気持ち(舞華&静斗)
ライブを終えて帰宅した舞華と麗華。
一人帰路についた静斗。
ライブハウスから帰った私は寝る準備をしていた。
夕飯は麗ちゃんと一緒にライブハウスのオーナーが用意してくれた物を食べてきた。
お風呂にも入ったし、髪も乾かした、歯も磨いた。
私は日課で寝る前に必ず本を読んでいる。
自分の部屋の机の上に置いてある本に手を伸ばし、椅子に座って読み始めた。
「ま〜いちゃんっ」
麗ちゃんが枕を抱えて私の部屋にやって来た。
「どうしたの?」
「一緒に寝よ?」
不思議に思っていたら麗ちゃんが私のベッドにダイブして転がった。
「一人で寝るの慣れてないんだよね」
そうよね、いつも信也さんがいるもんね。
私は苦笑しながら本を読むのを諦めた。
「私に気を遣わなくていいのに・・・信也さんの所帰ってもいいよ?」
私は麗ちゃんをここに足止めしてるみたいで心苦しかった。
「いいの。舞ちゃんといるのも私好きだもん」
麗ちゃんは不器用だけど凄く優しい。
だから余計に申し訳なくなっちゃう。
どっちが姉なんだろうって、たまに情けなくなる。
「舞ちゃんは好きな人とか居ないの?」
どうして急にそんな事訊いてくるの?
私の顔は真っ赤になった。
「な・・・そっそんな・・・」
「いるわけないか。出会いもないもんねぇ」
私を見ながら麗ちゃんは笑った。
敢えて“いる”なんて言わないでおこう。
深く追求されそうだし・・・。
「舞ちゃんはまず男に慣れなきゃ恋愛も難しいね。こんな話でも顔が真っ赤になるなんて可愛過ぎ」
麗ちゃんは私をからかうのが好きらしい。
馬鹿にされてる気もする・・・。
「ね、GEMどう?少しは変わった?」
急に話題を変えてきた。
GEMの音楽は少し変わってた。
三週間位しか経ってないのに。
相当な練習と話し合いがあったんだと思う。
「そうだね、思った以上の速さで成長してると思う」
私は素直に答えた。
「お母さんには言ったの?」
「ううん、連絡取ってないから」
「舞ちゃんはGEMが他からデビューしても構わないって思ってる?」
どうしてそんな事訊くの?
「舞ちゃんがGEMを欲しがってないように見えるのは気のせい?」
「気のせいだよ。でも、どこからデビューするのか決めるのはGEMだよ。私じゃない」
だから、あまり余計な事は言えない。
「随分冷たいね。仲良くなったバンドなのに」
「仲が良いからこそ余計な口出しが出来ないんじゃない。信じるしかないじゃない」
どうしてそんな事言うの?
私には何も出来ない。
そんな意地悪言わないでよ。
私は頭を抱えた。
麗ちゃんは起き上がって私を見ていた。
「舞ちゃん?」
「M・KがGEMを欲しくない訳ないじゃない。私に出来ることがあるなら教えてよ。信じる以外に何が出来るの?」
私は麗ちゃんに視線を返した。
八つ当たりだ。
麗ちゃんは悪くないのに・・・。
でも抑えられない。
不安に押し潰されそう・・・。
静を失うなんて考えたくない。
頭の中は静の事でいっぱいだった。
「舞ちゃん?」
私は穏やかな口調を崩さないように拳を握り締めて視線を逸らした。
「私は音を聴くだけよ。スカウトなんてした事ないし出来ない。GEMを勝ち取る手段なんて知らないの。お父さんやお母さんに任せるしかないじゃない」
そう言った瞬間私は背後から抱きしめられた。
「ごめん、意地悪しちゃったね」
麗ちゃんは私の頭に頭を寄せた。
「私、不安だったんだよね。舞ちゃんがGEMに興味持ってないのかもって。でも、舞ちゃんは優し過ぎて何も言えないんじゃないかなって思ってた」
優しいんじゃないよ・・・恐いだけ・・・。
「ごめんね、麗ちゃん。私も八つ当たりしちゃった・・・」
「ううん、私は舞ちゃんがそうやって本音をぶつけてくれるの嬉しいよ。舞ちゃんは周りに気を遣い過ぎなんだよ。我慢し過ぎ」
私の目から涙が零れた。
あんまりにも自分が幼くて情けなかったから。
あんまりにも麗ちゃんが優しいから。
思っていた以上に自分の中で静の存在が大きくなってて驚いたから・・・。
いつまで私は不安でいなきゃいけないんだろう?
苦しいよ、静・・・。
私はその晩なかなか寝付けなくて麗ちゃんの寝顔を眺めていた。
信也が二人を送って行った。
俺は一人で家路についた訳だが・・・満たされない思いでいっぱいだった。
信也は何かと邪魔しに来るし、あいつは涼と仲良く話してるし、英二は俺の様子を見て楽しんでるし。
あぁ・・・面白くない。
俺は携帯電話を取り出した。
あいつの番号を表示して暫く眺めていたが、結局発信ボタンは押せないままポケットに戻した。
今日は麗華がいる。
麗華は俺に惚れてる。
自惚れなんかじゃない。
俺だって女達をかなりの数見てきたし抱いてきた。
だからこそ分かる。
俺は麗華の想いに応える事はない。
あいつと麗華の仲が悪くなるのも避けたい。
時が過ぎるのを待つしかないのか?
舞華・・・お前とゆっくり過ごしたい。
いつになればお前と二人で過ごせるんだろう?
今までみたいに二人で珈琲飲みながら音楽論議を楽しめるだけでいいのに。
帰りがけの不安そうなあいつの顔が頭から離れない。
「静斗」
大きな溜め息を吐いた俺の背後から声がした。
振り返ると涼が立っていた。
「らしくないね、溜め息なんて吐いちゃって」
嫌な所を見られてしまった。
「どうした?」
涼の家は駅は同じだけど方向は違う。
「何か寂しそうだったから今日お邪魔しちゃおうかなって思って。勿論迷惑じゃなきゃだけど」
参った。
「俺は構わないけど?」
「じゃ、行こう。お酒買ってく?」
俺が曲作る時は酒を飲まないって知ってるくせに・・・。
最初からそんな話をする気はないって事か。
俺は苦笑した。
「・・・そうだな」
こいつとは中学からの付き合いだ。
妙に人の感情の変化に敏感な奴。
だからと言って根掘り葉掘り訊いてくる事はない。
だから話しやすいし、付き合いやすい。
「涼、お前・・・彼女は?」
「ここ最近はいないね。GEMも忙しくなってきたし、急いでつくるものでもないでしょ?」
涼だってかなりモテる。
俺と違って手当たり次第付き合ったりしないけど。
涼は親がハーフだから・・・クォーターっていうんだっけ?
栗色のサラサラした綺麗な髪にはっきりとした整った顔立ちで中性的な雰囲気。
身長は俺と同じくらいだから一メートル八十弱ってとこか。
一言で言えば綺麗な男だと思う。
高校の文化祭で女装させられてたくさんの男を虜にしてたっけ。
「まぁな・・・お前どう思う?」
「何が?」
あ、主語がなかったか・・・。
「今日のスカウトマン」
「最悪だね。多分僕達の歌なんて聴いてないよ。動員数だけでしょ?」
やっぱり・・・。
「俺もそう思った」
「だよね。でも、M・Kはブレーンって言うのが誰かは分からないけど僕達の事をちゃんと見てるし聴いてくれてると思うよ?」
「・・・GEM色・・・か」
難題だな。
「頑張ろうよ。僕達らしくやってるうちに分かるようになると思うし」
「そうだな」
俺達はコンビにに立ち寄って大量の酒を購入した。
ビニール四つ分。
「二人でこんなに飲めるのか?」
呆れながら涼を見ると奴は笑ってた。
「静斗って笊じゃん。それに多分英二も来ると思うし」
英二?
「何で?」
「静斗の様子がおかしいからに決まってるでしょ。英二は天邪鬼だけどいい奴だよ?」
分かってるよ。
「意外に心配性だしな」
俺が苦笑してたら涼が笑った。
「麗ちゃんの男版みたいだよね」
確かにそんなカンジかもな。
「麗華が男だったらよかったのにな」
「・・・それじゃ信也が可哀相だよ」
涼が苦笑した。
・・・あ、そっか。
「それに英二みたいなのが二人も居たら大変でしょ?」
静斗が。
って涼の心の声が聞こえた。
確かに英二が二人居たら俺は常に玩具にされてしまう・・・。
それは嫌だ。
涼の言った通り家に帰ると玄関の前に英二が立ってた。
「遅い」
勝手に来たくせに偉そうに言うなよ。
「ごめん、コンビニで酒買ってきたんだ」
涼も謝る必要ないだろ・・・。
「静斗の部屋って落ち着くよな」
「そうだね」
さっさと上がり込んだ二人が微笑んだ。
喜んで良いのか分からない。
溜まり場にはなって欲しくない。
結局、二人は朝までうちで飲んで夕方まで寝てた。
そして目を覚ましてから涼の書き上げた詞のイメージを語り合って夜帰って行った。
既に溜まり場かよ・・・。
そう思いながらも俺は少しだけ二人に感謝していた。
ご覧頂きありがとうございます。
たくさんの女を見て抱いてきた静斗。
なのに惚れたのは初めてで、舞華の気持ちを理解できないようです。
冷静でいられないって事なんでしょうね。
冷静になれば簡単に分かるのに・・・。
でも、男も女もそんなもんでしょう。
喜びも多いけど、いつだって不安なんですよね。
恋愛の醍醐味ってヤツでしょうか?
今朝耳の痛みで目が覚めました。
リンパ腺やっちゃったみたいです。
こうやって私の耳は聴力が弱くなっていくんです。
喉の異物感も気になりますが・・・。
食事が出来ない〜。
食事抜きで薬飲んだら胃もやられたようです・・・痛い・・・。
GEMを結構書き溜めていたんですけど・・・病んでいる時は書かない方がいいんだと思いました。
登場人物まで病んできます。
ただいま大量に書き直し中。
次回更新九月六日。
更新時間未定です。