はぁ〜?嘘だろ・・・?」
司の呆れた声が聞こえた。
「だって、お前がここに来てから一週間以上経つぞ?それで一回?健康な男ではありえんだろ?」
だって・・・嘘じゃないもの・・・。
「何の話をしてるんでしょうかねぇ?」
「あ・・・」
「部屋まで筒抜けなんですけど・・・あんまオヤジ的な質問やめてくれません?」
薄暗いリビングに静が呆れたように立っていた。
結局GEMメンバーと麗華に散々からかわれて俺は帰路についた。
部屋の扉を開けると音楽だけが聞こえていた。
電気は点いてるし、起きてるだろうけど話し声がしない。
靴を脱いでリビングに入るとしきりに手を動かしている二人が居た。
新しい遊びか?
二人は楽しそうだ。
・・・けど、妙。
「何・・・してんの?」
ただいまよりも先にそんな言葉が口から飛び出した。
「お帰りなさい」
ちょっと驚きながら舞華が俺に微笑む。
「何してたんだ?」
「手話で話してたんです」
・・・?
「しゅわって何?」
「耳の不自由な方達のコミュニケーション手段です。手で話すと書いて“手話”」
なるほど。
でも・・・。
「何でそんなんやってんだよ?」
「私の母は耳が不自由なので私には日常会話です」
杉浦が平然と答えた。
訊いてよかったのか?
どう反応していいのか分らなかった。
「舞華、お前そんなん出来るのか?」
俺はギターを下ろして、視線を杉浦から舞華に向けた。
「司みたいには無理。ゆっくり日常会話ってレベル・・・かな?」
「そんな事ないぞ、しっかり読めてたじゃないか」
「でも、自分が表現できなきゃ会話って言わないもの」
舞華はこんな事も出来るのか。
新発見だ。
「大丈夫、出来てたよ。それよりも手が疲れたんじゃないか?」
舞華が手首を振っていた。
「司は大丈夫なの?」
「あぁ、慣れだろ。私は母さんといつも話してるからな」
イマイチ分らない。
そんな事よりも重要な事を思い出した。
「こんな時間に帰って来て言うのも何なんだけど・・・終電終わってますよ?」
俺が帰ってきたのは終電。
反対側の登り電車も終わってた。
「そうみたいですね・・・タクシーでも構いませんから」
あまり金も時間も気にしている様子はない。
杉浦は裕福な家庭の子供らしい。
それも兄弟ありだろう。
一人っ子だったらこんな事許されないだろうし。
「もし、迷惑じゃなきゃ泊まっていきません?」
決して口説こうとか思ってるわけじゃない。
舞華が楽しそうだから・・・もっと笑って欲しいから、だ。
「はい?」
「あ、迷惑じゃなきゃですよ?」
「そりゃ・・・構いませんけど?」
あっさりオッケーかよ。
親の確認とか要らないのか?
放任?
ま、ありがたいけどさ・・・。
「舞華と夜更かしでも何でもしてやって下さい。あ、風呂行って来る」
俺は風呂場に向かった。
せっかく舞華が楽しんでるのに邪魔はしたくない。
あいつが泊まるなら俺はあの音楽部屋で寝ればいいだろう。
「俺、あっちの部屋で寝るから、二人はそこのベッド使ってください」
風呂から出た俺はそう言って部屋に篭った。
特にする事もなく、煙草に火を点ける。
最近一緒に寝ていたせいで一人が落ち着かない。
だからと言って信也のように毎晩求めたりはしない。
決して満足してるわけじゃない。
ただ、あいつを・・・舞華を大事にしたい。
それだけだ。
なのに、杉浦は女だと分ってるのに・・・嫉妬してる自分が情けない。
ここまで独占欲が強かったとは驚きだ。
今まで一度だってこんな感情を抱いた事はない。
舞華って女はやっぱり特別なんだと思う。
気が付くと部屋が煙たい。
俺は一体何本吸ったんだ?
煙探知機が鳴らないように俺は窓を開けた。
涼しい風が部屋に入ってくる。
舞華が笑ってくれるならこんな夜も悪くない。
そんな事を考えていると二人の会話が聞こえてきた。
・・・と言っても杉浦の声だけだが。
「しっかし・・・このベッドいつも二人で寝てるんだろ?何か落ち着かないな」
他人の家で寝れない奴って結構居るらしい。
それも普通のベッドだ。
オジョウサマの使うようなフカフカの物じゃない。
「だってお前達が毎晩この上でヤってると思うと・・・」
俺は噎せ返った。
何て話をしてるんだ?
女同士ってこんな会話をしてるのか?
「だってそうだろ?」
勝手に決め付けるなよ!
俺達はまだ一回だけだ!!
「違うのか?」
俺は呼吸を整えながら二人の会話に耳を澄ます。
決して盗み聞きをしようなんて考えているわけじゃない・・・けど、当然気になる。
「まだ、なんて信じんぞ?」
杉浦・・・お前は何者だ?
「はぁ〜?嘘だろ・・・?」
杉浦の呆れた声が聞こえた。
何を言ったんだ舞華?
「だって、お前がここに来てから一週間以上経つぞ?それで一回?健康な男ではありえんだろ?」
素直に白状すんなよ。
って言うか俺は健康だぞ!
ありえんってお前何者だ?
実は男とか言わないよな?!
俺の足はリビングに向かっていた。
「何の話をしてるんでしょうかねぇ?」
「あ・・・」
間の抜けた杉浦の声が聞こえる。
「部屋まで筒抜けなんですけど・・・あんまオヤジ的な質問やめてくれません?」
さすがにそれ以上の取調べは勘弁して欲しい。
俺はリビングの電気を点けて冷蔵庫に向かった。