呼び出し(麗華&信也)
連休中にクラスメイトに会った舞華と麗華。
その四日後、学校では・・・。
あの夜から四日。
私は学校にやって来た瞬間から周囲の視線が自分達に向いていることを感じていた。
こういった情報というのはすぐに回ってしまうものなんだと改めて実感。
私は構わないけど、舞ちゃんが可哀相だ。
私は慣れてるけど舞ちゃんはこういう視線に慣れてない。
『三年A組菊池舞華さん、菊池麗華さん、大至急理事長室までお越し下さい』
呼び出されたのは一時間目が終わってすぐ。
つまりは学校に来ているかどうかを確認してからの呼びだしって事。
何で昼休みじゃないかっていうと、私が消える前に話を訊きたいから。
分かり易い叔母さんでしょ?
二時間目は遅刻か欠席か・・・。
「舞ちゃん、行こう」
舞ちゃんは泣きそうな顔をしていた。
私はチクったあの女を見てわざと微笑んだ。
あの女の顔から血の気が引いていくのが分かる。
「大丈夫、私が一緒だし。信也も来るから」
私がそう言うと舞ちゃんが顔を上げた。
「何で?何で信也さんが来るの?だっていつ呼ばれるかなんて分からないのに・・・」
やっぱり慣れてないんだな・・・当然だけど。
「携帯って便利な物があるじゃん。今日は信也この辺で待機してるって言ってたし」
私は携帯を取り出し信也に電話をした。
「もしもし?今呼ばれた」
『わかったすぐ行く』
簡単な会話だけして私達は理事長室にやって来た。
重々しい扉をノックして開けると険しい顔をした理事長である叔母さんが居た。
「座りなさい、何を言われるか分かってるわね?」
私達は叔母さんの正面のソファに腰を下ろした。
「どういう事なのか説明して頂戴」
「その前に叔母さんが聞いた話を聞かせてよ。どんな風に聞いてるのか確認しなきゃ話せない」
当然だ。
色々と脚色されている恐れもある。
「貴女達が夜分遅くに男性と一緒に仲良くコンビニエンスストアで買い物してたって話だわ」
その男が信也であることを伏せてチクったって事ね。
「その情報はいつどうやって入手したの?」
直接あの女が言ってきたとは思えない。
「今朝、私がここに来てすぐに電話が来たのよ。もういいでしょう?話して頂戴」
叔母さんは人の話なんか聞く気もないくせにそう言うんだ、いつもそう。
廊下が急に賑やかになった。
「何かしら?」
叔母さんが立ち上がって扉を開けた。
信也が来たんだと私は思った。
「信也・・・!貴方何しに来たの?!」
あぁ面白い。
叔母さんの慌てる姿って何度見ても楽しい。
「息子が母親に会いに来てその出迎えもどうかと思うけど?」
たくさんの生徒が居る中で信也はそう言って微笑んだ。
当然周囲はざわめいた。
「麗華と舞華、そこに居るんだろ?」
「貴方には関係ない事でしょ?!」
「大有りだ。一緒に居たのは俺なんだから」
叔母さんの顔が真っ青になった。
「入りなさい、中で聞くわ」
信也の背中越しに私はあの女の姿を見つけた。
真っ青な顔をしていた。
ざまぁみろっ。
私は小さく微笑んだ。
「さ、話して頂戴」
叔母さんは戦意喪失していた。
信也を口汚く罵るなんて事できる人じゃないんだから。
それを知ってるから私は信也を呼んだんだもん。
「だから、コンビニに一緒に買い物に行ったのは俺だって事」
信也も慣れたものだ。
「何で貴方がこの子達と一緒に居たの?夜遅くなんでしょ?」
「麗華と出掛けてから菊池の家で飯ご馳走になってた。ま、作ったのは舞華だけど」
アドリブも信憑性がある。
さすが信也っ。
「で、食後に茶を貰おうとしたら茶葉がないって言うから買い物に付き合って茶をご馳走になって帰った、と」
叔母さんは両手で髪を掻き上げた。
かなり動揺しているのが分かる。
私は心の中で一人、大笑いしていた。
「何でそんなに遅い時間に食事をしたの?」
「何でそんな野暮なこと訊くかな?」
笑顔の信也の言葉に叔母さんは真っ赤になった。
いやらしい〜。
「ま・・・舞華を巻き込むのはやめて頂戴。そんな軽率な行動をとるから濡れ衣を着せられる事になるのよ・・・!舞華も夜分遅くに外に出るなんて事二度としないで頂戴!貴女だけは・・・」
「私の顔に泥を塗るような真似しないで頂戴?」
思わず叔母さんの代わりに言ってしまった。
ワンパターンなんだもん。
叔母さんの顔が再び真っ赤になった。
「叔母さんやかんみたい」
私と信也はクスクスと笑った。
「もういいわ、出て行って頂戴・・・!」
信也のお蔭で短時間で済んだようだ。
「麗華、お前今携帯持ってるか?」
立ち上がったところで信也に腕を掴まれた私は小さく頷いた。
「あの時お前撮ってたよな?」
何の事かと一瞬思ったけどすぐに思い出した。
「あぁ、あれね」
私は携帯を操作して動画を再生させた。
そこには録画した日付と時間とその場に居た全員が映っていた。
叔母さんの目が怒りを含んでいた。
「この子は?」
「麗達のクラスの生徒で、名前は清水果歩。母さんにリークしたのもこの女だと思う」
信也は私の携帯動画を赤外線送信で自分の携帯に移して私に携帯を返してきた。
「さて、母さんはどうする気?この女は母さんに恥を掻かせたんだよ?」
信也が一瞬悪魔に見えたのは私だけかな・・・?
私も出来るだけ怒らせないようにしなきゃ・・・。
麗華達が出て行って俺と母さんは向き合ったまま特に会話もなく座っていた。
俺はポケットから煙草を取り出し火を点けた。
「・・・随分とタイミングよく来れたものね」
母さんはそう言って俺を睨んだ。
「毎度麗華を呼び出してたんだ、なんとなくだけど呼び出す時間も予測できるさ」
麗華からの電話で、なんて言う訳ないだろ。
事実、中等部時代はしょっちゅう麗華を呼び出してたんだから。
「舞華を巻き込まないで頂戴」
「巻き込む気なんてなかったさ。あの時間に聖ルチアの生徒が一人でふらついてるなんて思わなかったし。その女だって酒の匂いさせてるし何かあったらマズイと思って家まで送ってやったんだ。」
俺は煙草の煙を眼で追いながら答えた。
「理事長の息子として当然の事だろ?」
俺は文句を言わせないように言葉を付け足した。
その直後理事長室の扉がノックされて清水果歩がやって来た。
「どうして呼ばれたのかお心当たりは?」
母さんは扉の前に立つ女に感情のない声と顔を向けた。
女は真っ青な顔で俯いていて何も話そうとしない。
「おはよう、四日ぶりだな」
俺は女に微笑んだ。
「あ・・・貴方なんか知りません・・・!」
俺は母さんに視線を移した。
母さんは嘘が嫌いだ。
「貴女、土曜日に彼に会っているでしょう?」
「いいえ!いいえ会ってません・・・!」
「おかしいわね、貴女に双子の姉妹はいないのに。菊池姉妹を知っているこれはどなたかしら?」
母さんは動画を再生して清水果歩に見せた。
「説明して頂戴」
母さんは獲物は逃がさない。
女からしっかりと話を聞くまで帰すなんて事はしない。
女はこれ以上嘘を吐いて母さんを怒らせたくないらしく、観念して話し始めた。
合コンに参加した事、飲酒した事、そこで知り合った野郎とヤった事まで。
そこまで話す必要なんてないのに・・・。
そこまで話してしまえば、当然母さんは品位を汚したと退学処分にするだろう。
ただでさえ恥を掻かされたんだ簡単な処分で済む訳がない。
馬鹿な女だ。
女は母さんに酷い言葉を浴びせられて泣きながら理事長室を飛び出して行った。
俺はそのまま適当に授業が終わるまで理事長室に留まった。
チャイムの音と共に立ち上がると母さんも立ち上がった。
「帰る」
「今後は気をつけて頂戴」
「母さんもね。あんまり舞華を苛めないでくれ。麗華同様舞華だって強くないんだからさ」
出来れば自由にさせてやって欲しい。
無駄な事だとは分かってる。
でも言わずにはいられなかった。
校舎を出ると麗華と舞華が走って来た。
休み時間になった校舎の窓には野次馬がたくさん集まっている。
「信也、どうだった?」
心配そうな顔をしている。
「大丈夫、お前達にお咎めはない・・・ただ舞華には暫くはライブを我慢してもらわなきゃならないと思う」
舞華は哀しく微笑んだ。
「仕方ない・・・よね」
俺は二人の頭を撫でて学校を出た。
そして重い足取りで大学に向う。
授業じゃない。
静斗と話をする為だ。
舞華と会うのは暫く遠慮してもらわなければならない。
今回見られたのが俺だったから良かったが、もし静斗だったら・・・?
舞華は母さんの管理下に置かれて寮にも自宅にも帰してもらえなくなるだろう。
それだけは避けなければ・・・。
ご覧頂きありがとうございます。
体調が良かったので更新しちゃいました。(^▽^)
理事長に呼び出されちゃいましたね。
舞華の行動が制限されることになります。
舞華はどうする?
静斗は?
麗華は?
信也は?
本格的にシリアスになってきたかな。
でも「シリアスだけ」ってのは苦手なんですみません、たまに馬鹿なこと書きます。
すみません・・・(^^;)
“ゴールデンウィーク”あたりから、作品が暗〜くなってきます。
何とか軌道修正してますが・・・。
基本シリアスなんで、まぁいっか・・・。
呼び出した理事・・・と言う事で・・・。
―― 高井戸 百合の紹介 ――
聖ルチア学園の理事長。
GEMのドラムでリーダー、高井戸信也の母親。
菊池舞華&麗華姉妹の父、菊池敦の妹。
妙にプライドが高い女性。
真面目で冗談の通じないお堅いお人です。
口癖は「私の顔に泥を塗るような真似はやめて頂戴」
親族以外の生徒には優しい一面も・・・。
身長:155cm
血液型:A型
趣味:読書、音楽鑑賞
特技:説教
苦手なこと:負けを認めること
・・・すみません何か手抜き・・・?
次回更新9月20日デス。