自惚れ?(舞華&静斗)
再び舞華が麗華と共にライブにやって来ました。
一月最後の土曜日。
週末、私達はライブを見にやって来ていた。
「麗ちゃん、舞ちゃんいらっしゃい」
オーナーが私達に微笑んだ。
オーナーが傍に居てくれると男の人に絡まれる事はない。
下心がないのが明らかだから私達も安心して彼の傍にいられる。
何故安心かというと・・・浅黒くてがっちりした体型でワイルドな感じの元プロミュージシャンのオーナーは・・・男性がお好きらしい。
音楽業界にはそういった方は多いことは知ってるけれど、実際にカミングアウトしている人は多くない。私もそんなに多くは知らない。
彼らを変な眼で見る人もいるけど、私は・・・ちゃんと自分を持っていて、堂々としていて素敵だなって思う。尊敬しちゃう。
彼らは別に好きになる対象が同性というだけで、周りの人たちと違うことなどなにもない。
「控え室に顔は出した?」
「まだ」
麗ちゃんは即答した。
「じゃ、行って来れば?」
オーナーは麗ちゃんと私の背中を押した。
「麗ちゃん・・・私、ここに居る。一人で行って来て」
私の足は床に張り付いたように動かない。
「舞ちゃん?信也に何を言われたのか分からないけど、私と一緒なら大丈夫だから」
麗ちゃんは私の腕を掴んで控え室に向った。
「こんばんわぁ〜っ」
麗ちゃんはいつものようにドアを開けた。
「麗ちゃん今日も元気だね・・・あれ、舞ちゃんも一緒なの?」
涼さんの声が聞こえた。
次の瞬間勢いよく扉が開いた。
「麗華!また舞華を連れて来たのか?!」
「悪い?!大体あんた舞ちゃんに何言ったのよ?!」
麗ちゃんは怒ってた。
「舞、お前何で来た?バレたらどうする気だ?」
静が心配そうに私の傍にやって来た。
なんとなく視線を感じたのでその場で話すのを戸惑った。
静に促されるように、言い争う二人をそのままに私達は部屋を出た。
「麗華に誘われたのか?」
彼は眉間に皺を寄せながら私を見下ろしていた。
「それもあるけど・・・私が来たかったの。だから麗ちゃんのせいにする気はないよ?」
私は静の顔を真っ直ぐに見据えて言った。
そう、私が来たかったの。
ギターを弾いてる時の静はすごく綺麗だし、格好いい。
いつまでも見ていたいと思うほどに・・・。
こんな想いを抱いたのは初めて。
初恋・・・って言うのかな?
高校生で初恋って、ありえないって言われそうだけど・・・私は幼稚部から女子だけだったし、家も近所だから電車とか乗らないし、出会いなんてなかった。
別に出会いが欲しいとも思わなかったし。
こんなに自然に話せる男の人も静が初めて。
慣れているはずの信也さんでも緊張するのに、何でなんだろう?
どうやら私は自分自身の事も理解できてないらしい。
「・・・俺、自惚れてもいいのか?」
彼の言葉に私は現実に引き戻された。
自惚れるって・・・何に・・・?
私が訊き返そうとした時には唇を塞がれていた。
禁欲生活も九ヶ月。
一番辛い時期だ。
正月には同じ屋根の下で一泊、当然あいつの両親も居るし何も出来なかった。
金曜日の約束の日は信也が付いてくるのでキスさえ出来ない。
今までで最も辛い生殺し状態。
俺が何をしたと言うんだ?
確かに俺は無宗教。
初詣だって、新年早々何が楽しくてあんな込んでるところに賽銭を投げに行くんだか意味も分かんないし出掛ける気もない。
キリシタンでもないのにクリスマスにプレゼントなんか用意したけどさ・・・。
それって悪いことじゃないだろ?
皆やってる事だろ。
便乗して何が悪い?
なのに新年早々なんだってこんなに試練をよこすんだ?
神様仏様よぉ?!
そのせいか信也とマトモに口を利かなくなってた。
八つ当たりしてしまいそうだからだ。
こいつは忠告に来てくれて、俺達が会うために協力してくれているのに・・・。
こいつは悪くないのに。
GEMの雰囲気が若干悪くなってる。
俺のせいだ・・・自覚はある。
けど、解決策は見つからない。
信也の母親にバレたら大変だし、ライブなんか絶対に誘えない。
二人きりになるチャンスは一体どれくらい先になるんだろ?
俺は耐えられるのか?
「こんばんわぁ〜っ」
麗華の声が聞こえた。
信也が羨ましいと思う・・・。
周囲の目も気にせずに会えるし、家に帰す義務もないし、好きなだけ抱いてられるんだから。
俺なんか抱いたこともねぇ・・・あぁ抱きてぇ〜。
「麗ちゃん今日も元気だね・・・あれ、舞ちゃんも一緒なの?」
涼の声に俺は振り返った。
まさか来るなんて思わなかった。
信也もそうだったらしく、勢いよくドアを開けた。
舞華の姿が見えた。
幻じゃない・・・。
「麗華!また舞華を連れて来たのか?!」
「悪い?!大体あんた舞ちゃんに何言ったのよ?!」
二人が言い争いを始めた。
麗華が本気で怒ってるように見えるのは気のせいか?
通常は怒鳴り合ってはいても眼は笑ってるというか・・・本気では怒ってない事が分かるものなんだけど、今日は何だか様子が違う気がした。
「舞、お前何で来た?バレたらどうする気だ?」
俺はあいつの傍に歩み寄った。
涼と英二の視線が気になってマトモに話が出来ない・・・。
言い争う二人を放って俺と舞華は部屋を出た。
「麗華に誘われたのか?」
ドアを閉めて開口一番俺は尋ねた。
無理やり連れて来られたんじゃないか?
俺は言葉に出さないけどそう尋ねたつもりだった。
「それもあるけど・・・私が来たかったの。だから麗ちゃんのせいにする気はないよ?」
舞華は俺の顔を真っ直ぐに見据えて言った。
――― 私 ガ 来 タ カ ッ タ ノ ―――。
その言葉だけが俺の頭の中で木霊する。
俺は都合いいように解釈してるだけなのか?
それとも・・・。
「・・・俺、自惚れてもいいのか?」
お前に想われてるって思ってもいいのか?
俺は不思議そうな顔をしている舞華に口付けた。
こいつにキスするのは正月以来だ。
ヤバイ・・・。
俺は理性を保つために、触れるだけのキスであいつから離れた。
「静斗!舞ちゃん連れ出したでしょ?!」
俺達が消えたことに気が付いた麗華が扉を勢いよく開けた。
「お前達の喧嘩に脅えてたから外に連れ出しただけだろ」
俺は咄嗟にそう言った。
「信用できるわけないでしょ!舞ちゃん、気を付けてね?静斗は手が早いんだから。ぼぉーっとしてるとあっという間にベッドに連れ込まれちゃうからね?」
「連れ込まれた事もないのに勝手な事を言うなよ」
俺は呆れながら言い返した。
実際に麗華と寝た事はないし、寝る気もない。
信也の女だし、はっきり言えばタイプじゃない。
舞華は俺の隣で苦笑するだけで何も言わなかった。
俺を信用してくれているらしい。
そりゃそうだ。
九ヶ月間首から上だけの関係だけなんだから。
知っているのかいないのか、涼と英二は意味深な笑みを浮べながら俺を見ていた。
頼むからその笑みはやめてくれ・・・。
ご覧頂きありがとうございます。
ライブハウスのオーナーはゲイ。
いい男大好きな元ミュージシャン。
武村の知り合いにもゲイの方がいらっしゃいます。
でも、カミングアウトしない限りは分かりません。
周囲はゲイの方は「ゲイっぽい顔」してるから分かると言いますが、その方がゲイだとは誰も気付いていません。
つまりは「ゲイっぽい顔」というのは当てにならないという事。
勝手な思い込みなんでしょうね。
次回更新九月二日。
もう九月かぁ・・・。