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GEM《ジェム》  作者: 武村 華音
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逃奔(拓斗&静斗)

「おい、今の話本当なのか?」

 気が付けばGEMのメンバーが俺の傍にいた。

「冗談で話せる内容か?」

 舞華の事もあり、麗華の事件は俺達の間では禁句となっている。

「市原か……」

 信也は拳を握り締めた。

「舞華は軽井沢に行かせる。あっちには知人のプライベートスタジオがあるから一ヶ月丸々借りてあるし、美佐子にも報告済みだ。テレビも置いてないし新聞も配達されない。暫くは誤魔化せると思う。いつものメンバーも同行させるし羽田も急遽復帰させた」

 本来なら年内は休ませる筈だったが事情が事情だ。

 羽田には申し訳ないが協力してもらわないとどうにもならない。

 舞華の状態を知っているのは俺と司と信也だけ。

 俺が付いていられない以上、司を舞華から離すわけにはいかない。

「羽田さんが復帰って事は……」

「司は舞華に付ける」

 俺の言葉に信也はほっとした様子を見せた。

「麗華の事件が明るみになる。勿論信也と結婚してる事も載ってる。舞華がショックから言葉を失っている事もだ」

 唯一、AKIの正体がバレていないのだけはありがたい……。

 これをどう乗り切るかでGEMの将来は決まるだろう。

「俺が……認めてしまえば済む事じゃないんですか?」

 信也は信也なりに考えているのだろうが……。

「問題はそこじゃない。俺を含めお前達は公人だ、でも麗華は一般人なんだ。美佐子はおそらく法的措置を取るだろう。そうなればこの件は長引いて舞華の精神的な負担になる」

 今の舞華は危うい。

 麗華から離れる事もあいつを不安がらせる。

 だが、報道陣に追われる方が辛いはずだ。

 訊かれたくない事を奴等は平然と訊いてくる。

 舞華の精神状態から考えても隔離しておく方が安全なのだ。

「舞華には司が上手い事言ってくれる筈だ」

 取り敢えず舞華を離しておけば最悪の状況は避けられるだろう。

 とはいっても時間稼ぎでしかないが……。

「でも、本当にそれだけで済むのかな? 舞ちゃんに追っ手が付いていたら?」

 涼の言葉に静斗の顔色が変わる。

「お前等は大晦日の仕事が終わるまでは絶対に東京を離れるな。来年のスケジュールは美佐子が調整に入ってる。麗華や舞華との結婚や交際については事は認めても構わないってさ」

 煙たい野郎ばかりのスタジオ内には重たい空気が漂う。

 その話の後では仕事もできず、早々に帰路に着く事になった。

 元々オフなので時間に規制はない。

 早めに情報を仕入れている奴がいるかもしれないという事で羽田が車で待っていた。

「お疲れ様」

「羽田さん、大丈夫なんですか?」

 涼が心配そうに尋ねる。

「まぁ退院は出来てるからね。激しい運動さえしなければ問題ないと思うよ」

 確かに走り回るような事はないと思うが、それでも本調子ではなだろうし心配だ。

「取り敢えず乗って。マンションまで送るよ」

 ある程度事情を知っている羽田は何も訊いてこない。

「羽田さんは聞いてるんですか?」

 信也が遠慮がちに声を掛ける。

「ある程度は美佐子社長から聞いてるよ。あ、結城さんからも少し聞いたかな」

 羽田は俺の顔を窺って苦笑した。

「悪いな」

「いえ、俺はGEMのマネージャーですから仕事をするのは当然ですよ」

 俺はGEMのメンバーが車に乗り込んだのを確認してスタジオに戻った。

 明日以降、GEMの運試しが始まる事になる。

 しかし、俺の頭の中はGEMよりも舞華の事が気になっていた。



 車を走らせながら羽田さんが苦笑した。

「本はといえば俺がこんな時期に入院するからいけないんだよね、ゴメン……」

 俺達は誰も羽田さんのせいだとは思っていない。

 病気なんてのはいつ誰が罹るか分からないものだ。

 それをどうして責められる?

「恨むとしたら市原だろ。羽田さんの責任じゃねぇよ」

 俺は窓の外を眺めながら呟いた。

「静斗も大人になったな」

「本当。昔だったら、てめぇのせいだ! とか言って胸倉掴んでただろうね」

「んなわけないだろ」

「「「どうだか」」」

 メンバー全員がニヤニヤした顔で俺を見ていた。

 そこまで短気じゃねぇよ……多分。

 助手席のシートを思いっきり蹴飛ばすと、車内が笑いに包まれた。

 俺で遊ぶなってのっ!

 車はあっという間にマンションの地下駐車場に滑り込んだ。

 駐車場に司がいつも運転する車が停まっている。

 向こうに行く準備に帰っているんだろう。

「司、居るみたいだな」

「さぁね。もしかして徒歩で出掛けてたりして」

 信也の言葉に涼が呟く。

 何でこいつは悪いほうにばかり話を向かわせるんだろう?

 エンジンが停止して俺達は静かな駐車場に降り立った。

 エレベーターホールのボタンを押してエレベーターがやって来るまでの時間がとてつもなく長く感じる。

「年内、テレビの仕事は二本。それだけ終わったら引き篭もっていた方が安全だろうな」

「どこに居たって煩いと思うよ? いっそ舞ちゃんのトコに居た方が仕事も進んでいいかもしれないし」

 確かにそうかもしれない。

 でも、そうすると信也が……。

「羽田さん、俺達があっちに行く事はできますか?」

 信也が羽田さんに尋ねる。

「信也、そうしたらお前が……」

 麗華のところに通えなくなるだろ。

 そう言おうとしたのに、信也の目が俺の言葉を止めた。

「分かってる。でも、今は意識のない麗華よりも頑張ってる舞華を優先すべきだ」

 どうして信也がそんな事を言ったのか俺には分からない。

「そうだね。意識がない以上、麗ちゃんが気付くなんて事はないし舞ちゃんのフォローのほうが大事かも」

「麗華は心配ないだろ。社長や綾香が付いてるんだし」

 涼と英二も信也の意見に賛成したようだ。

 エレベーターのドアが開くと、そこには舞華と司が居た。

「帰りが早いんじゃないか?」

 司は理由を知っているはずなのにそんな事を訊いてきた。

「疲れたから帰って来た。こんなときにやったってロクな音にはならないしな」

 信也は後頭部を掻きながら答える。

「そうか、いいトコで会ったな。これからスタジオに寄ろうかと思ってたんだ」

 司の言葉に俺達は首を傾げる。

「これ。舞華から皆にプレゼントだとさ」

 差し出された紙袋を何故か俺が受け取り、その中を覗く。

 綺麗にラッピングされた箱が一、二……五個。

 俺達は四人でやっているのに数が合わない。

「一つは結城さんにだそうだ。今回誰かさんのせいで無駄に忙しくなったからな」

 その眼はしっかりと俺を見ている。

 分かってるさ、そんな事。

「箱に全員の名前が入ったストラップが付いてるから間違えるなよ」

 司も舞華も大きなバッグを抱えている。

「お前等、どこか行くのか?」

 実際は知っていても、ここで訊かないのはあまりにも不自然だから、俺は二人の荷物を見ながら尋ねる。

「あぁ、結城さんが誰かさんのせいで仕事ができなくなって期限が近付いてきた仕事を舞華がやる破目になったんだ」

 強ち嘘だとは思えない司の台詞に俺は言葉を詰まらせた。

『私が手伝うって言ったの、静のせいじゃないよ?』

 慌てた舞華が口を……もとい、手を挟んだ。

 それが嘘だと分かるから何だか申し訳ない気分になる。

「俺達も仕事を終えたらそっちに行きますよ。やっぱりAKIさんが居ないと曲作りもノらないみたいなんで」

 羽田さんが苦笑した。

『すみません、迷惑掛けちゃって……出来るだけ早く仕上げて帰りますから』

「迷惑掛けて悪い、出来るだけ早く仕上げて帰るつもりだってさ」

 司の言葉にメンバーも羽田さんも困惑した表情を浮かべる。

「あっちで待っててよ僕達が追い掛けて行くから。たまには都会から逃げたくもなるんだよね」

 涼が舞華の頭を撫でて微笑む。

 舞華に気付かれないように俺達はいつものように振舞ったつもりだ。

 でも、黙っている事の後ろめたさなのか、舞華から貰ったプレゼントが凄く重く感じた。



ご覧頂きありがとうございます。


次回更新10月15日です。

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