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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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憎しみの行方(舞華&静斗)

 私は信也さんと司が車に乗った瞬間、司のいる後部座席のドアを閉めて来た道を引き返すように走り出した。

 何百mも先だったけれど、若林さんの姿が見えたのだ。

 一緒にいたのは静ではなかった。

 金森さんと羽田さんが一緒だったと思う。

 遠目からだけれど、金森さんだけは確実。

 つまり、信也さんの言葉は嘘。

 静は別の場所にいて、若林さん達はその場所に向かったんじゃないかと思った。

 GEMが危ない。

 そう思ったら私の身体は勝手に動いた。

「舞華っ」

 背後から信也さんが追い掛けてきているようだが、私は振り返る事もなく走る。

 勿論、止まる事も速度を落とす事もしない。

 若林さん達の姿を探していると声が聞こえた。

 聞き覚えのあるこの声は……静のもの。

 話しているのは……。

 あたりを見渡すと静の後姿が見えた。

 向かい合う男性は……市原さん。

 それを見た瞬間体が震え出した。

「舞華っ」

 腕を掴まれ、身体が大きく揺れる。

 掴んだのは私を追って来た信也さん。

 私の視線を追い、静の姿を確認した信也さんは小さな舌打ちをした。

「俺達はギリギリまで手を出さない。お前もおとなしく見てろ」

 信也さんの大きな手が私の口を塞ぐ。

 声が出ないのだから塞ぐ必要などないのに……。

 私が小さく笑うと、信也さんも気付いたようで私の口元から手を離した。

「お前らぜってぇ許さねぇ」

 市原さんの声に私と信也さんは身体を震わせた。

「彼女の仕事まで奪いやがった貴様らをぜってぇ許さねぇ!」

 市原さんが静に掴み掛かる。

「意味分かんねぇし」

「しらばっくれんなよ! お前の女とあの男女がやった事じゃねぇか!」

 私は信也さんを見上げた。

 心当たりはない。

 私が何をしてしまったのか、全く分からない。

 信也さんも眉間に皺を寄せながら考え込んでいるようだ。

「あいつ等が何をしたって?」

「彼女に責任はなかっただろっ、何でなんだよ! 何で俺だけじゃないんだよ!」

 私と司がした事……?

 軽井沢での仕事、麗ちゃんのお見舞い、その前は……。

 私は信也さんのコートの袖を掴んだ。

 信也さんも同じ事を考えたんだろう。

「偶然って怖いな」

 私の手を軽くポンポンと叩く。

「大丈夫だ、お前達は何も悪くない」

 信也さんの言葉に私は頷く事は出来なかった。

 知らなかったとはいえ、市原さんのGEMへの恨みを増幅させてしまったからだ。

 どうにかしなければ……。

 私は目の前の二人を見つめる事しか出来ない事に苛立ち始めていた。



 俺は胸倉を掴まれても市原の言葉の意味が理解できずに考えていた。

 舞華と司が何をしたって?

 あいつ等は軽井沢に缶詰だったはずだ。

 その前の話か?

 俺は記憶を辿り、一つのそれらしい出来事に思い当たった。

 麗華のプレゼントを買いに出掛けた二人。

 その店に非常識な店員がいて気分を害した司が苦情を入れたという話。

 それが市原の女だったのかもしれない。

「お前の女って、宝石店か何かにいたのか?」

「そうだよ! お前の女のせいで店を辞めさせられたんだよ!」

 たった一回の苦情でクビになるとは思えない。

 元々苦情の多い店員だったんだろう。

「お前の女らしいな」

 非常識な者同士だ。

 小さく笑うと市原の手が飛んできた。

 間一髪でそれを避け、市原と距離をとる。

 市原は真っ赤だった顔を更に赤らめた。

 そして、無茶苦茶に攻撃してくる。

 酔っ払って千鳥足、勿論一発も当たらない。

 このままだと俺の苛々メーターが先にブチ切れそうだ。

 適当に避けつつ、時々それを手で受け止めていると繁みに涼の姿を見つけた。

 羽田さんと英二も一緒だ。

 何故か羽田さんの手にビデオカメラが握られている。

 意味分かんねぇ……。

 涼は俺と目が合うとにっこりと微笑んで親指を立てた。

 意味分かんねぇ……どういう意味だよ。

「何で当たんねぇんだよ!」

「当たるわけねぇだろ、酔っ払い」

 呆れていると市原は急にポケットを弄り始めた。

 何がしたいんだ?

 俺は市原が何かを探しているのを不思議に思いながら眺める。

 酔っ払い相手だからなのか警戒心は何故か全く抱かない。

 探し物が見つからないらしく、市原は公園に散らかっている缶や瓶を投げつけてきた。

 年末で宴会でもしやがったのか?

 公園の散らかりようには呆れるしかない。

「おいおい、そりゃねぇだろ」

 中途半端に中身が入ったままの缶が中身の液体を撒き散らしながら飛んでくる。

「このコート結構高いんだから勘弁してくれ」

 更にはワンカップまで飛んできて、派手な音を立ててベンチで弾ける。

「ムカつくんだよぉ!」

 割れたワンカップの破片を複数掴んで、市原がそれを俺に投げつけた。

 一つ二つなら避けられるが、五つも六つも投げられると避けようがない。

 避け損ねた破片が俺の頬を掠める。

 小さな痛みが奔り、俺は顔を顰めた。

 手の甲で頬を擦ると赤いものが付着した。

 どうやら切れたらしい。

「今日生放送なのに勘弁してくれよ……」

 羽田さんの雷が落ちてくる……。

 思わずため息が漏れた。

「生放送……? そりゃいい」

 市原は俺を見てニヤリと笑った。



ご覧頂きありがとうございます。


次回更新02月11日です。

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