花見(舞華&静斗)
春です。
春になりました。
四月。
私と麗ちゃんは無事に進級した。
・・・といっても麗ちゃんの場合、叔母様の力以外の何ものでもないんだけど。
麗ちゃんと私は同じクラスになった。
先生達の思惑が絡んでいるとしか思えない。
そして、ルチア会にも残念ながら名前を連ねている。
これも先生達の仕業としか思えない。
でも、高校最後の一年。
来年には静に貰ったピアスをつける事も出来るし、ライブハウスに出入りしても怒られなくなる。
あと一年の我慢。
麗ちゃんも今年に入ってからは真面目に学校に来てるし、今のところ平穏無事な毎日。
「舞華」
いつもの店の前で静が手を振っている。
隣には信也さんが居る。
私達も相変わらずだ。
何も変わらない。
学年が変わっただけの事。
最近は三人で居ることにも慣れた。
「さっき静斗とも話してたんだけど、帽子買いに行かないか?」
信也さんが駅ビルを示しながら微笑んだ。
「他の色の帽子があった方が服選びもラクだろ?」
私はホワイトデーに若林さんから貰ったキャスケットをいつも被っていた。
「そうだね」
私は頷いた。
「随分温かくなったな」
「春だもん。桜も満開だね、きっと」
私達が駅に向って歩いていると携帯が鳴った。
私のだ・・・。
私が携帯の背面ディスプレイには“母”の文字。
「もしもし?」
こんな時間に掛けて来るのは珍しい。
『ねぇ、舞ちゃん貴女明日フリーでしょ?GEMの子達って明日暇かしら?』
そして、何で私に掛けて来たのか謎だ。
どこかで見ている訳じゃないだろうし・・・。
「私は平気だけど・・・ちょっと待って、今信也さん一緒だから代わるね」
不思議そうに見下ろす二人を私は見上げた。
「お母さんなんだけど、信也さん話してくれる?」
信也さんは顔を顰めながら電話を代わってくれた。
GEMのリーダーは信也さんだもの。
「もしもし?」
私と静は信也さんを見つめていた。
何の話をしているのかは全く分からない。
「え?俺と麗華は大丈夫だけど、他は訊いてみないと・・・じゃ、夜にでも連絡します」
信也さんは困惑した表情で電話を切った。
「何だって?」
静が尋ねた。
「花見しないかって」
「はぁ?」
信也さんの言葉に静は呆れた顔をしていた。
「明日花見をするからGEM全員に来て欲しいって」
お母さんは何を考えてるんだろう?
「舞は?」
「え?」
静は私の腕を掴んだ。
「お前は行くのか?」
真剣な顔で静が私を見ていた。
「伯母さんの口調から多分頭数には入ってるだろうな」
私が答える前に信也さんが答えた。
「なら、行く」
信也さんはクスクスと笑った。
「お前の基準分かり易過ぎ」
「悪かったな」
静が私を後ろから抱きしめながら言った。
「静斗、お前・・・場所考えろよ。誰が見てるか分からないんだぞ?」
真っ赤になった私から信也さんが静を引き離した。
「お前達はいいよな」
静がジーンズに手を突っ込みながら呟いた。
そうだね、羨ましいね。
私は心の中で静に同調する。
「取り敢えず買い物行くか」
静はそう言って私の頭を軽く叩いた。
何でこんなに帽子が似合うんだろ・・・。
俺は様々な帽子を被せては見惚れていた。
「舞華は帽子が似合うんだな」
信也も感心している。
全部買ってしまえ、と言いたくなるくらいどれも似合ってる。
「でも、舞華はあんま派手な服とか着ないからこの辺が無難じゃないか?」
俺はアイボリーの“キャスクロッシェ”というポップの後ろにあった帽子をあいつに被せた。
「あ、いいかも」
信也が顎に手を置きながら満足げに微笑んだ。
舞華は俺の女だぞ。
俺は溜め息を吐いた。
どうせ麗華を重ね合わせて見てるんだろうけどな。
「麗ちゃんならこういうのも似合うと思う」
舞華は一つの帽子を手にとって信也に微笑んだ。
多分思いっきり顔に出てたんだろう。
信也は珍しく顔を赤らめていた。
舞華が麗華に似合いそうだって選んだ帽子をしっかり買ってるし。
「明日被って来いよ」
俺は舞華の頭を軽く叩くとあいつは笑顔で頷いた。
あぁ・・・抱きしめてぇ・・・キスしてぇ・・・。
舞華との付き合いももう一年だ。
早いものだと思う。
そして凄いぞ俺。
一年もお預けのまま過ごせてるって事が自分でも信じられない。
まぁ、後半は信也が一緒だから手も出せない状態なんだけど。
誰も信じねぇだろうな・・・。
翌日俺達は駅で待ち合わせをして指定された場所に向うことになった。
「あ、舞ちゃん!」
麗華が大きな声で舞華を呼んだ。
何であいつが待っているのか分からない。
「あ、麗ちゃん。おはよ」
押し倒したいくらい可愛い・・・。
俺って彼氏馬鹿?
昨日買った帽子もしっかり被ってる。
律儀だな。
舞華は薄手の白っぽいダブルのロングコートを着ている。
中に何を着ているのかは分からない。
派手なわけじゃないけど目立つ。
いや、目を惹くと言った方が正しいかもしれない。
手には淡いピンクのストールを掛けている。
「ナンパされなかった?」
「されるわけないじゃない」
あいつは麗華の言葉を笑って返したが、周囲の男達が舞華を見ていたのは明らかで・・・。
まさか俺達みたいな目立つ集団の連れだとは思ってなかったんだろう、目が点になっている。
確かに俺達と舞華は不釣り合いだ。
でも、コレが現実。
「舞華が一緒だとまずくないのか?」
俺は不安で信也に尋ねた。
「仕方ないんだよ、麗華が事務所の場所知らないんだから」
何で?
素直に疑問だ。
「舞華は親の仕事手伝ったりするから知ってるけど、麗華は俺のとことか男のとこにばっかり行ってて会社に関心ないからな」
・・・納得。
でも、親の手伝いって・・・?
再び小さな疑問を持った。
信也はそれ以上説明する気がないらしく麗華と共に舞華と話し始めた。
電車で暫く移動し、着いた先に俺達は声も出なかった。
豪邸・・・?
インターフォンを押すとカチッと音がした。
「どうぞ」
舞華は慣れた様子で門を開けて俺達を中に招き入れた。
「舞ちゃん、ご苦労様」
舞の母親が笑顔で俺達を迎えた。
妙に賑やかだ。
「お母さん・・・まさかここでやるんじゃ・・・?」
舞華の顔を見ると困惑しているようだった。
「あら、当然でしょ?貴女事務所の子達をこの外に連れ出せると思ってるの?」
事務所の子達・・・?
「レッスン室は使ってない・・・よね?」
「やぁね、使ってるに決まってるじゃない」
何だか分からないけど舞華は怒りを抑えてる気がする。
「美佐子さぁん!」
誰かの声がする。
舞華の父親の声じゃないのは確かだ。
「さ、入って。貴方達も勉強できるいいチャンスだと思うわ」
促されるままに室内に足を踏み込むと・・・再び声の出ない状況に陥った。
俺だけじゃない。
舞華以外の全員がその光景に驚いていた。
「あ、舞華さんだ!おはようございま〜す!」
あちこちから舞華に挨拶する声が聞こえる。
俺達の目の前にいる大勢の芸能人・・・。
舞華は予想以上の大物らしい。
「はいはい、舞華には近付くんじゃないぞ」
舞華の父親が舞華の手首を掴んであいつだけを自分の傍に置いた。
心なしかあいつの顔が安堵したように見えた。
麗華と信也の姿はあっという間に人波に消えた。
麗華がじっとしていられるはずがない。
俺は溜め息を吐いた。
「新井君、ちょっといいかしら?」
いつの間にか真後ろにいた舞華の母親に肩を叩かれ俺は振り返った。
「何・・・ですか・・・?」
「舞ちゃんの事だけど、悪く思わないでね。あの子男の人苦手だから敦さんがすぐに隔離しちゃうのよ」
納得。
「でも、何でGEMをここに呼んだんですか?場違いじゃ・・・?」
涼が落ち着かない様子で舞華の母親に尋ねた。
俺も同感だ・・・。
「貴方達の探してるヒントなり答えが見つかるんじゃないかって思ったのよ。皆気さくな子達だからたくさんお話なさい。いい勉強になるはずよ」
舞華の母親はそう言って俺達の顔を見て微笑んだ。
多分彼女なりに考えてくれたのだろう。
俺達は舞華の母親の好意に甘えてたくさんのアーティスト達と話をして形のない答えを探した。
ご覧頂きありがとうございます。
春といえば進級です。
麗華はやはり理事の力で進級しましたね・・・。
実際にも金やコネで進級、卒業する話はよく聞きます。
理事繋がりってことで・・・。
―― 高井戸 信也の紹介 ――
某四大の三年。
聖ルチア学園理事の高井戸百合の息子。
五歳年上の姉がいる。
GEMのリーダーでドラムを担当。
麗華と同棲中。
英二とは高校からの付き合い。
昔から遅刻魔らしい。
強面で無表情だが優しい男。
変なところで真面目。
身長:180cm
血液型:O型
趣味:麗華と戯れる事、音楽鑑賞
特技:ドラム、嘘
苦手なもの:母親、姉、麗華の泣き顔