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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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奔走(司&信也)

 舞華が居なくなったと分かってからはとにかくバタバタだった。

 信也には舞華の常備薬に関して話し、眠らせて欲しい事を伝えた。

 そうでもしないと、またおかしな行動をとりかねないからだ。

 舞華と静斗が合流したという報告も信也から受けた。

 クリスマス前に結城さんから貰った防犯ベルはGPS機能というものが付いているらしく、舞華の現在地が大まかにだが分かるようになっていたらしい。

 最初からそれを聞いていたらこんなに慌てなかったかもしれない。

 舞華には静斗が薬を飲ませてくれるというので、信也の言葉に従って私は睡眠をとった。

 そして、目を覚ましたのは三時間後。

 信也の携帯に起きたと電話を入れると、応答したのは涼。

『もしもし?』

「涼……? 信也と登録を間違えたか?」

『ううん、信也の携帯だよ』

 涼は電話の向こうでクスクスと笑った。

 涼と話していると今の状況を忘れそうになる。

「涼、今の状況を教えてくれ」

『舞ちゃんは夢の中みたいでホテルから出てないよ。静斗が一人で動いてる』

 何……?!

『適当に電話して状況は聞いてるけどね』

「あいつ一人で市原に会う気なのか?!」

 今日は生放送があるはずだ。

『信也が起きたら静斗と合流する事になってる』

「何を馬鹿な事を言ってるんだ?! GEMは今日……!」

『うん、だから早く決着をつけようと思って動いてるんだよ。大丈夫、知り合いにも頼んで出演できない状況だけは作らないようにしてあるから』

 意味の分からない言葉に私は余計に苛立つ。

『大丈夫だよ司ちゃん。僕達を信用して司ちゃんは舞ちゃんと合流してくれる? フロントに言って部屋を開けてもらうといいよ。目を覚ましたら舞ちゃんが危ないから。それと、ホテルに着いたら結城さんに電話してくれる?』

 私は涼の言葉に従うしかなかった。

 確かにその通りだから。

 それに、涼は私に静斗の居場所を教えてはくれなかったのだから。

 東京に帰る準備を終え、二人分の荷物を階下に持って行くと全員が起きていた。

「おはよう」

 もしかして……彼らは寝ていないのか?

「いつでも車出せますよ」

「食事も簡単に作っておいたんで食べたら出ましょう」

 疲れを微塵も感じさせずに彼らは微笑んだ。

 訊きたい事はたくさんあるのだろうに、誰も何も訊いてこない。

 それは私がまだ話せるほどの情報を持っていないと分かっているからなのか、気を遣ってくれているのかは分からない。

 既に持って来た物は車に積み込まれている。

 私と舞華の荷物を積み込めば終わりだろう。

 すっきりし過ぎた部屋の中で私達は早過ぎる朝食を味わう事もなく掻き込んで東京に向かって出発した。



 目を覚ますとそこには既に英二と結城さん、そして羽田さんの姿はなかった。

 随分と眠ってしまったのかもしれない。

 腕のデジタル時計に目を遣ると午前九時を表示している。

 ボサボサの頭をそのままに、俺は社長室に向かった。

 社長室の中には結城さんと涼、そして英二が居る。

 羽田さんは電話なのか席を外しているようだ。

「おはよう信也」

 涼が笑顔で俺に声を掛けてきた。

 涼という男は緊迫した空気を中和させるのが上手い。

 一瞬、状況を忘れて笑顔を返しそうになる。

「おう……で、どうだ?」

 俺の短い問いに涼は苦笑する。

「舞ちゃんはまだ夢の中みたいだね。ホテルから出てないよ。静斗も相変わらず公園で待ちぼうけ食らってる。あ、司ちゃんはもうこっちに向かってるよ。早ければ十時半には着けるんじゃないかな? 着いたら結城さんの携帯に連絡がくる事になってる」

 どこに? とは訊くまでもない。

「そうか」

「取り敢えずは外に出るための準備しようか?」

 涼は既に用意万端だが、俺は無精髭に寝癖付きの頭。

 俺が行くと言っているのに付いて来る気なのかもしれない。

「俺はこっちで待機しとくぞ」

 結城さんは後はそっちで決めろとばかりにパソコンの画面を眺めている。

「人数は多いほうがいいよね?」

 やっぱり……。

「お前は……」

「大丈夫、運転手として付いて行って市原君と接触するまでは待機しとくから」

 そういう問題じゃないだろ……。

「俺も寒いの苦手だし待機組で」

 英二は灰皿に長くなった煙草の灰を落として微笑んだ。

 ったく、こいつらは……。

「運命共同体だしね」

 涼はそう言って見覚えのある車のキーを握った。

「こんな騒ぎを起こしたら干されるぞ?」

「俺達に場所は関係ないだろ。歌なんかどこでだって歌える、拘りなんかない」

「そうそう。それに、僕達なら海外でも通用するって美佐子社長も舞ちゃんも言ってくれてるしね」

 ったく、本当にこいつらは……最高の仲間だぜ。

 俺は机の上の煙草を一本引き抜いて英二の煙草から火を分けて貰い煙を吐き出した。

「どうなっても知らないからな?」

「「望むところ」だ」

 生放送開始時間まであと十時間。

 間に合うか……?

 いや、間に合わせる。

 絶対に。


ご覧頂きありがとうございます。


一日の話が長いですよね。

複数視点なので端折れないし……。

おそらくこのまま最終話までこの1日だと思われます。


次回更新01月14日です。


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