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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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再出発(静斗&信也)

 俺達は賞を獲得した。

 出来レースだと言われてはいるが、そんな事はどうでもいい。

 麗華の目が覚めて、舞華の声と目も正常に戻った今日、こうやって受賞する姿を二人に見せられる事が嬉しかった。

 二人だけじゃない、美佐子さんや綾香にも最高のプレゼントになったはずだ。

 しかし……。

 授賞式でトロフィーを持って現れた人物に俺と涼は顔を引き攣らせた。

 事前に聞かされていれば驚く事もなかった……かもしれない。

 いや、聞いてても驚いただろう。

「げっ」

「最悪……」

 英二と信也は不思議そうな顔をしているが、俺と涼は心穏やかじゃない。

 何故ならば……。

『久し振り』

 にこやかに現れた女は俺達がよく知る人物だったからだ。

「セシリア……何でここに?」

 涼が呟く。

 目の前の女は世界で活躍するトップモデル。

 そして……涼の姉貴だ。

「セシリア?」

 英二がその名前に反応した。

 セシリアを知っているわけではなさそうだ。

 なのになぜ驚いているんだろう?

『大事な弟の受賞をお祝いに来たのよ、ありがたいでしょう? 嬉しいでしょう? 素直に喜びなさい』

 脇に立つ通訳が適当な事を言っているが、それが大嘘である事は明らかだ。

 この人の通訳をやると言うだけで大変だと思う。

 通訳に同情してしまう。

 涼の両親以上に自由奔放で我儘で自分の思うままに暴走するからだ。

 ちなみにセシリアが喋っているのはフランス語。

 俺がどうしてそれをきちんと理解できるのか?

 それは……俺に超スパルタでフランス語を教えたのが涼とセシリアだからだ。

 分からなかった時の方が怖い。

「あとでね」

 トロフィーを受け取る涼にこっそりと日本語で囁いたのを俺は聞き逃さなかった。

 無事に生放送を終え、控室に戻ってくると、やはりというか何というか……。

 宣言通り、本来居るべきではない人物が主のように寛いでいた。

「お疲れぇ」

 何とも流暢な日本語。

 当然と言えば当然なんだが。

「セシリア! 何でここにいるの?!」

 涼は扉を閉めた途端に吼えた。

 通常なかなか見られない面白い光景ではある。

「あら、パパ(父)もママン(母)も来てるわよ? まぁ、さすがにテレビに映らないように注意してたけど、会場でしっかりとね」

 大きな溜め息を吐きながら涼は椅子に腰を下ろす。

「あんたがパピィ(祖父)の協力なんか頼むからじゃない。情報筒抜け。パパもママンも心配して仕事放り出して来たのよ? 勿論私もね」

「明日のチケットだけって話だったじゃん……」

「甘いわよ」

 姉弟の会話に呆然とする二人を見て、俺は苦笑するしかない。

「セイも気を付けなさい、綺麗な顔傷付けちゃって」

 セシリアは立ち上がると俺の顔に貼られたガーゼを指で弾く。

「ってぇな!」

「まぁ、惚れた女守れたんだから名誉の負傷よね」

 おい、何で知ってんだ……?



 涼の祖父が警察に強い影響力の持つ人物だという事だけは分かっていた。

 今はひっそりと暮らしているようだが現在でも影響力は相変わらずで、政治家や海外の権力者たちとも繋がりがあるとも噂されている人物。

 彼の一言で日本が動くとまで言われているのだから総理大臣よりも大物だろう。

 手配は上手くいかなかったが涼の祖父のお蔭でたくさんの人を動いたのは事実だ。 

 そして、目の前に現れたセシリアという世界的有名なモデル。

 確かこの女の両親も有名だったと思う。

「ま、涼は涼だからな」

 静斗はそう言いながら車に乗り込んだ。

 静斗とはこういう男だ。

 親や親族がどんな人間でも、たとえ犯罪者だったとしてもこう言うだろう。

「だな」

 短気でキレ易いが、もしかしたら一番懐のデカイ奴なのかもしれない。

 俺達は病院に立ち寄った。

「お疲れ」

 笑顔で迎える女四人。

「凄い良かった!」

 麗華は興奮気味だ。

「土産」

 静斗が麗華の手にずっしりとしたトロフィーを乗せる。 

「重っ」

 舞華がそっと手を差し出してそれを支え、静斗に微笑んだ。

「頑張った分重いんだよ、きっと」

 静斗は恥ずかしいのか、すぐに背を向けた。

「そうだね」

 麗華はトロフィーを見ながら潤んだ目で微笑んだ。

「あぁ……早くGEMのライブ観たいなぁ」

「自力で歩けるようになったら行こうね、皆で」

 ベッド脇のチェストにトロフィーを移動させながら舞華が答える。

 それを見ながら俺達は無意識に顔を合わせた。

「ライブ……したいねぇ」

 涼が意味深に呟く。

「だな。どうせ来年早々レコーディングだし?」

「やれるとしたら……あそこしかないよな?」

 嫌でもこいつ等の言いたい事が分かってしまう。

「涼の家族も来てる事だし、交渉してみるか?」

 静斗が携帯をポケットから取り出して微笑んだ。

 俺達がバンドを組んで最初に演奏した……俺達が成長してきた場所。

 やるならばあの場所でやりたかった。

 麗華もよく知っている場所、ABELで俺達は二度目のスタートを切りたかった。

 その気持は全員同じだったようだ。

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