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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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想起(涼&信也)

 静斗を見つけ、僕達はすぐ出て行けそうな場所に身を潜めた。

 とはいっても、見つかるとマズイので若干遠い。

「羽田さん、ビデオ回して」

「え?」

 僕の言葉に戸惑いながら羽田さんはビデオカメラを取り出す。

「静斗は絶対先に手を出したりしない、だから撮って」

 勿論、正当防衛の証拠を残すためだ。

 万が一、彼等が間に合わなかった時の保険のようなもの。

「羽田さんはビデオを撮る事だけ考えて。ターゲットは市原君で」

 もう既に目の前では酔っ払った市原君が無茶苦茶に暴れている。

「まるで酔拳だな」

 呆れたように呟く英二の言葉に思わず僕も笑ってしまう。

「本当、喧嘩素人だね」

「静斗も馬鹿だな。一発当たっときゃ伸せるのに」

「確かに」

 笑いながら二人を見ていると静斗と視線がぶつかった。

 僕は、ちゃんとスタンバってるという事を知らせるために笑顔で親指を立てた。

 でも、静斗は理解してくれなかったようで顔を顰めただけ。

「あいつとお前の意思の疎通って……」

「僕の一方通行だろうね」

 クスクスと控え目に笑っていたけれど、僕達に緊張が奔ったのはそれからすぐの事だった。

 手当たり次第に物を投げていた市原君が割れたガラスの破片に手を伸ばしたのだ。

 それを避け損ねた静斗の頬に赤い筋ができる。

「今日生放送なのに……」

 小さいが怒りを含んだ羽田さんの声が背後から聞こえる。

「馬鹿だな、あいつ。最初のへなちょこパンチ受けときゃこんな事にはならなかったのに」

 英二の言葉は尤もだ。

 あのパンチだったら痣もできなかっただろう。

 でも、今更だ。

 静斗の声は聞こえないけど、市原君が不気味に笑う。

 角君と市原君の姿が重なって見えた。

「ヤバくね?」

「ヤバイかも」

「え?」

 羽田さんは角君を知らない。

 だけど、あの笑みは角君を思い出させるには充分な表情だった。

 市原君はジーンズのポケットから何かを取り出した。

「羽田さん、市原君何持ってる?」

「え? 嘘だろ?」

 ズームにして確認する羽田さんの横に立ち、僕もそれを確認する。

 バタフライナイフ……。

 市原君は笑みを浮かべたまま刃を出して静斗に向けた。

「とことんそっくりだな」

 英二の表情も口調も当然硬い。

 市原君がナイフを振り翳して静斗に襲い掛かる。

 僕達も当然だが危険と判断して静斗の許に向かおうと立ち上がると同時に市原君に何かがぶつかった。

 その衝撃で市原君がふらつく。

 彼にぶつかったのは女性物のバッグ……。

 飛んできた方向にはアイボリーのロングコートを着た舞ちゃんが立っていた。



 舞華が俺を振り払ってバッグを市原に投げつけた。

 静斗を守ろうと、頭で考えるよりも行動が先に出てしまったんだろう。

 しかし、その行動のおかげで市原に舞華がこの場にいる事がバレてしまった。

「やっぱり一緒だったんだ?」

 ニヤケ顔で市原が舞華を見る。

「舞華、逃げろ!」

 静斗の声に舞華は小さく首を振る。

「じゃあそこで見てれば? 惚れた男が血だらけになってくのをさ。それとも自分が血だらけになりたい?」

 市原はどっちでもいいらしい。

 GEMを活動不能にできれば満足なのかもしれない。

「来るな!」

 静斗の声に顔を上げると舞華が市原に近付いて行くのが見えた。

 まさか……舞華がそんな事をするとは思わなかった。

 俺は堪らず立ち上がり、舞華を追い掛けた。

「信也?!」

 俺の姿を見て市原が微かにビビったように思えた。

「舞華!」

 俺が舞華の身を確保すると静斗がほっとした表情を見せる。

 しかし、市原の手にはまだ刃物が握られている。

 どちらにその刃を向けるのかは分からない。

 俺と舞華も静斗と同じくらいの距離にいた。

 しきりに舞華が手を動かして何かを伝えているがその手、の意味を理解できるのは静斗だけだ。

 その手を読んでいると思われる静斗の表情は徐々に険しくなっていく。

 俺達に逃げろとでも言っているのかもしれない。

「何言ってんのか分かんねぇんだよ!」

 市原が舞華のバッグを蹴り飛ばす。

 大きく身体を震わせながらも舞華の手は止まらない。

「社長の娘ってだけでデカイ面して、好き勝手に事務所に出入りしてるお前が邪魔じゃなくて、何で真面目に仕事してた俺が邪魔なんだよ?!」

 市原は全てが気に入らないようだ。

 舞華や俺達の一言、一行動が更に市原を苛立たせているように思えた。

「舞華は関係ない」

 俺の言葉に市原の身体がこちらを向く。

「お前のカミさんそいつの妹なんだろ? 双子なんだってな? いつの間に乗り換えたんだ? 乗り心地も同じってか?」

 静斗が怒りを露にする。

 しかし、俺が小さく首を振ると拳を握り締めて耐えた。

「んなわけねぇだろ」

「どうだか。同じ顔なんだろ? 声が出なくたって動いてる方がいいに決まってる」

 舞華を背後に隠し、ジリジリと俺達に近付いてくる市原を俺はただ睨み付けていた。

 舞華は守る。

 麗華の二の舞にはさせない。

 静斗の方に視線を移すと、静斗は小さく頷く。

 そして足音を忍ばせながら市原に近付いてきた。

 しかし、舞華が背後から近付いてくる静斗に首を振って気付かれた。

「てめぇ! 何しようとしてんだよ!!」

 市原はナイフを振り回しながら静斗に向かって行く。

 振り回したナイフが静斗の靡く髪を少し切り落とした。


ご覧頂きありがとうございます。


次回更新02月14日……目標、です。

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