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第八話 命名

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「はい、次はこれね」

「ティナさん、これもいいんじゃないですか?」

「うーん、悪くないわね……後で試着させましょう」

「分かりました。ちなみにこれの色違いって合いますかね」

「どうかしら……一応持ってきて」

「あの、こんなにいっぱいかうの? おかねっていうのがひつようなんじゃ……」

 とある服屋にて。

 服選びをしている二人の間で少女が独り戸惑っていた。目の前には大量の服があり、中には明らかに高級な服も混ざっている。

「大丈夫よ、お金ならたくさんあるから」

「でもあそこでないてるイブキはいいの?」

「気にしたら負けですよ。あ、ティリシアこんなのはどうです?」

 ティリシアと呼ばれた少女はチラチラと落ち込んでるイブキを見た後、二人に連れられて試着室の中へと入っていった。

「俺の金が……頑張って貯めたのに……」

 依頼で貯めた金を搾取され、そのまま捨て置かれてしまうイブキがとても哀れであった。

 こんなことになってしまったその始まりは数時間前にさかのぼる。







「ここは……」

「馬車の中よ。安心して、あなたを追っ掛けてきた奴らは皆やっつけたから」

 ティナが安心させるように撫でながら少女に言った。少女は辺りを見渡して助けを求めた馬車だと分かると確認するように聞いてきた。

「……ほんとうに? ほんとうにたすかったの?」

「ああ、もう大丈夫だ。礼はティナっていう隣にいる奴に言っておけよ。君の両腕を治してくれたんだから」

「そういえばうでちぎれちゃったんだっけ……えっと、ありがとう」

 少女のぎこちない感謝にティナは笑顔で答えた。

「どういたしまして。治療費は働いて返してね」

「……ティナさん、そういうのはちょっと……」

「冗談よ」

「冗談には聞こえなかったぞ。純粋そうなこの子ならやりかねないし。ところで、君はこれからどうするんだ? 俺等と一緒に来るか?」

 イブキの問いかけに少女が少し言いにくそうに答えた。

「どうするっていったって、わたしはついていきたいけど、えっと、その、ひとじゃないし……」

 今までの扱いからか、やはり自分が人とは違うのを気にしてるようだ。

「別に魔人だろうが何だろうが俺達は気にしないけどな」

「っ!? なんで魔人ってしってるの!」

「君のいた施設に行って確かめてきたからだけど。そんなこといったらこいつだって人じゃないし」

 イブキの指差した方向にはティナがいた。予想外のカミングアウトに固まるアリシアと少女。

「指差さないでよ。確かにそうだけど」

「えっ、そうなんですか!?」

「あれ? アリシアに教えてなかったっけ。てか一回はティナに翼が生えてるの見たことあるだろ」

「ありますけど魔法かと思ってました」

「ほら、これが証拠」

 言葉と共に背中から二対の翼が生えてきた。それは純白で、人一人容易に包み込めるくらいに巨大で綺麗だった。

「わぁぁ、てんしみたい……」

「飛べるんですか?」

「え、聞くのそこ?」

 ズレた質問をするアリシアについツッコんでしまうイブキ。

「羽ばたくわけじゃないけど飛行機能はあるわよ。それに盾としても使えるし、膨大な魔力を内包してるの」

「おいおい、そんな重要なこと言っていいのか?」

「別に悪用しないでしょこの子達なら。まあしたら殺すけど」

 あっけらかんとした様子に頭を抱え込んでしまう。

 それを尻目に、ティナは翼を折り畳んで元に戻す。

「そうだろうけどな。全く、本当に無用心なんだから……いいか二人とも。何があっても絶対にこの事は誰にも言うなよ。お前らの命の為にもな」

「うん」

「分かりました」

 事の重要性が分かっているのか、力強く頷く二人。

「よし、話が遠回りしちゃったけど、要は仲間が一人増えても特に変わらないし、出生でああだこうだ差別するのは好きじゃないってことだ」

「じゃあ、ついていってもいいの?」

「むしろ大歓迎だね」

「だったらついていく。あの、よろしくおねがいします」

 ぺこり、と頭を下げる少女。

「あぁよろしく。俺イブキっていうんだ」

「ティナよ。姉だと思って気軽に話し掛けてね」

「アリシアです。同じく姉代わりになりますからよろしくお願いします。ちなみに名前は何ていうのですか?」

「なまえはないけど、あえていうなら32ごうってよばれてたよ」

 32号というのは恐らく実験における識別番号のことなのだろう。今更ながら実験体としてしか見てなかったのがよく分かった。

「新しく名前をつけないとな。何かいいのある?」

「ティリシア、なんてどうでしょうか?」

「ティリシアね……根拠はなにかしら?」

 何となく想像はつくが、一応聞いておく。

「私とティナさんの名前をくっつけただけなんですけど……」

「俺が入ってないのは気になるけど、そんな感じでいいんじゃないか? どう、ティリシアでいい?」

「わたしはなまえをつけてくれるんならなんでもいいよ」

「決まりだな。今から君はティリシアだ」

「ティリシア……うん、わたしはティリシア!」

 どうやら気に入ってくれたようで、とてもいい笑顔だった。

「次の街に行ったらティリシアの服買わないとね。イブキの金で」

「……はい? 何で俺から?」

「当たり前でしょ。こういうのは昔から男が買うって相場が決まってるのよ」

「そんなの知らん」

「抗おうとしても無駄よ。じゃーん、これ何でしょう?」

 そう言われてティナの手を見ると、何故かそこにはイブキの財布が。

「ちょっ、いつの間に俺の財布を!?」

「さあ、いつかしらね。気付いたら手の中にあったのよ」

「嘘つけ! てか返せよ!」

「ティリシアにボロ布を着て生活しろっていうんですか!」

「えっ、まさかのアリシア参戦!?」

「二対一よ、おとなしく観念しなさい」

「お前ら単に自分の金使いたくないだけだろ」

「「…………」」

「はぁ……分かったよ。自由に使え」

「「わーい」」

 手を叩き合って喜ぶ二人。対照的にイブキは悲しそうにティナに握られた財布を見ていた。







「いい買い物したわねー」

「本当ですね。(ついでに自分の服も買っちゃいましたけど)」

「あぁ……俺の財布がこんなに軽くなっちまって……」

「あの、ごめんなさい。だいじょーぶ?」

「いいんだよ、もう。終わったことだし、また稼げばいいんだしな」

 立ち直るのが早いイブキだった。決して目尻に付いている液体は涙ではない、きっと。

「ここって祭りやってるのね」

 ティナが周りを見ながら言った。確かにそこらじゅうに露店が並んでいて、人ごみでごった返している。

「祭りかー、こういう雰囲気って何かいいな」

「私祭りに行くの初めてなんですよ」

「そういえばあたしもね」

「露店を見て回りたいだろうし、資金調達とかティリシアの社会勉強も兼ねて、しばらくはこの街に滞在するか。そうと決まれば宿屋を探そうぜ」

「え、宿泊代も出してくれるの?」

「いや、それはないから」




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