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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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知得(拓斗&涼)

 パソコン画面を眺めていると、ヒールの音が聞こえてきた。

 美佐子のものだろう。

 あの足音が怒り、もしくは焦りを含んでいるように感じて溜め息を漏らした。

 あいつらが消えた事に気付いたのかもしれない。

「結城君!」

 乱暴に扉が開けられ、美佐子が険しい表情で社長室に入って来た。

「おう、おはようさん」

「GEMはどこ?!」

 やはりいない事に気付いたようだ。

「羽田君は?!」

「GEMと一緒」

 俺はその問いにだけ答えて再びパソコン画面に目を落とした。

 不審に思ったのか美佐子もパソコンを覗き込む。

「中野……?」

 市原が住んでいる場所だと分かっているのか表情が硬くなる。

「この点は何? 何でこんなもの眺めてるの?」

 ったく、面倒臭ぇなぁ。

「舞華が昨日軽井沢から消えた。この点が舞華だ」

「え?」

 美佐子は顔を顰める。

「一緒にある点は司、こっちのは静斗」

 指を指しながらあいつらの所在地を教えてやると美佐子は俺の肩を掴んだ。

「舞華は喋れないのよ?!」

「単独行動を起こしたのは舞華だ。あいつらも気付いて慌てて動き出した」

「今日は生放送だってあるのよ、分かってるの?!」

「分かってるから羽田が付いて行ったんだろ」

「そういう問題じゃないでしょう?!」

「このまま放っておけば舞華は正気を保てなくなるぞ」

 市原は危険だ。

 雰囲気が似ているのだ。

 あの男、(すみ)に……。

「どういう事?」

 舞華と聞いて美佐子の顔色が血の気を失っていく。

「市原と遭遇した時の舞華の取り乱しようを覚えてるか? あれが今の舞華の状態だ。麗華の事件以来、舞華はずっと通院してる。脳神経外科以外にもな」

「え……?」

 机の角に置かれた美佐子の手が大きく震えている。

「俺と司以外は誰も知らなかった。つい最近までは、な」

「もしかして……GEMも?」

「あぁ、軽井沢に行かせる時にバレた」

 美佐子の手が俺の肩を掴んだ。

「どうして私に黙ってたの?!」

 美佐子の爪が肩に食い込む。

「あの時、お前が知ったら治療に専念させただろ?」

「当然よ!」

「だから話さなかった」

 俺の言葉の意味を考えているのか、美佐子の手の震えが止まる。

「舞ちゃんが……望んだとでも言うの?」

「あぁ。麗華の夢を叶えたい、それがあいつの望みだった。だから俺と司は協力した。舞華が正気を保てるように、舞華の望みを叶えるために」

 美佐子の手が俺から離れる。

 鬼社長と言われる女の目から涙が零れた。

 背筋をピンと伸ばし、強い眼を失わずに、ただ流れるままに零す涙。

 俺はそんな美佐子の泣き顔を暫くの間眺めていた。

 


「あぁ……バレちゃったんですか」

 僕は苦笑しながら結城さんに言葉を返した。

 美佐子社長が僕達が居ない事に気付いてしまい、今までの舞ちゃんの状況も包み隠さずに語ったという知らせだった。

「どうした?」

 信也が緊張した面持ちで僕に尋ねる。

「美佐子社長にバレちゃったんだって、全部」

「「全部?!」」

 今日の英二とのシンクロ率は満点だ。

「うん、結城さんが話したって。まぁ隠しておける事でもないし、しょうがないでしょ」

 僕はそう答えて再び携帯を耳に当てる。

「こっちもこれから動きますよ」

『もう着いたのか?』

「はい、駐車場です。あ、そうだ。結城さん、楽器で一番自信がないのは何ですか?」

『え? ドラム……って関係あるのか?』

「分かりました。信也は留守番させますね」

『え? 涼?』

 僕は言いたい事は言った。

 結城さん達からの説教も忠告も聞く気はない。

 一方的に携帯を切り、マナーモードにしてからポケットに仕舞い込む。

「って事で、信也はここで舞ちゃんを確保して。羽田さん、ビデオ持って来た?」

「あぁ、これ」

 羽田さんは助手席のバッグを僕に寄越した。

 確認すると充電もばっちり、テープ残量も充分。

「じゃ、信也だけ残して移動しようか。そろそろ市原君が来ちゃうからね」

 足止めは三十分間。

 僕達がここに辿り着くまで引き止めてもらえれば充分だった。

「涼、お前……余裕なさそうだな」

 信也が苦笑しながら尋ねる。

「正直、結構焦ってるよ」

「大丈夫……だよな?」

「頼んだ人達が上手く動けば、ね。多少の怪我は覚悟しなきゃだけど」

 僕が連絡を入れてから、まだそんなに時間は経っていない。

 間に合うかどうかは博打に近い。

 間に合わなかった時のために僕達がスタンバイしておく必要があるのだ。

 最近、博打ばっかりだな。

 人生の。

 まぁ、失敗する気は微塵もないけど。

 美佐子社長が知った今、僕達の失業の可能性はかなり低くなった。

 あとは、市原君を警察に突き出せればいい。

 まぁ挑発すれば簡単に手を出してくるだろう。

 彼は単純だ。

 静斗以上に。

 そう、悩む事はない。

 気を付けるのは怪我にだけ。

 本番まであと七時間。

 絶対に……間に合わせてみせる。



ご覧頂きありがとうございます。

ようやく書き上がりました。


次回更新02月04日です。

ラストまであと少し。

週2更新目指して頑張ります。

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