表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤いトンボが飛んだら  作者: こっそり批判する人
5/7

忘却の痛み

風花が消えた。


祠の風とともに、彼女の姿は崩れ、音もなく消えていった。僕はその場に立ち尽くしていた。手を伸ばしても、何も掴めなかった。声を出しても、誰にも届かなかった。


彼女は、僕のせいで風になれなかった。

僕のせいで、記憶にも残れなくなった。


家に戻ってから、僕は何度も彼女の名前を呼ぼうとした。けれど、声にならなかった。思い出そうとしても、顔が浮かばない。声も、仕草も、すべてが霧のように消えていた。


ただ、胸の奥が痛む。


理由はわからない。何かを失った気がする。何か、大切なものを壊してしまった気がする。


秋になると、赤いトンボが空を舞う。


そのたびに、僕は立ち止まる。空を見上げて、風を感じる。胸が締めつけられるような感覚に襲われる。


誰かが、そこにいた気がする。

誰かが、僕のそばにいた気がする。


でも、思い出せない。


風が吹くたび、耳元で誰かの声が揺れる。


「赤いトンボが飛んだら——」


その続きを、僕はもう二度と思い出せない。


それでも、風が吹く限り、僕はその声を探し続ける。


忘れてしまった誰かのために。

壊してしまった何かのために。


そして、僕自身のために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ