表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
4/130

良心の欠片(舞華&静斗)

毎週会うのが当然になっている二人。

今日の静斗はちょっと変。

どうしたんでしょう・・・?

私達の関係は変わらないまま半年を迎えている。

毎週金曜日の放課後の約束も同じ。

「舞華、来週の土曜日暇か?」

彼が問い掛けてきた。

「はい、特に用事はありませんけど?」

彼の部屋で珈琲を淹れながら私は答えた。

今日の彼はちょっとおかしい。

何だか困っているように見える。

「来週・・・ライブやるんだ」

そのわりには何故か嬉しそうじゃない。

彼はギターを弾いている時とても楽しそうなのに・・・。

私は首を傾げた。

「来ないか・・・?」

まさか誘ってくるとは思わなかった。

「新曲出来たんだ、この間話してたやつ・・・」

彼は聴いて欲しいらしい。

誘うからには自信があるのかも知れない。

「麗華が帰って来たら一緒に行けるか訊いてみます」

なのに・・・彼は浮かない顔をしている。

「新井さん?」

「麗華の言葉を誘導してくれないか?お前を誘わせるように」

彼はたまに分からない事を言う。

今回も素直に分からない。

「お前が行きたいって自分で言うのおかしいし俺が誘ったって言われても困るだろうし・・・麗華だったら自然かなって思って・・・」

多分・・・彼は私を悪者にしたくないのだと思う。

私は別に構わないんだけど、彼の気持ちを考えるとそんな事言えない・・・。

彼は私だけじゃなくて私の周りの人達にも気を使ってるのだと思う。

私が自発的に来たと言われないように彼なりに考えてくれたんだと思う。

麗華には悪いけど、彼女なら私を誘った前科があるから・・・。

少しだけ罪悪感。

でも行きたいと思う自分も居て私は悩んだ。

「無理にとは言わないから悩むなよ」

私の顔を見ていた彼が微笑んだ。

私はそんなに困った顔をしていたのだろうか?

彼はその後ライブの話をしなかった。

週明けの月曜日の夜、麗華に会った。

四日ぶりだった。

寮に帰った私が宿題をしている時だった。

「舞ちゃん」

部屋の扉を開けて鞄を放り投げると麗華は私のベッドに座って私を眺めていた。

「な・・・何?」

集中できずに私が麗華を見ると彼女は微笑んだ。

「舞ちゃん、今度の土曜日暇?」

土曜日・・・?

「どうしたの?」

「ライブ行かない?」

私が話をする前に彼女から言ってきた。

「ライブって・・・前みたいな?」

「そ、舞ちゃん好きでしょ?」

彼女は私の机の横に並ぶCDを見ながら微笑んだ。

「好きだけど・・・」

「じゃ、行こ。チケット持ってるから」

私は戸惑いながら頷く。

「ありがとっ舞ちゃん」

麗華が私に抱きついた。

彼女は最近友人と喧嘩したのかあまり一緒に居るところを見ないので若干心配だった。

でも、これで行ける・・・。

私も彼のギターを弾く姿が見たかった。

彼には言わないけど・・・。

私は心の中で麗華に感謝した。


俺達の付き合いも半年。

相変わらずキス以上の関係はない。

キスだってまだ数えるくらいしかさせてもらってない。

妙に緊張されてしまうので迂闊に手をだせない。

俺ってこんなに我慢できるんだなぁってちょっと感心。

「舞華、来週の土曜日暇か?」

キッチンに立つあいつに聞いてみた。

先週あいつと新曲について語ってアレンジを施した。

これが結構いい感じになってる。

GEMの奴らもいいと言ってくれた。

あいつに聴かせたいと思った。

「はい、特に用事はありませんけど?」

予想通りの言葉が返ってくる。

問題は誘うかどうかなんだよな。

信也はあいつを連れて行くことに反対してるし・・・。

あいつを連れて行くことでバンド仲間と喧嘩なんて馬鹿らしい。

女なんて・・・とか言っていた自分がどこかで笑ってる気がする・・・。

「来週・・・ライブやるんだ」

でも、俺はあいつに聴いて欲しい。

あいつと曲について語った後にアレンジしたからだ。

あいつのおかげだからだ。

「来ないか・・・?新曲出来たんだ、この間話してたやつ」

「麗華が帰って来たら一緒に行けるか訊いてみます」

あいつの言葉で俺はズルイ事を考えた。

麗華なら舞華を連れて来てもおかしくないんじゃないか・・・って。

俺にも多少の良心があるらしい。

罪悪感を抱く。

「新井さん・・・?」

「麗華の言葉を誘導してくれないか?お前を誘わせるように」

一瞬感じた罪悪感はどこに行ったのか?

所詮俺の良心なんてこんなもんだ。

自分を優先している。

あいつは意味が分からないらしい。

首を傾げている。

「お前が行きたいって自分で言うのおかしいし俺が誘ったって言われても困るだろうし・・・麗華だったら自然かなって思って・・・」

あいつに隠すなんて無理な話だった。

直球投げるまで打って来ない奴だからな。

あいつは困った顔で黙り込んだ。

そりゃそうだ。

困らせる事を言ったのは俺だ。

「無理にとは言わないから悩むなよ」

俺は少し自分の言った事を後悔した。

あいつのこういう困った顔なんか見たくないから。

俺はそのままライブの話を打ち切った。

日曜日、バイトを終わらせて家に帰ると信也が待っていた。

「信也どうした?」

俺は鍵を開けて家の中に信也を招き入れた。

「・・・随分綺麗にしてるんだな」

妙に厭味な言い方だった。

「あぁ」

「片付けてくれる奴が居るのか?」

「あぁ」

俺は簡単に答える。

多分信也は分かってるから言う必要もないだろう。

「お前・・・まさか・・・」

背後から殺気を感じて俺は振り返った。

「誤解すんな。舞華とは首から上の関係だ」

信也の動きが止まった。

俺があいつにキスしたことを怒ったのか?

俺がキスまでしかしてないことに驚いたのか?

答えは簡単。

信也は笑い出した。

「お前がよく我慢できるな」

「拷問だぞ」

俺は苦笑した。

「舞華の事本気なのか・・・?」

どうやらそれを訊きに来たらしい。

「あぁ、でなきゃこんな生殺し状態でいる訳ないだろ」

「だよな」

信也は安心したらしく表情が穏やかになった。

「飲むか?」

「あぁ」

俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

信也に缶ビールを手渡し腰を下ろした。

「またCD増えたな」

毎週CD屋に行ってるからな。

俺は心の中で呟く。

「麗華は帰ったのか?」

「あぁ、明日は学校だから。でも時間が遅いから家だな」

俺はナルホドと納得した。

「舞華は泊まるのか?」

「泊まってたら首から上の関係で済む訳ないだろ」

信也はクスクスと笑った。

「お前こそお袋さん何も言わねぇの?麗華の事」

「麗華は元々自由人だから母さんの手には負えないんだよ。俺のとこに居るだけで安心なんじゃないか?」

そんなもんなのか?

「だから舞華は可哀相だと思う。あいつは麗華の分まで縛られてるからな」

分かってるのにお前も自分を優先するんだな。

結局自分が最優先になる。

お前の良心も俺の良心も所詮そんなもんだ。

すぐに溶けて無くなる小さな氷みたいなもん。

俺と信也は翌朝まで酒を飲みながら語った。

奴とこんなに話したのは初めてかもしれない。

ご覧頂きありがとうございます。


自信作を舞華に聴いてもらいたいと思った静斗と聴いてみたいと思う舞華。

自由人で叔母に反発する麗華と舞華に皺寄せが来ると分かっても麗華を手放せない信也。

それぞれに良心の欠片があるようだが・・・結局は自分の欲が勝ってしまう。

人間って皆そうですよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ