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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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覚醒(静斗&司)

 俺の幻聴かもしれない。

 そう思ったが、信也も市原も舞華を驚いた顔で見ている。

 今の声は……あの懐かしい声は、やはり舞華のものだったのだ。

 驚く市原は舞華に気を取られている。

 俺はナイフを握る市原の手首を掴んで捻り、腹を思いきり蹴飛ばした。

 ナイフが地面に落ちる。

 拾われないように遠くに蹴飛ばすと、英二が姿を現してそれを足で踏みつける。

「お前達なんか死んでしまえ! お前達のせいで俺の人生が変わっちまった、お前達さえいなければ俺もあいつも、ずっとあのままでいられたのにっ!」

 俺は、喚く市原の手を捻りながら地面に抑え込んだ。

「お前達が俺をマネージャーになんか選ばなきゃ良かったんだ……お前達がデビューなんかしなきゃ、お前達があいつの店になんか行かなきゃ……! 俺とあいつの滅茶苦茶になった人生を返せ!」

「御見事」

 涼がにこやかに手を叩きながら茂みから姿を見せる。

 その背後には怪しげな中年男。

 誰だ?

「市原 創だな? 午後一時三分、傷害の現行犯で逮捕する」

 中年男は市原の前に屈んで、俺の握っている市原の手に手錠を掛けた。

 どうやら刑事だったらしい。

 涼が呼んだのかもしれない。

 市原の手から力が抜ける。

 俺が手を離すと市原の手はパタンと地面に落ちた。

「ご協力感謝いたします」

 中年男が俺に微笑みながら市原の身体を起こす。

「お疲れ、静斗」

 涼が俺の背中をポンっと叩く。

「さっき……声、聞こえたか?」

「舞ちゃんの?」

「あぁ……」

「聞こえたよ、この辺の住人にも聞こえちゃったみたいだけど」

 涼の言葉に俺は周囲を見渡した。

 さっきまで俺達しかいなかった公園には軽く二〜三十人集まっている。

 でもって、遠巻きに写真撮られてるし……。

 警察に連絡した奴らとかいないのかよ?

 写真より電話だろ。

 そして、俺の目は舞華で止まった。

 信也の腕の中で顔を覆って震える舞華。

「舞華」

 俺の声に舞華が顔を上げる。

 そして信也の腕から飛び出し、駆け寄って来た。

 俺の背中に震える手を回して胸に顔を埋める舞華の顔は見えない。

「舞華、声……出たな」

 舞華の声を俺達は確かに聞いた。

「俺の名前、呼べよ」

 もう聞く事も出来ないと思っていた舞華の声。

 舞華が驚いた顔を上げる。

「自分で分かってないのか? 声出ただろ?」

 聞き間違いなんかじゃない。

「し……ずか」

 小さな声で何かを確認するように舞華が俺の名前を口にする。

 やべぇ……泣きそう。

「もっと」

「……静」

「もっともっと二年分聞かせろよ」

 俺は舞華を強く抱きしめた。



 もう随分と経つが二人は戻って来ない。

 市原に捕まったのか?

 いや、信也が一緒だ、大丈夫に決まっている。

 舞華何故戻って来ない?!

 私は車の中で一人苛々していた。

 私だけここにいていいのか?

 いや、いいはずがない。

 待つ事に我慢できなくなった私は後部座席から身を乗り出すようにして車のエンジンを切った。

 キーを抜いた時、携帯の着信音が車内に響いた。

 私の持っている携帯ではない。

 パッヘ●ベルのカノン……これは信也の携帯ではなかったか?

 車の中を探し、車の座席下で鳴る携帯を拾い上げた。

 ディスプレイには “病院” という文字。

 やはり信也の携帯のようだ。

 これは出ないわけにはいかないだろう。

 私はそう思って通話ボタンを押した。

「もしもし?」

『あの……高井戸 信也さんのお電話では?』

「そうです。本人は今、席を外していますので代わりに用件をお伺い致します」

『しかし……』

「麗華に何かあったんですか?」

 病院と表示されたからには麗華の事以外ありえない。

『え? ご存じなんですか?』

「私は事務所の者です。麗華とも友人です、何があったんですか?」

『高井戸 麗華さんが目を覚ましました』

「本当ですか?!」

 私は携帯を握り直した。

『はい、先ほど医師も確認しています。意識もありますし、お話も出来ています』

「分かりました、すぐに伝えて折り返し連絡させますっ!」

 私は電話を切って車を施錠した。

 麗華が……目を覚ました。

 やっと願いが叶えられた。

 私達がやってきた事は間違いではなかったのだ。

 私は綺麗な空を見上げた。

 神などというものはいないと言い続けてきた。

 今でも信じてはいない。

 だが、舞華が信じた神だけは信じてもいいのかもしれない。

 もしも私が死後にその存在に会う事があったら礼を言おう。

 そう思う時点で、やっぱりその存在を信じていないのだとは思うが……。

 何よりも、今はいるかいないか分からん存在などどうでもいいのだ。

 早く信也に知らせなければ……。

 麗華……待ってろ、すぐに会いに行くからな!

 私は信也の携帯を握りしめながら舞華達の走って行った方向に駆け出した。



ご覧頂きありがとうございます。


次回更新……今週中にもう一回、の予定です。

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