プロローグ〜出会い〜
ちょっとシリアスで、ちょっとラブくて、ちょっと哀しいお話です。
途中多少Hな表現が入る場合があります。
初回はございません。
「麗ちゃん・・・やっぱり駄目よ、勝手に入っちゃ・・・」
舞華は初めてやって来た場所にドキドキしていた。
そこはライブハウス。
「大丈夫、顔パスだよ」
通り過ぎる人達が麗華に笑顔で声を掛けてくる。
友達に突然キャンセルされたと言って舞華を誘った麗華は楽しそうに控え室に向う。
ライブが終わったらすぐに帰るつもりだったのに・・・。
麗華は舞華の双子の妹。
身長はそんなに変わらないけど、外交的で天真爛漫。
校則違反のパーマもピアスも堂々としてるし、彼女とは正反対。
舞華が陰なら麗華は陽。
「じゃ、行って来るな」
奥の扉が開き見覚えのある人物が出て来た。
「信也!」
麗華の足が速くなる。
「麗・・・舞華?!」
信也は彼女を見て驚いたようだ。
「お前何考えて・・・!何で舞連れて来てんだよ!」
信也は二人の従兄妹。
舞華達が通う聖ルチア学園の理事長の息子でもある。
身長180cmくらいあるがっしりした体格で頭は綺麗な栗色をしている。
若干強面で家に居るときはあまり喋らない人なんだけど・・・。
現在大学生の彼は大学の友達と“GEM”というロックバンドを組んでいて、時々こういう場所でライブをやっているらしい。
ちなみに担当はドラムだ。
がっしりしてるし、しっくりくるのでなんとなく納得。
「友達にドタキャンされちゃって。舞ちゃん暇だって言うし連れて来ちゃった」
「連れて来る相手を考えろよ!!」
「あ、あのっ・・・私・・・!」
二人の様子に思わず考えなく口を挿んだ。
「お前は黙ってろ。麗華、お前と舞は違うんだぞ!誘う相手はちゃんと考えろよ!舞だけは誘っちゃいけないって分からないのか?!」
「そんなに怒らなくてもいいでしょ?!」
あ、あの・・・周りの目が・・・。
舞華は二人の間でオロオロするしかなかった。
「信也、俺の煙草も買って来て・・・麗華来てたのか。お、新顔?」
部屋から出てきた男性が麗華を見て軽く手を上げた。
その男性は上半身裸でタオルを首に引っ掛けている。
舞華はそれを見て血圧が急上昇するのを感じた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴と共に世の中が歪んできた。
「騒がしい女だな・・・」
呆れたような声が聞こえた。
「静斗!服着なさいよ!」
「舞華!大丈夫か?!」
床に崩れそうになった舞華の身体を支えながら信也が珍しく慌てている。
「見慣れてんだろ?」
「私じゃない!舞華よ!舞華は男の免疫ないのよ!!」
「舞華・・・?」
静斗と言われた男は呆れ顔で舞華を見下ろした。
舞華は控え室のソファで横になって冷たいタオルを顔に当てていた。
「まったく!麗華が連れてこなきゃこんな事にはならなかったんだぞ!」
「静斗が裸で出てくるのがいけないんでしょ?!」
「俺のせいにすんなよ!」
信也と麗華の言い争いは続いていた。
「彼女はなんなの?」
信也のバンドの仲間が舞華を指差した。
「麗華の双子の姉」
信也は短く答えた。
「へぇ・・・似てないんだな」
そんな声が聞こえた。
舞華はさっきの裸の人の声だ、と思う。
「舞華、大丈夫か?」
舞華が身体を起こすと心配そうに信也が見下ろしていた。
「はい、大丈夫です」
辺りを見渡すと皆服を着ていたので安堵した。
「おい」
背後から声を掛けられ、舞華の肩が震えた。
恐る恐る振り返るとさっきの裸の人。
ちゃんと服を着ている。
「さっきは悪かったな」
若干顔を赤らめながら彼はそっけなく言った。
周囲から驚きの声が上がった。
「静斗が謝ったぞ!」
「誰かビデオ撮ってないか?!」
麗華も信也も信じられない眼で彼を見ている。
「何だよ!俺だって謝る事くらいあるぞ!」
真っ赤な顔で周囲を怒鳴る彼が少しだけ可愛いと思った。
「GEM、打ち上げ出るの?始まってるよ」
控え室の扉がノックされライブハウスの関係者らしい人が顔を覗かせた。
「行く行く!」
麗華は元気に手を上げた。
「お前は帰れ、舞華が居るの忘れてないか?」
信也が怒ったような呆れたような顔をしている。
「大丈夫よ。ね、舞ちゃん。ちょっと位いいよね?」
打ち上げとは何をするのか彼女には分からない。
聞いたことはあるんだけど・・・。
首を傾げると麗華は微笑んだ。
「ほら、いいって」
「言ってないし」
信也は腕を組んで溜め息を吐いた。
「信也、あいつ見張っとかないと、またつまみ食いするぞ」
背後の男性が信也に麗華を追わせた。
食べてはいけない物を食べてしまうと言う事なのだろうか?
「おい」
背後の男性が舞華を呼んだらしい。
顔を上げると静斗は煙草を銜えながら彼女を眺めていた。
長いけど、ただ切ってないだけのような腰までの髪は照明の下では金髪に見えていた。
整った顔立ちですらっと伸びた手足。
綺麗な男の人だと思った。
「麗華行っちゃったけどどうすんの?」
彼の言葉が舞華を現実に呼び戻した。
私はどうすればいいのだろう?
麗華に引きずられる様に連れて来られたので駅までの道さえも分からない。
考えていると静斗が微笑んだ。
「少し見ていくか?」
何を?
「麗華を待つのは勧めらんねぇぞ。あいつ絶対朝まで帰らねぇし、帰っても信也のとこに泊まるだろうし」
麗華が帰ってこないのは分かっている。
聖ルチア学園は高等部から全寮制だ。
舞華と麗華は姉妹でありルームメイトでもある。
彼女が帰ってこないのは有名な話でおかげで舞華は肩身が狭い。
叔母である理事長も舞華にはいつも厳しい。
「貴女だけは私の顔に泥を塗るような真似しないで頂戴」
学園一の問題児と学園一の優等生の双子と周囲は言う。
舞華は自分は優等生なわけじゃないんだけど・・・と思う。
「おい」
再度意識を違う所に飛ばしていた舞華を静斗が呼び戻した。
「荷物持って付いて来い。絶対に俺から離れるなよ」
部屋の中には舞華と彼しか居なかった。
閉店した店内で先程曲を披露していたバンドの人達が酒を飲みながら騒いでいる。
これが打ち上げ・・・?
舞華と静斗を見ると周囲がどよめいた。
「煙いだろ」
彼はハンカチを差し出してきた。
意外だった・・・。
何と言うか・・・野生的な?ちょっと野蛮そうな彼がハンカチを持っているとは思わなかった。
勿論私の勝手な偏見なんだけど・・・。
舞華は戸惑いながら彼からハンカチを受け取った。
「あ・・・りがとう・・・ございます」
「やっと喋ったな」
静斗は舞華を見て微笑んだ。
その笑顔に彼女の心臓が倍の速さで動き出した。
「静斗が女連れて来んの初めてじゃね?」
「静斗、彼女?」
「可愛いじゃん」
静斗は舞華の肩を抱いた。
さ・・・触られてる・・・!
舞華は軽くパニックを起こしていた。
遠くに麗華の姿が見えた。
信也や友人と思われる男達と談笑している。
舞華には気が付いていないようだ。
「可愛いねぇ・・・一緒に飲まない?」
酔っているらしい男性が近付いて来た。
真っ赤な顔でお酒と煙草の臭いがする。
「あれ?麗ちゃんに似てるね?」
その男は舞華の顔を覗き込んだ。
舞華は恐くて静斗の服にしがみついた。
脅えているのは明白だった。
「離れろ」
静斗はその酔っ払いらしい男を睨み付けた。
「何?静斗マジなの?この子可愛いもんねぇ」
からかう様にその男は笑った。
刹那、静斗がその男の胸元を掴んだ。
「駄目・・・!」
舞華は慌ててその腕に抱きついた。
チッという舌打ちが聞こえた。
どうやら彼は血の気の多い人らしい。
「帰るぞ、来い」
静斗は舞華の腕を掴んで外に出た。
ライブハウスを出るとひやりと冷たい空気が頬に触れた。
来る時には人がたくさん往来していたのに今は閑散として歩く人もほとんど居ない。
少し距離を置いて歩いていたが、静斗との距離が縮まっていく。
「あの・・・良かったんですか・・・?」
「あぁ、ああいうのあんま好きじゃないし」
ぶっきらぼうに彼はそう言って舞華の肩に手を回して来た。
道路側を歩いていた舞華を歩道側に押し、静斗が道路側を歩く。
その直後、車が彼の横を通り過ぎた。
「あの・・・ありがとうございます」
「何が?」
「・・・さっきも今も・・・」
彼は何も答えなかった。
気のせいか彼の顔が赤みを帯びていた。
凄く不器用な人なのかもしれない。
「優しいんですね」
「女にはな。この時間は人通りも少ないし安全な場所でもない。俺も帰りたかったし丁度よかった」
互いに視線を合わせないままの短い会話。
電車の中は混んでいてお酒の臭いがした。
週末は飲んで帰る人達が多いのかもしれない。
彼は扉の傍に舞華を立たせて、他の人から庇うように立っている。
さりげない優しさに舞華はドキドキしっぱなしだ。
舞華は今日まで家族や親戚以外の男性と話したことはなかった。
彼が初めて話した他人の男性。
会ってからまだ二時間足らず。
なのに不思議と恐怖感は消え失せていた。
「どこで降りるんだ?」
「あ、学園駅です」
彼が何を言いたいのか分からない。
そしてまた沈黙・・・。
駅に着くと静斗は黙って舞華の横を歩く。
「お前のとこって全寮制だよな、門限大丈夫なのか?」
「えぇ、週末は家に帰ってもいいんです。今日は遅くなったので家に帰ろうかと・・・」
家に帰っても誰も居ない。
お父さんもお母さんも仕事の都合で、今は職場近くのマンションで生活しているから。
舞華は苦笑する。
「近いのに寮生活って不経済だな」
「そうですね」
彼の言葉に舞華は微笑んだ。
聖ルチアの前に差掛かった時、彼が足を止めた。
「ここだろ?」
「はい、でも今日は家に帰ります。寮に帰ったら怒られちゃいますから」
舞華は首を竦めた。
再び歩き出して彼が小さな声で言った。
「お前・・・麗華と似てないな」
さっきも聞いた気がする。
「初めて言われました。大体の方は似てるって仰います」
「う〜ん・・・顔は似てると思うけど・・・中身?間逆だよな。双子ってそういうものなんか?互いに持ってないものを持ってるって言うか・・・よく分かんないけど」
何を言おうとしてるのか分からなくなったらしい。
長い髪をクシャクシャと掻いた。
「お前さ・・・」
「舞華です」
さっきからずっと気になっていた。
「菊池舞華です、お前ってやめてください」
彼は噴き出した。
「舞華な、舞華・・・分かった・・・俺は静斗、新井静斗」
新井・・・静斗さん・・・。
気が付けば二人は舞華の家の前に立っていた。
「あ、私の家、ここなんです。送ってくださってありがとうございました」
舞華は深々と頭を下げた。
「暗いな、誰も居ないのか?」
彼は家を見つめて呟いた。
「仕事が忙しいみたいです」
舞華は簡単に答えるに留まった。
会ったばかりの人に話す事でもないと思ったからだ。
彼は特に追求する気もないらしく、小さく手を振って駅へと戻って行った。
風呂に入って寝る準備を整えて掛け時計を見上げると深夜二時になっていた。
舞華はこんな時間まで外に居た事も起きている事も正月以外では初めてだった。
舞華の耳には静斗の声がしっかりと記憶されてしまったらしくベッドに潜ってからもすぐに寝付くことは出来なかった。
ご覧頂きありがとうございます。
この作品は気分転換に書き始めたものです。
週一更新しようと思いましたが・・・気まぐれ更新になりそうです。
週二くらい更新できるかなぁ・・・。
頑張りますのでよろしくお願い致します。