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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
39/130

約束(静斗&司)


司と約束した木曜日。



俺は大学の講義を終えてバイクと荷物を置くために一度帰宅した。

舞華は部屋で勉強をしていた。

ここに教科書を持って来るあたりが真面目だと思う。

「舞、ちょっと出掛けてくるな。帰りにまた連絡する。バイトじゃないからそんなに遅くはならないと思う」

舞華にキスをして俺は部屋を出た。

駅まで歩いて行って、電車に乗って・・・約束の時間ギリギリに指定された場所に到着した。

インターホンを鳴らすと舞華の母親が顔を出した。

「どうぞ」

門のロックは解除されていた。

通された部屋は社長室だった。

既に杉浦の姿があった。

制服姿を見てやっぱり女だと実感する。

「遅くなってすみません」

「こちらこそ突然お呼び立てして申し訳ございません」

杉浦は立ち上がり頭を下げた。

「舞華の事でゆっくり話が出来る場所を考えたんですけど、貴方があまりにも目立つのでここに決めさせて頂きました」

確かに芸能人やら予備軍的な人物がたくさん出入りする場所だから怪しまれる事はないだろうけど・・・。

「で?舞ちゃんがどうしたの?」

杉浦はまだ話していないようだ。

「あぁ・・・先週、美佐子さんが帰った直後に危険行動を起こしたんです」

舞華の母親の顔から血の気が引いていく。

「そんな連絡もらってないわ」

杉浦は詳細を語った。

舞華の母親が来る前から様子がおかしかった事や面会後にカッターを握っていた事。

彼女の視点から見たままを話した。

精神的にかなり追い詰められていた事はよく分った。

「ですから私の判断で彼に預けました」

舞華の母親が俺に視線を移した。

「舞華は窮屈だとは思いますけど元気にしてます」

俺にはそれしか言えなかった。

「学園では理事長が色々な方向から舞華を探しています。見つかるのは時間の問題だと思います」

杉浦は冷静にそう言った。

「俺も舞華が望まない限り帰す気はありません。でも、平凡な大学生ですから限界があるとは感じてます」

見つかった時守りきれるか、正直自信はない。

杉浦が鞄から書類を取り出した。

「ないよりはマシだと思いましたので頂いてきました」

舞華の母親はその書類を受け取り微笑んだ。

「司ちゃんは気が利くのね」

「舞華のためですから」

杉浦も微笑み返す。

学園の事を知らない俺には全く理解できない。

舞華の母親は奥のデスクに腰掛け書類にペンを走らせた。

「こっちは貴方が持っていて頂戴。もし見つかった時は、私達が許可したと言って構わないわ。それでも強制的に連れ帰るようなら法的な手段を取ると脅してもいいわ」

俺は受け取った書類に目を落とした。

交際証明書・・・。

舞華の言っていたヤツだ。

「理事長には今回の舞華の未遂行為を報告済みです。その事で攻めても問題ありません。麗華の事もご存知のようですし、それも話しちゃって構わないと思います。外部の人間が知っていると分ればかなりなダメージを受けるんじゃないかと・・・」

この二人は精神的に攻撃する気なのか?

女は恐い生き物だと、この日改めて思った。


授業を終えて私は寮に帰った。

外出許可証を提出して駅へ向かう。

電車に乗って出掛けるのは久しぶりだ。

最近はライブハウスにも行ける状況じゃない。

舞華も同じだろう。

私は目的地の前でインターホンを鳴らした。

美佐子さんには昨夜話があるとアポを取った。

『はい』

「こんにちは、杉浦です」

『待ってたわ。入って』

門のロックが解除される音がした。

私は門を開け、中に足を踏み入れた。

大きな扉が開き、美佐子さんが姿を現す。

「こんにちは、突然すみません」

「いいのよ、入って頂戴」

私は美佐子さんの後ろを歩き、社長室に通された。

「ごめんなさいね、他の部屋使っててここしか空いてなくて」

「もう一人、来る事になってるんですけど・・・」

あの男は時間通りに来るんだろうか?

「あら、だぁれ?」

「美佐子さんもご存知の、新井 静斗という男です。彼が来たら話しますね」

美佐子さんの表情が曇る。

いい話ではない事が分ったんだろう。

しかし、あの男が来てからと言ったからか質問はなかった。

美佐子さんが紅茶を私の目の前に置いた。

「どうぞ。彼はいつ来るのかしら?」

「取り敢えず、五時に来るように言いましたけど」

「じゃ、そろそろ来るわね」

美佐子さんはあの男を信用してるんだろうか?

この人も不思議な人だ。

自分の娘が学校に行かなくても文句も言わない。

無関心なのか?

理解できない。

インターホンが鳴った。

「きっと新井君ね」

美佐子さんはそう言って微笑み部屋を出て行った。

時計を見ると五時ちょうどだった。

私は紅茶を口に運びながら微笑んだ。

「遅くなってすみません」

「こちらこそ突然お呼び立てして申し訳ございません」

私は立ち上がり頭を下げた。

「舞華の事でゆっくり話が出来る場所を考えたんですけど、貴方があまりにも目立つのでここに決めさせて頂きました」

私がこの男と会っていた事が理事にバレれば、この男の周辺を調べ舞華が見つかる可能性がある。

ここなら美佐子さんに会いに来たと言い訳も出来るしな。

「で?舞ちゃんがどうしたの?」

美佐子さんが話を切り出した。

「あぁ・・・先週、美佐子さんが帰った直後に危険行動を起こしたんです」

美佐子さんの顔から血の気が引いていく。

当然だろう。

「そんな連絡もらってないわ」

やっぱり・・・。

そんな気はしていた。

私が電話した時も動揺すらしていなかった。

私はここ一ヶ月の舞華の様子を、私の視点から話した。

勉強に関する事、日常生活、理事の視線、教師達が心配していた事などいくら話しても話し足りないくらいだ。

麗華が居ない事も補足した。

「ですから私の判断で彼に預けました」

美佐子さんの視線が目の前の男に移った。

「舞華は窮屈だとは思いますけど元気にしてます」

先日の電話で舞華の声は元気そうだった。

寮に居る時の声とは雲泥の差だった。

心配はないだろう。

「学園では理事長が色々な方向から舞華を探しています。見つかるのは時間の問題だと思います」

一番の心配は見つかった時だ。

「俺も舞華が望まない限り帰す気はありません。でも、平凡な大学生ですから限界があるとは感じてます」

相手は大人だ。

この男の言葉からも不安が覗く。

私は鞄から二通の書類を取り出し、美佐子さんに差し出した。

「ないよりはマシだと思いましたので頂いてきました」

美佐子さんは書類を受け取り、私を見て微笑んだ。

「司ちゃんは気が利くのね」

「舞華のためですから」

私も微笑み返す。

目の前の男は学園の事をよく知らないらしく不思議そうな顔をしている。

美佐子さんは一通の書類を記入し目の前の男に差し出した。

「こっちは貴方が持っていて頂戴。もし見つかった時は、私達が許可したと言って構わないわ。それでも強制的に連れ帰るようなら法的な手段を取ると脅してもいいわ」

さすがに美佐子さんもキレたらしい。

交際証明書は親が認めている事を表す。

見つかった時に持っていれば多少は違うかもしれない。

あくまでも“かも”だが・・・。

「理事長には今回の舞華の未遂行為を報告済みです。その事で攻めても問題ありません。麗華の事もご存知のようですし、それも話しちゃって構わないと思います。外部の人間が知っていると分ればかなりなダメージを受けるんじゃないかと・・・」

あの理事は何を言っても無駄かもしれないが、自分の名を汚されるのをひどく嫌がる。

外部の人間が菊池姉妹の起こした事を知っていれば彼女もさすがに動揺するだろう。

「こちらに連絡が来たら私の方からも新井君に預けたと伝えるし、何か言われたら法的手段も検討してるって言っておくわ」

美佐子さんは“大丈夫よ”と言うように微笑んだ。

「あ、俺の部屋の電話番号お知らせしておきます。舞華の携帯は電源切ってますから」

この男はかなり真面目らしい。

「新井君、これから時間ある?あるなら新しい携帯買って来るから舞ちゃんに渡して欲しいんだけど?」

美佐子さんは訊いただけで答えなんか聞く気もないらしい。

その証拠に男の言葉を聞く前にバッグを持って部屋を出て行った。

目の前で男が苦笑している。

「新井さん、美佐子さん・・・おばさんって言葉に異常反応するので気を付けて下さい。呼ぶ時は美佐子さんと言った方がいい」

取り敢えず舞華の事で世話になってる人物だしこれ位は教えておいてやろう。

「覚えておきます」

男は小さく頭を下げた。

「私は先に帰ります。新しい携帯渡したら私に掛けるように言って下さい。失礼します」

私はそう言い残して席を立った。

「杉浦さん、色々・・・ありがとうございます」

「司で結構ですよ静斗」

私は振り返り、男に微笑んだ。

この男とは付き合いが長くなりそうだ。

ご覧頂きありがとうございます。


何か話が進展しないなぁ・・・。

これがスランプという奴なんでしょうか?

こんなに長くなる話じゃなかったんですけどねぇ・・・。

どうか見捨てないで下さい(ToT)


☆次回更新10月10日☆

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