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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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ファーストキス(舞華&静斗)

初めて会ってから二ヶ月。

二人はこんな付き合いをしています。

「舞華」

新井さんが私を呼んだ。

いつもの待ち合わせ場所に彼は居た。

彼は身長が特別高いわけではないけれど金髪に近い長い髪と異様な存在感で周囲の目を釘付けにする。

今日もジーンズに白地に紺のチェックのシャツを着てサングラスを掛けて立っている。

決して派手な服装ではないのに・・・目立つ。

そのサングラスが余計に人の目を惹くのではないかと思う。

私はインド綿のティアードスカートにに黒の刺繍入りブラウスという簡単な服装。

彼と並んで歩くにはいつも不釣り合いかもと思ってしまう。

私の真っ黒で真っ直ぐな髪は子供っぽく見えるのではないだろうか?

だからと言って、校則で髪の色を変える事もパーマを掛ける事もできない。

ジーンズとか穿いた事ないし、似合わないし・・・。

この三ヶ月間、毎回服装に悩んでいた。

「お待たせしてすみません」

「いや、そんなに待ってないし」

彼は優しい。

そのさり気なさに毎回ドキドキしてしまう。

今日だって・・・多分何十分も待っていてくれたんだと思う。

もう七月も末。

外で待っていてくれたからだろう、額に薄っすら汗が光ってる。

「中見てもいい?」

彼とは毎週金曜日にこのCD屋さんの前で待ち合わせしている。

そして毎回彼は中を見て新譜が出ていないか確認してから家へと向う。

彼の家は視聴し放題のパラダイス。

聴いた事のないアーティストの曲や彼らのバンド“GEM”のオリジナル曲を聞かせてもらって、珈琲を飲みながら音楽論議を楽しむ。

そんな交流が始まって二ヶ月。

週末がとても楽しみになっている。

彼と過ごす時間はとても充実していて時間を忘れるほどに楽しい。

「あ、エクレールの新譜出たんですね」

彼の傍にあったCDを手に取って彼を見上げた。

「あぁ、日曜日に偶然見つけて買った」

このバンドも彼に教えてもらった最近お気に入りのバンドだ。

「今回バラードもあったぞ。13曲目の“Voice”ってやつ。聴いてみる?」

「はい」

彼は歌詞カードを私に投げて遣し、CDを入れ替える。

「俺は結構いいと思ったんだけど」

彼がいいと思う曲は私が聞いてもいい曲だと思うものばかり。

曲が流れ始めて私は瞳を閉じて曲に聴き入った。

ふと目の前に影が差し瞬間、唇に何かが触れた。

彼の唇だった。

「俺の女になれよ」

私の頭はパニックを起こしていた。

彼が私を抱きしめた。

「俺の女になれよ、舞華・・・」

私の耳元での不器用な囁きに頭は真っ白になった。

そして、初めてのキスは珈琲と煙草のちょっと大人な馨りがした。


舞華と毎週金曜日に会うようになって三ヶ月になる。

相変わらず警戒心もなく俺は禁欲生活だ。

あいつの無邪気な笑顔に俺は我慢せざるを得ない。

今日もあいつと待ち合わせ。

大学の講義を終え、俺はさっさと帰り支度をしてキャンパスを飛び出した。

あいつとは音楽の趣味も似ているし、あいつと交わす音楽論議も楽しい。

毎週あいつに会う事が俺の楽しみになっていた。

女に待たされるのが嫌なはずの俺が待ち合わせ場所でかれこれ二十分も待っている。

他の女なら、俺は行って居なかったらそのまま帰ると思う。

たくさんの人間が行き交う場所なのにあいつはすぐに見つかる。

特別背が高いわけでもないし、派手なわけでもない。

めちゃくちゃ美人!って訳でもない。

でも、一際異彩を放っているように思える。

穢れを知らない天使が人間に紛れてる、そんな感じ。

俺が手を上げてあいつを呼ぶとあいつは微笑みながら駆け寄ってきた。

「お待たせしてすみません」

あいつは毎回そう言う。

「いや、そんなに待ってないし」

俺も毎回そう言っている。

「中見てもいい?」

暑いのもあるけど、あいつをすぐに家に連れて行くと俺は我慢できなくなるから毎回CD屋の中で音楽の事で頭をいっぱいにしてから帰る。

そうでもしなきゃ手も出さずに二ヶ月も付き合ってられない。

あいつの中で俺はどういう関係の男なのかちょっと気になる。

家に着くとあいつは珈琲を淹れてくれる。

そして落ち着くと借りて行ったCDを俺に返してそのCDの話で盛り上がる。

こんな関係も悪くない。

俺らしくないけど。

「あ、エクレールの新譜出たんですね」

あいつは目聡い。

「あぁ、日曜日に偶然見つけて買った。今回バラードもあったぞ。13曲目の“Voice”ってやつ。聴いてみる?」

「はい」

最近このバンドが気に入ってるらしい。

嬉しそうにあいつが頷いた。

歌詞カードをあいつに投げてCDを入れ替え、13曲目を流すとあいつは目を閉じて聴き入った。

そうやって聞くことを予測してはいなかった。

でも、そんな無防備なあいつを見ていたら身体が勝手に動いた。

吸い寄せられるようにあいつにキスをした。

「俺の女になれよ」

無意識にそう言っていた。

あいつは初めてで動揺したのか固まっていた。

俺はあいつを抱きしめて再度あいつの耳元で囁く。

「俺の女になれよ、舞華・・・」

好きだでも、付き合ってくれでもなく俺の女になれって・・・ちょっと野蛮な感じの言葉は俺らしいのかもしれない。

ご覧頂きありがとうございます。


純粋に音楽を聴きに行っている舞華と、隣で悶々としている静斗。

こんなのがいつまで続くのか・・・。

っていうかいつまで我慢できるのか?

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