第一話
二作目です。誤字脱字があると思います。その点を指摘してくださると嬉しいです。
「やってしまった」
俺、神無月陽太は何もない真っ黒な空間を落ちていた。こうなったのには理由がある。そう、途方もない理由が…
一時間前、陽太は黒い鎧を着た軍団から、とある国を守るためにある力を使い、次元の裂け目に吸い込まれ落ちてしまった。いつもなら何かに捕まってやり過ごしていたのだが、その時は周りに掴まる物がなかったために、そのまま吸い込まれてしまったのである。
「これ、どこまで落ちてくんだろ」
陽太は一時間ずっと落ちていた。しかし、一向に終わりが見えない。
「俺はこんなとこで死ぬのはごめんだぞ」
陽太は右腕を上に翳し、そして叫ぶ。
「万物を破砕する破砕王よ、契約に応じ我に力を貸せ!!」
陽太の右腕が黒くなっていき、指先から肩までを黒い篭手が覆った。陽太は右腕を確認すると、下の何もない所に向かって右拳を振り下ろした。
「せやぁぁぁぁ!!」
ガラスが砕けるような音と共に陽太は異世界の地へ落ちていった。
☆☆☆
「憂鬱ですわ」
彼女、ローラ=アルヴィナは城の最上階で自国、ロレンツ王国の首都を見渡していた。今この国はバレンヌ帝国という隣国から侵略を受けている。だというのに首都は平和そのものである。
「帝国から侵略を受けている時に、のどかなものですわ」
大臣達は己の保身だけを考える。王は政治にあまり関わろうとしないせいで、今この国はめちゃくちゃだ。辛うじて騎士団の人達や軍の将校達が頑張ってくれているお陰で、帝国からの侵略を防いでいる。だが、それもいつまで保つか。
「誰か、この国を救って…あら?」
ローラが上を見ると黒い点のような物が降ってくる。それは次第に大きくなりローラの目の前に墜落した。
「………」
ローラは物体が墜落した場所を見た。煙が煙っていてよく見えない。しかし煙が晴れてもそこには何かが墜落した後しか残っていなかった。
「何だったのかしら。巨鳥は飛んでいなかったから、帝国の攻撃ではないだろうし」
独りで悩んでいると後ろから声を掛けられた。
「すみません」
自分の知らない声に振り返って見ると、黒髪で身長175cm位の青年が立っていた。青年は上下黒の喪服のような出で立ちだった。しかし、ローラにはそんな些細なことに意識を向けている余裕はなかった。
黒髪ということは、帝国軍!!
「近衛騎士出合えー!!」
☆☆☆
あれ?声を掛けただけだよな、俺
赤いドレスを着た少女が何事か叫ぶと、周りの物陰から合計五人の甲冑を着た男が出てきた。皆、陽太よりもゴツくデカい。
「えーっと、何で?」
陽太が何かマズい事をしたのかなぁ、と悩んでいると他の四人の銀色の甲冑男達とは違い、金色の甲冑を着た男が声をあげた。
「貴様は何者だ!!その黒髪、帝国の者か!!」
「帝国?なにそれ。それに一人で納得しちゃってるし」
金甲冑の男は独りで納得すると、部下の四人に命令し陽太を取り囲んだ。
「何で槍を突きつけるんだ?」
陽太がそう言っている間にも槍と陽太の間隔は狭くなっていく。
「ちょ、ちょっと、痛っ!!事情を話して!!」
「黙れ、帝国軍!!」
さっきから帝国軍、帝国軍って、ああ、なるほど
陽太は騎士がいきなり槍を突きつけてくる理由を、なんとなく理解した。
この国は他国からの侵略を受けてる?いや、でもこの世界に来たばっかりだし、余計なことはせずに穏便にやり過ごそう
「わ、わかった、わかったから、槍を下ろして!!って痛!!オイ、後ろのハゲ!!さっきからチクチクお尻を刺すんじゃねぇ!!」
そう言いながら陽太は両手を頭の上に載せて、降参のポーズをとった。
「連れて行け」
金色の騎士が命令すると二人の騎士が陽太の両脇に立ち、城の中へと連れて行った。
☆☆☆
そこは見渡す限りが黄金で出来た広間だった。黄金でないのは絵画位しかない。上座にある玉座らしき物も黄金造りである。
いや、飾ってある壺や皿まで金にしなくても…
陽太の顔の引きつり様に左右の騎士は哀れんでいた。それもそのはず、敵国の兵士が単独で自国の首都にやってきたのだ。バカ以外の何者でもない。この場合、陽太は勘違いされているのだが。
「その者か、わが国に侵入したという帝国兵は」
すると玉座の脇から頭に王冠(これも黄金)を被った、いかにも王様然とした四十から五十代の男性が出てきた。
玉座の脇から出てくる王様なんて、初めて見た…というか
「王冠まで金に統一する事なくない?宝石とか付けてもっと彩りよくしようぜ。それに金のマントって、趣味悪っ。どこの成金だよ」
「………」
しまった!!つい、考えていた事が口に!!
王は口を半開きにし、陽太を凝視しながら固まっていた。
「貴様っ!!」
「無礼者!!」
そして陽太は左右の近衛騎士に床に叩きつけられる。陽太はその理不尽な行いに、事情を察していても腹がたった。
「お前等なぁ、いい加減にしやがれ!!俺は帝国の人じゃねぇよ!!」
陽太が怒鳴ると、王が玉座に座り言った。
「その黒髪が何よりの証拠だ。それに娘にも今さっき聞いたが、貴様、空から降ってきたそうではないか」
「だからそれが勘違いだ!!俺は違う世界から来たんだよ!!」
「ほう、異世界から来たと申すか。しかし、それを信じるとでも?」
陽太が睨みながら言うのに対し王は小馬鹿にしたように言った。が、王は臆病であってもバカではなかった。陽太の目が嘘をついているようには見えなかったのである。
「よかろう、そこまで信じてほしくば、明日コロッセオでここの騎士と決闘をせよ」
「それで信じてくれるのか?」
陽太は慎重に相手の意図を見極めようとしたが、徒労に終わった。
「国によって魔法体系は違う。貴様の術式を見ればいずれわかるだろう」
「いいぜ、それで納得するんなら、いくらでも見せてやる」
この時、まだ陽太は知らなかった。異世界に来て最初の騒動に巻き込まれることに。
読んでくれてありがとうございます