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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
32/130

危険(舞華&司)


寮と学校の行き来しかしなくなった舞華。

そんな舞華が心配な司。

そんな時に面会に訪れたのは・・・。

学校から帰って来た私を司が待っていた。

「おかえり、舞華。お前にお客様だ」

お客様・・・?

私は顔を顰めた。

「そんな顔をするな。敵じゃない」

司は私の眉間を人差し指で押した。

「舞ちゃん」

司の後ろからお母さんの声がした。

「お母さん・・・」

私は泣き出しそうになった。

「美佐子さん、部屋の方でも構いませんからどうぞゆっくりお話下さい」

司は私とお母さんの背中を部屋まで押して行った。

「つ・・・司、面会のときは面会室じゃ・・・」

「美佐子さんが会いに来た理由は皆知ってる。あんなところで話せる内容じゃないだろ。寮長は私だ、私が良いと言ったら良いんだ。気にするな、誰も文句など言わせん」

司は私の部屋の扉を開けるとお母さんと私を押し込んで扉を閉めた。

ベッドに私が腰を下ろすとお母さんが隣に座った。

「少し・・・痩せたんじゃない?」

お母さんは私の頬に触れて哀しく微笑んだ。

「新井君にも会ってないの?」

静の苗字を聞いた瞬間私の目から涙が溢れ出した。

「随分我慢してたのね」

お母さんはそう言って私を抱きしめた。

お母さんの手はとても温かくて優しかった。

「麗ちゃんから話は聞いたわ。麗ちゃんも凄く心配してたわよ」

お母さんから身体を離すと私はお母さんを見上げた。

「週末・・・お家に帰ってたんですって?司ちゃんが言ってたわ」

私は小さく頷いた。

最近は帰ってないけど・・・。

「明日は帰って来る?」

「・・・分らない・・・」

最近はこの部屋から出るのが恐い。

「私も帰るから一緒に過ごしましょ」

お母さんは微笑んだ。

「詳しい事は明日お家で聞くわ。ここじゃ誰が聞いてるか分からないし落ち着かないから」

私は頷いた。

「・・・お母さん、ありがと」

お母さんにお礼を言うとお母さんは私の頭を撫でて部屋を出た。

一人になった部屋の中で私はほっとした。

誰も居ない・・・。

不思議と笑みが漏れた。

「もういいんですか?」

廊下で見張りをしていたらしい司の声がした。

「えぇ、明日も帰って来てくれるって言うから明日詳しく聞くことにするわ」

「それがいい。ここは野次馬精神旺盛な馬鹿者共が多過ぎる」

「司ちゃん、舞ちゃんをよろしく」

「はい」

二人の会話を私は黙って聞いていた。

私は何してるんだろう・・・。

どうしてここに居るんだろう?

そう思いながら部屋を見渡す。

私の視線が麗ちゃんの机の上のペンスタンドで留まった。

私は吸い寄せられるように麗ちゃんの机に向った。

私が手を伸ばした瞬間、部屋の扉が開いた。

「舞華!」

司の声がしたと思ったら肩を掴まれ私の頬に痛みが奔った。

「お前、今何しようとした?!」

掴んだ物が私の手から滑り落ちた。

慌てて拾おうとしたが、司の足がそれを踏んだ。

「馬鹿なことを考えるなと言っただろう?!」

司は私の両腕を掴んで強く揺すった。

「もう嫌なの・・・!叔母様に見張られながら生活するなんて嫌・・・!」

静に会えないなんて嫌・・・!

私は初めて司の目の前で泣き崩れた。

「舞華・・・」

困惑する司の声が聞こえた。

「逃げろ。お前が今、一番行きたい所に逃げてしまえ。きっとお前を守ってくれる。あの男の所に行きたいんだろ?」

あの男・・・?

「司・・・?」

何で知ってるの?

「そんな顔するな。以前見掛けたと言ったろ?私もあのライブハウスの常連なんだ」

司の言葉に私は返す言葉もなかった。

「以前麗華と出掛けてな、それ以降病み付きになってる。お前とあの男が会ってるのも何度も見てる。美佐子さんも知ってるんだろ?」

私は頷いた。

麗ちゃんと行ってたんだ・・・。

「司・・・」

「ただ、お前もそれなりの覚悟が必要だぞ。私には時々連絡だけ入れてくれればいい」

司は私から離れると大きなバッグに服や教科書を詰め込んだ。

「つ・・・司・・・?」

手際よく荷物を詰め込んだ司は私にバッグを差し出した。

「電話を貸せ」

私は言われるままに司に携帯電話を手渡した。

「どれが奴なんだ?女の名前しかないじゃないか?」

「・・・静・・・それが彼・・・」

司は何を思ったのか発信ボタンを押した。

「司・・・!」

「任せろ、大丈夫だ・・・あ、初めまして杉浦 司と申します。今すぐ指定する場所に来ていただけませんか?舞華をお願いしたいんです・・・いえ、一歩手前とでも言っておきましょうか・・・聖ルチアの傍に公園があるんですけど、そこでお待ちしてます。失礼します」

私はどんなやり取りをしているのかよく分らなかった。

「舞華、窓から外に出ろ。靴は私が持って行く、その場を動くんじゃないぞ」

司は窓を開けてバッグを投げ出し、私は司の手を借りて窓から外に出た。

司は戸締りをしてカーテンを閉めた。

私はその場にただ立っていた。

何をしていいのか分らなかった。

「舞華」

司はすぐにやって来た。

「これ履け」

私の靴・・・。

司はバッグを持って私の手を握り公園に向った。


最近舞華の様子は明らかにおかしかった。

理事長の視線に脅えているのは分るが・・・なんと言えばいいだろう?

病んでる、と言っても過言じゃない。

本で読んだ、ある病気の症状に似てる気がする。

まだ、マトモに会話も出来るし危険な状況ではないと思うが・・・。

あの男に会えなくなったのがショックなんだろうか?

GEMのSeito。

私はそれしか知らない。

舞華があの男と楽しそうに会話をしている姿を何度か目撃している。

あれが舞華の男に違いないんだが・・・。

「寮長、面会の方がお見えなんですけど・・・」

「あぁ悪い、すぐ行く」

私は立ち上がって部屋を出た。

面会希望者は舞華の母親だった。

「・・・美佐子さん」

「あら、司ちゃん。司ちゃんが寮長さんなの?」

「はい」

美佐子さんとは結構仲良くしてもらっている。

舞華と遊んでいた頃からの付き合いだ。

気心も知れている。

「舞華はまだ帰ってないんですよ」

寮の入口に掛かっているネームプレートを見て私は答えた。

「そうみたいね。司ちゃん、ちょっとお話しない?」

こういう話の振り方は何かある時だ。

「林、舞華が帰ったら知らせてくれ」

私は美佐子さんと私の部屋で話すことにした。

「舞華の事でしょう?」

扉を閉めて私は美佐子さんに尋ねた。

「・・・舞ちゃん・・・どう?」

「一言で言えば病んでます」

当然だが美佐子さんの顔が青ざめていく。

「舞華はここ一ヶ月学校と寮の行き来しかしてません。部活もサークルも自宅も行ってないんです。部屋に篭ってただぼーっとしてるんです。そろそろ危険だと思いますよ」

部屋の扉に寄り掛かりながら私は簡単に話した。

それ以上は言えなかった。

「私も訊きたい事がいくつかあります。いいですか?」

美佐子さんは私の顔をじっと見た後黙って頷いた。

「舞華・・・男いますよね?」

私の言葉に美佐子さんの肩が震えた。

「舞ちゃんが言ったの?」

「訊きたい事だと申し上げたはずです」

美佐子さんは少し考えてから小さく頷いた。

「親公認と解釈していいんですね?」

美佐子さんは頷いた。

さっきのような間はなかった。

ただ、交際証明は出してない。

まぁ、舞華の交際相手があの男だと分ったら理事長は許さないだろう。

菊池一家もそれを分ってるから敢えて書類の提出をしていないんだろう。

「司ちゃんこの事は・・・」

「誰にも言いません。私が確認したかっただけです。名前は知りませんが人物も特定できてますから」

正直、驚かなかった訳じゃない。

舞華は男を知らない。

あの男が清い交際をしているとは信じ難かったのは事実だ。

麗華と出掛けていた頃は毎回違う女を連れていたからな。

「寮長、菊池さん帰って来ましたよ」

扉の向こうから声がした。

「あぁ今行く」

私は返事をして立ち上がった。

「司ちゃん、何かあったら連絡頂戴」

美佐子さんは私に名刺を差し出した。

「美佐子さん、私は舞華に何かあったら舞華にとって良いと思う方法を選択します」

美佐子さんは黙って頷いた。

そして、その日の夜私は舞華にとっていいと思える決断を下した。

ご覧頂きありがとうございます。


舞華が危険な行動を起こしました。

伯母から逃げるための方法は、彼女の中でそれしかなかったのかもしれません。

司も動きました。

舞華のために。

静斗は・・・?


お母さんと言う事で・・・。


―― 菊池きくち 美佐子みさこの紹介 ――


舞華と麗華の母親。

結婚前は女優さんでした。

高校生の娘を持つ母親には見えない、綺麗でスタイル抜群な女性。

夫である敦と共に芸能プロダクションを経営。

M・Kの副社長。

仕事が忙しかった頃に二人を聖ルチアの理事である高井戸百合に預け、日々世界中を駆け巡っていた。

最近は日本に落ち着いている。

一見、干渉しないようだが二人の娘を大事にしている。

自由奔放で気さくな女性。

身長:170cm

血液型:B型

趣味:旅行、家族団欒、料理

特技:説得、脅し、ピアノ、演技

嫌いな言葉:おばさん

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