友人(司&涼)
前話「来訪者」の他視点です。
私は寮内の見回りと点呼を終えて部屋に向かっていた。
途中、真っ暗な部屋の前で足を止めた。
舞華の部屋だ。
住人が居なくなって四日。
あいつはどうしてるだろう?
気になるが、携帯は電源を切られていて連絡も出来ない。
多分、あの男が神経質になってるんだろう。
余程舞華に傾倒してるのだろうな。
私は部屋の戻って予習を始めた。
消灯時間などあってないようなものだ。
各々部屋で好きな事をしている。
私もそこまで口出しをする気にはならない。
暫くして私の携帯が鳴った。
見知らぬ番号だ。
もしかしたら・・・と思って私は電話に出た。
『もしもし・・・司?』
やはり舞華だった。
あの男の家の電話なんだろう。
後で登録させてもらうとしよう。
「元気か・・・?」
『うん、迷惑掛けてごめんね・・・』
お前が謝る事などない。
全ては理事の異常な程の監視、束縛が招いた結果だ。
「こっちもだいぶ落ち着いてきた。でも、お前を探す手は緩めてないから気を付けろよ?」
『うん』
舞華は元気なようだ。
返事の声が明るい。
「そこにあの男は居るのか?」
あの男とは話さなければならんだろう。
『居るけど・・・?』
「代わってくれ」
あの男も詳細を知りたがっているに違いない。
しかし、あの目立つ男と外で待ち合わせるのは危険だ。
私は比較的近く、外部の視線を避けられる場所を考えた。
・・・あそこが無難だろう。
あの男が出入りしても不審がられることはない。
『もしもし新井です。先日はどうも』
気取った声。
「こんばんわ杉浦です。用件だけですみませんが、舞華の両親の営む事務所の場所ご存知ですか?」
外での会話は最小限で抑えておかなければ危険だ。
『あ、はい・・・』
やはりM・Kは目を付けてるんだな・・・。
「木曜日の夕方五時にお待ちしてます」
『分りました』
「あ、それと私がそちらに伺ってもよろしいですか?やっぱり心配なんで」
どうせ舞華を閉じ込めてるんだろう。
毎日話し相手もなく過ごすのは精神衛生上大問題だ。
『え?あ、そりゃバレなきゃ構いませんけど?』
遠まわしに断りやがったな。
それで私が諦めると思うなよ。
「ありがとうございます。貴方には感謝してます」
厭味な言い方で返してやった。
「今後ともよろしくお願いします」
『こちらこそ。落ち着いたら、またライブ来て下さい』
宣伝はしっかりするんだな・・・。
思わず鼻で笑ってしまった。
『舞ちゃん座りなよ。先にご飯食べちゃおう』
電話の向こうから話し声が聞こえる。
どうやら部屋の中には他の人物も居るらしい。
『それじゃ、また明日』
慌てて電話を終わらせようとしているのが明らかだった。
『青梗菜美味しい!』
この声は男だ。
舞華は大丈夫なのか?
あいつは男免疫もないし、極度のあがり症だ。
「何だか楽しそうですね。貴方を信用してますが、あまり派手な行動は避けて下さいね」
『分ってます。じゃ、失礼します』
逃げやがった・・・。
先週末から静斗が妙に機嫌がいい。
信也と朝から話し込んでるのもおかしいし。
信也は教育者の息子とは思えないくらい遅刻常習犯。
麗ちゃんと居るのが心地いいのは分るけど・・・さ。
そんな信也が早くから大学で静斗と話し込んでる。
不思議に思わないわけがない。
土曜日も「俺の部屋は駄目」とか言って僕の部屋になったし。
別に困る事ではないけど、気になる。
そう思ったら動くのが僕。
多分、英二は気になってるだろうけど凹んでる訳じゃないから動かないだろうな。
僕は静斗がバイトを終える時間を考え、帰宅時間を予測して静斗の部屋に向かった。
アパートに着くと先ず駐輪場に目を遣る。
静斗のバイクがある。
帰って来てる証拠だ。
僕は階段を上ってインターホンを押した。
ま、このアパートのインターホンは壊れてるから呼び鈴と言った方がしっくりくるんだけど。
少し間があって鍵の開く音が聞こえた。
「お邪魔しまぁす!」
僕は扉を勢いよく開けて、許可も得ずに部屋の中へ入って行った。
「おい!何しに来たんだよ?!」
僕はキッチンに立つ意外な人物に驚いた。
「あれ、舞ちゃん?何で?」
今日は金曜日じゃない、月曜日だ。
静斗は舞ちゃんと会ってるのは金曜日のはずだ。
金曜日は静斗の機嫌が良かったし、講義を終えるとすぐに帰って行くから簡単に推測できる。
静斗は分りやすいんだよね。
「色々と事情があるんだよ。絶対に誰にも言うなよ」
静斗が髪を掻き上げながら大きな溜め息を吐いた。
事情か・・・。
いい話じゃないんだろうな・・・。
「この間から機嫌がいいと思ったら、こういう事ね・・・」
機嫌がいいのは確かだ。
多分、信也と話してたのは舞ちゃんの話。
麗ちゃんは何も聞かされてないんだろう。
でなきゃわざわざラウンジで話す必要もないだろうから。
「久しぶりだね舞ちゃん。元気?」
「はい、お久しぶりです」
舞ちゃんは笑顔で答えてくれた。
この二人に関しては問題なさそうだ。
問題は・・・舞ちゃんがここに居る事から考えて、聖ルチアの理事ってところかな。
ま、話す気もないみたいだし・・・暫くは放っておこう。
何かあれば言ってくる筈だ。
「ご飯これからなの?僕もご一緒していい?」
テーブルの上には静斗のために作られた夕飯が並んでいる。
舞ちゃんの手料理は美味しいんだよね。
「・・・ったく・・・!」
静斗は溜め息を吐きながらコンポの前に腰を下ろした。
僕が話を変えた事で多少安堵の色が浮かんでいる。
「で?今日は何の用だよ?」
「別に用なんてないけど?」
訊けないなら訊かない。
そしたら用事なんてない。
「どうぞ」
舞ちゃんがご飯を運んで来てくれた。
礼を言おうとしたら舞ちゃんは困った顔をしながら静斗を見ていた。
「・・・静、お母さんと司に・・・連絡してもいい?」
どうやら親にも内緒らしい。
司って誰だろ・・・?
舞ちゃんの事だから女の子かな?
「お前の母親には俺から電話するから、杉浦って子にはお前から電話した方がいいかもな」
静斗が電話するの?
・・・何か面白そう・・・。
「あ、携帯の電源はすぐ切れよ」
「うん・・・」
静斗は異常なほどに神経質になっている。
事は深刻なのかもしれない。
「もしもし・・・司?・・・うん、迷惑掛けてごめんね・・・うん・・・居るけど?」
舞ちゃんが静斗に視線を移した。
「どうした?」
「司が静と話したいみたい・・・」
静斗は黙って立ち上がり受話器を握った。
僕と舞ちゃんは顔を見合わせて首を傾げた。
「もしもし新井です。先日はどうも・・・あ、はい・・・分りました・・・え?あ、そりゃバレなきゃ構いませんけど?」
「舞ちゃん座りなよ。先にご飯食べちゃおう」
あまり聞かない方がいいのかもしれない。
僕は舞ちゃんに微笑んで箸を握った。
「青梗菜美味しい!」
わざと大きな声で叫んだ。
「涼!お前先に食うなよ!」
電話を切った静斗が慌てて戻って来た。
僕達は食事をしながら、久しぶりに音楽論議を楽しんだ。
舞ちゃんは日付が変わっても帰ろうとしない。
このまま静斗の部屋に泊まるのかもしれない。
舞ちゃんと音楽の話をするのは楽しいけど・・・。
これ以上の邪魔は申し訳ないな・・・と思って深夜一時過ぎに帰路についた。
帰り際、静斗が小さな声で僕に言った。
「サンキュ」
色々な意味で言われた気がしたんだけど、深くは追求しなかった。
二人が笑ってる、それだけで僕も嬉しかったし。
ご覧頂きありがとうございます。
これは指が軽かったです。
司と涼というキャラクターは書いていて楽しいんですよね・・・。
だからと言ってこの二人視点からだけだと話は進まないし。
ちょっとした息抜きってやつです。
すみません・・・。
☆次回更新10月8日です☆