親友来訪(舞華&司)
舞華が楽しみにしていた週末。
司がやってくる日です。
待ち遠しかった週末がやって来た。
司が来る。
私は朝からウキウキしていた。
「舞華・・・そんなに嬉しいのか?」
静が珈琲を飲みながら隣で苦笑している。
「だって・・・静以外の人に会うの久しぶりだもの・・・司とは十年来の友達だし・・・」
「妬けるな」
妬ける・・・?
私には意味が分らない。
首を傾げると唇が重なった。
「女相手に嫉妬して・・・情けねぇ・・・」
静は私を抱きしめながら呟いた。
「練習行かなきゃいけないんじゃないの?」
「あいつが来たら行く」
あいつって・・・司の事なのだろう。
私の新しい携帯が鳴った。
司からだった。
「司・・・?」
『おはよう舞華。今アパートの下に着いた』
「分った」
私は携帯を切って静を見上げた。
「司・・・着いたって・・・」
静は再び唇を重ねてきた。
深められるキスに私は動揺していた。
司が着いたって言ったのに、何で・・・?
インターホンが鳴った。
静はそれでも私を解放してくれない。
静の力に私が敵うはずもない。
無駄だと思いながら抗っていると、再びインターホンが鳴った。
それでも静はやめてくれない。
暫くして何度も何度も鳴らされた。
「ったく・・・」
静がやっと私から離れ、玄関に向かった。
「うわっ・・・!」
玄関を開けた音と共に静の驚いた声が聞こえた。
「おはようございます、静斗。こんな恰好で失礼します」
私が玄関を覗き見るとサングラスを掛けた腰までのソバージュへアの女性が立っていた。
黒い半袖のワンピースにカーディガンを羽織ったその女性は私を見て軽く手を上げた。
パンプスを揃えて私の許にやって来るとサングラスを外し、帽子のようにその長い髪を剥ぎ取った。
「つ・・・司・・・?」
「他に誰がいる?着いたと電話した筈だが?」
そ・・・そうなんだけど・・・まるで別人・・・。
驚く私を見て司はクスクスと笑った。
「姉の恰好を真似て出て来たんだ。さすがにいつもの恰好で出掛けて尾行されたらまずいだろ?」
司は私の頭を軽く叩いてそう言った。
「静斗が帰るまでここに居てもいいですか?」
司が静に尋ねた。
「・・・どうぞ、遅くなるけどそれで良ければ。女ってすげぇな・・・そこまで別人になれるもんなんだな・・・」
静も司の姿に驚いていた。
「女はいくらだって変化しますよ」
司は楽しそうに微笑んだ。
「練習行くんじゃないんですか?」
「あぁ・・・今からです。あ、じゃあ舞華をお願いします」
静は髪を掻き上げながらギターケースを抱えて部屋を出て行った。
その顔が妙に困惑していて少し笑えた。
私は朝から化粧をしていた。
結構楽しかったりする。
学園は化粧禁止だからしないけど、親に付き合う時とかはやってるから慣れたもんだ。
先日美佐子さんの事務所の帰りに鬘も買った。
お姉の髪型そっくりなヤツ。
あとは化粧とサングラスで誤魔化せるだろう。
私はお姉の服を無断拝借して準備を整え外に出た。
練習は十時からだとあの男は言っていたが、多少の早着延着は問題ないだろう。
私はそのまま電車に乗ってあの男の部屋を目指した。
建物に書かれた住所と手元のメモを照らし合わせ、あの男のアパートを確認して私は舞華に電話を掛けた。
「司・・・?」
緊張しながらも明るい舞華の声にほっとしながら微笑んだ。
『おはよう舞華。今アパートの下に着いた』
「分った」
短い会話。
私は電話が嫌いだ。
だから仕方がないのだ。
舞華の居る部屋は目の前だ、今長電話をする必要もない。
私は階段を上がり紙に書かれた部屋番号のインターホンを押した。
返事はない。
今電話して、舞華は分かったと言った筈だが・・・?
もう一度鳴らす。
またも応答なし。
何をしている新井静斗・・・!
私は腹が立ってきてインターホンを連打した。
嫌がらせのような連打の後、男は不機嫌そうに玄関の扉を開けた。
「うわっ・・・!」
私を見た瞬間の奴の第一声。
あんまりじゃないか?
「おはようございます、静斗。こんな恰好で失礼します」
私は男を見て微笑み、奥から顔を覗かせた舞華に軽く手を上げた。
パンプスを揃えて舞華の傍に行き、サングラスと長い髪を剥ぎ取った。
「つ・・・司・・・?」
「他に誰がいる?着いたと電話した筈だが?」
正直、そんなに驚くとは思わなかった。
「姉の恰好を真似て出て来たんだ。さすがにいつもの恰好で出掛けて尾行されたらまずいだろ?」
私は舞華の頭を軽く叩いた。
「静斗が帰るまでここに居てもいいですか?」
「・・・どうぞ、遅くなるけどそれで良ければ。女ってすげぇな・・・そこまで別人になれるもんなんだな・・・」
「女はいくらだって変化しますよ」
敬語も忘れアホ面を晒す男に私は微笑んだ。
遅くなるって言うならライブだろう。
舞華に気を遣ってその単語を飲み込んだに違いない。
「練習行くんじゃないんですか?」
「あぁ・・・今からです。あ、じゃあ舞華をお願いします」
困惑気味に髪を掻き上げながら男は部屋を出て行った。
「司、綺麗」
舞華が呟いた。
悪い気はしない。
取り敢えず女だからな。
「サンキュ。元気そうだな」
舞華の顔を見て私は素直に安心した。
「うん、ごめんね迷惑掛けて」
「いや、構わんさ。って言っても私は知らぬ存ぜぬを貫いてるがな」
話せる訳がない。
「当然だよ、司は悪くないもの。あ、お母さんから貰ってるケーキがあるの。一緒に食べよ」
舞華は慣れた足取りでキッチンに向かい、準備をしてくれている。
以前から通っていたとは思えないが・・・。
「さっきあの男が出てくるまで時間があったがどうしたんだ?」
私が尋ねると、舞華が急に怪しい動きをした。
・・・あの男、何かしてたな・・・?
「な・・・何でもないのっ気にしないでっ」
舞華の顔は真っ赤だ。
あの男は思ったよりも余裕のない男らしい。
そう思うと笑いが込み上げてきた。
「司っ・・・!笑わないでっ」
「悪い悪い・・・」
そう言いながらも笑いは止まらない。
珈琲を持って来た舞華は真っ赤な顔をしたままだった。
「ま、舞華が幸せそうだからいいや。深くは追求しないでおく」
差し出された珈琲はしっかりミルクが入っている。
「お砂糖は好きなだけ入れてね。私、司の味覚分らないし」
私は笑いを抑えながらスティックシュガーを二本珈琲に投入した。
「甘そう・・・」
舞華が呟く。
「甘いぞ。飲んでみるか?」
「ううん、いい・・・」
そこまで・・・と思うくらいあからさまに嫌な顔をしている。
「最近サークルも行ってないだろ?」
私は話題を変えた。
舞華に手話を教えたのは私だ。
私の母は耳が聞こえない。
だから私にとっては日常会話なんだが、舞華は興味を持って勉強をしている。
「行けないね・・・忘れちゃいそう」
舞華は寂しそうに笑った。
「じゃ、今から手話で話しよう」
「司の手は早すぎて読めないよ」
「大丈夫だ、ゆっくり表現してやる」
私達は再会の時間を手話で楽しんだ。
特に何かを聞き出そうと来た訳じゃない。
舞華が楽しめるならそれで充分だと思ったんだ。
ご覧頂きありがとうございます。
司が女だと分かっていながら嫉妬してしまう静斗。
余裕のなさが窺えます。
惚れた者の宿命でしょう。
手話・・・司が教えたんです。
司がサークルを紹介したんです。
月二回のサークルでもやる気があれば、一年くらいで多少の会話を交わす事は出来るようになりますヨ。
☆次回更新10月14日です☆