出会い
私は羽根をばたつかせた。
空を飛びたくて。
自由になりたくて。
人間としてまた、
”生きたくて”
人混みの中、私は路地裏へと降り立った。
人間は天使の存在を知らないから、みつからぬよう。私は、自分の背中の左翼を見た。
もうきっと飛べない。悪魔の呪詛が施されているから。
私は、そんな自分を忌々しく思えてくる。
「どうしたの?」
低い声が耳に入った。
見上げると、私と同じ背丈の男が私の顔をのぞき込んでいる。
答える必要もないと判断した私は、とりあえず俯いてみた。
「喋れないのか?」
そう男は言う。私は、まだ俯いている。
無関係だ。そう思って。
「なんで、震えてる?」
え?
そう思ったが、すぐに気づいた、震えていたことに。
理由は、悪魔に対しての恐怖と寒さ。
気がついた途端に、一気に体が崩れ、ぺたんと座り込んでしまった。
男は
「待ってろ」
と、一気に路地裏を駆けていった。
私は、一目背中の左翼を見て、ポツリと呟いた。
「あの者はなぜ、左翼に気づかないのだろう」
しばらくして、男は毛布と食べ物を持ってきた。
「待った?」
「・・・」
「風邪引くよ?天使さん」
「!!」
「その翼、キレイだね」
自分を天使と気づいていたその男は、私の白銀の翼に触れた。
そして、寒さしのぎにか私の肩に毛布をかけた。それは、私の翼を隠すためでもあったようだ。長い毛布が、羽根を隠している。
「俺は、キーラス。お前は?」
「・・・メノウ」
私は初めて、人間に口を開き、答えた。男、キーリスは嬉しそうに笑った。
「行くあてが・・・、その。ないんだったら」
キーラスは、一旦間を置き言った。
まるで、私に考えさせる猶予を与えるように。
私の今の気分は、死を宣告されそうな罪人。死か生か、どちらかを宣告されるドキドキ感。
「来るか?」
だが、その筋違いのドキドキも消えた。
私は生を下されたのだから。
彼は、まるで誰かの告白の返事を待つかのように、心配そうに、真剣にこちらを見ていた。
私は、丁度寝泊まりの場所を探すのを思い出して、好都合だと思い言った。
「寝泊まりをさせてもらえるなら」
口にした瞬間、つくづく私の優しさに後悔した。
いや、私に優しさなんてあったのか。見事な発見だ。あはは・・・。
そう思えば、また後悔した。何故、感情を人間ごときにさらけ出してしまったのだろう?と。
そんな私を見た彼は、言った。
「そうか!じゃ、行こう?俺の家すぐだから」
と、花が咲くように笑った。
私は肩を支えられ、彼のその笑顔を見ながら、その家に行った。