連動(司&英二)
私は舞華の意識がない事を確認して携帯を開き、結城さんの携帯を鳴らした。
『やっと掛かってきたな』
結城さんの声は安堵の色を含んでいた。
「遅くなってすまん、舞華が目を覚ましてた」
『そんな事だろうと思った。で? 今は?』
「気を失ってる」
『どうした?』
「私のミスだ、すまん」
元々男が苦手な舞華だが、麗華の事件後はそれまで以上に警戒している。
毎回組んでいるスタッフやGEMに関しては慣れているが、それ以外の男は完全に拒否している。
その気持ちは分からなくもない。
病院でも事件当時、舞華の担当だった男性医師は女性医師へと代わらざるをえなかった程。
男性だと上手く話せない上に、触れられるとパニックを起こすのでお手上げだったのだ。
そんな状態を分かっていたはずなのに、私は見知らぬ男に舞華を任せてしまった。
『司?』
結城さんの声で現実に引き戻された。
「あぁ、すまん。舞華が目を覚ましたらチェックアウトして事務所に……」
『いや、涼達がそっちに向かったから合流してくれ。タクシーだと舞華がパニックを起こしたときにどうしようもない』
確かにそれは一理ある。
タクシーはフィルムを貼っていないため、報道陣に舞華が丸見えだ。
その逆も然り。
想像でしかないが、相当な数の報道陣がいると思われる場所に舞華を連れて行くのだから、それなりの装備がされたものでなければならない。
そんな車を経費で手配すれば美佐子さんの耳に入る。
さすがに自腹で……という気にはならんしな。
「分かった」
そうは答えたが……。
涼達がこっちに向かっている?
涼……達?
あいつら、全員来る気なのか?
これから局入りしなければならない奴が?
「結城さん、あいつら……」
『お前は舞華の事だけ考えろ、いいな?』
「しかし……」
間に合わなかったらどうする気だ?!
『あいつらを信用しろ』
「信用とかそういう問題じゃ……!」
『涼達をこれから誘導する。お前は舞華が目を覚ましたら、今から言う公園の駐車場に向かえ』
誘導って……。
『危険な地区だから絶対に舞華を逃がすなよ』
危険な地区?
それって……。
「まさか……市原?」
『あぁ、奴の家の傍だ』
その言葉に緊張が奔る。
「何でそんなところに? もっと他にもあるだろ」
『時間がない』
何の時間がないというのだ?
局入りの時間か?
『一分でも時間が惜しいんだ、お前達が公園に向かえ。いいな?』
結城さんは私の返事を聞く気などなかったようだ。
携帯からはツーツーという通話の途絶えた音だけが聞こえていた。
羽田さんの運転する車に乗って、俺達は静斗のいる公園に向かっていた。
「悪いけどもうちょっと粘って。うん、分かった」
隣では涼が忙しく電話をしている。
相手は誰だか分からない。
こいつの交友関係は謎だらけだ。
「羽田さん、あとどのくらいで着きそう?」
「二十分くらい……かな?」
その言葉に涼はほっとした様子を見せる。
「どうした?」
俺が尋ねると、涼は苦笑した。
「市原君、ファミレスで寝てるみたい。一緒に居る人がそろそろ帰りたいから起こしてもいいかって」
おい、ちょっと待て。
「市原と誰が一緒なんだ?」
「僕の知り合いの雑誌編集者」
涼は再び携帯を開いて誰かに電話している。
「あんまり考えるな。こいつの謎は今に始まった事じゃないだろ」
信也は苦笑しながら窓を開け、煙草の煙を吐き出した。
「知り合った頃からこいつは謎だらけだ」
「だけど、誰よりも信用できる。それだけのものを涼は持ってる」
信也が腕時計を見ながら話している涼に微笑むと、涼はしっかり聞いていたらしく親指を立てて笑顔を返してきた。
本当にコイツが向こう側の人間じゃなくて良かった。
しかし……。
俺は知ってしまった。
涼の携帯に女の名前がある事を。
セシリア……。
スクロールしている最中に見えた名前。
絶対に男じゃないだろう。
涼はゲイではない。
しかし、誰かと会っているとか付き合ってるなんて話は聞いた事もないのも事実。
こいつの生活も俺らと同じ、音楽漬けなのだから。
一日のほとんどを俺らと一緒にすごし、一人になるのはマンションに戻って来た時くらいだ。
しかし俺らの部屋の前を通過しないと行けない涼の部屋に誰かが訪問した事はない……と思う。
涼の部屋の中にも女のいた痕跡はない。
涼が上手に隠しているのか元々女が入った事がないのかは不明だが。
本当に謎だらけだ。
人生賭けた博打が終わったら聞いてみるか。
真剣な顔で電話している涼を眺めながら俺は微笑んだ。
こんなのが涼の弱みだとは思えないけど、ほんの少しだけ知らない涼を知ったようで気分がいい。
俺はポケットから煙草を取り出して火を点けた。
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次回更新……できれば今週中にもう一回。
出来なければいつも通り水曜日、02月04日です。