第九話 大会
一話から大幅に修正しました。感想その他お待ちしています。
大陸最大の商業都市、グランドール。
大陸のほぼ中央に位置しており、周囲の土地はグランドールが所有している。つまりどこにも属さない独立都市で、どの国からも近く各国の名産品が集まるため商業が発達したというわけである。
そのため一年を通して商人などで過密状態なのだが、さらに人が集まる時期がある。
「それが『グランドール武術大会』ねえ」
「はい。各国から腕利きの強者達が出場する大イベントなんですよ」
荷物を(とはいっても馬車だけだが)宿に預けて適当に露店をぶらぶらしながら大会について聞く。
「しかもそれが近いうちにあるんだろ」
「今日予選で五日後には本選ですね」
「タイミングの良さがハンパないな」
アリシアがそこらじゅうに貼られた宣伝のチラシを読みあげていく。
「受付は今日正午まで、闘技場にて。参加資格は『探求士』であること。予選と本選共にトーナメント方式でルールは基本何でもあり、制限時間は三十分、降参するか気絶するか死ぬと負けになります」
「へぇ、死ぬこともあるんだな」
「武器自体に刃引きを施さなくてもいいらしいのでそういうこともあると思いますよ?」
「野蛮ねえ、戦ってなんになるのかしら」
「人ってのはそういうもんだよ」
「あ、優勝賞金金貨二百枚って書いてあります」
「出るわよ」
「決断早っ! え、マジで出んの? てか野蛮なんじゃないのか」
「金貨二百枚よ、出るに決まってるでしょう。野蛮だなんだ言ってたら世の中生き残れないわよ」
「変わり身早いな!? もしかして俺も?」
「あんたも出るの。アリシアはティリシアと一緒にいなさい。あたし達は予選の受付に行ってくるから」
「えぇー面倒くさいから嫌だふっ!?」
イブキが拒否しようとした瞬間、ティナが鳩尾にパンチ。
「……何、すんだ……」
「いいから行くのよ」
「ちょ、行くから、行くから掴むなって……」
右手にチラシ、左手にイブキの首根っこを掴んでティナはそのまま歩いていってしまった。
その様子を呆然と見守るアリシアとティリシア。
「ねえねえ」
「何ですか?」
「ああいうのをしりにしかれるっていうのかな」
「……どこで覚えたんですかそんな言葉」
はぁ、と溜め息をつかざるを得ないアリシアだった。
アリシア達と離れてから一時間、二人は未だに闘技場に着いていなかった。
というのも、人が多くてうまく進めないのと主にイブキがあちこち露店で食べ物を咀嚼しているからであった。
「食べ過ぎじゃない?」
「長い囚人生活でまともな物食ってなかったんだよ」
「それにしてもこの量はないでしょ。それよりさっさと受付に――」
「すいませーん」
「いらっしゃい! 何が欲しいんだい?」
「話聞け!!」
話を聞かずに食べ物を貪る姿に業を煮やして後頭部を思いっきり叩くが、イブキはそれさえもスルーして店主に注文する。
「えーと、これとこれを二つずつ」
「後ろでお嬢さんが凄く怒ってるけどいいのかい……? えーと、全部で銅貨四枚だ」
露店の焼鳥屋から鳥の串焼きを受け取り、代金を払う。振り向くと予想通り怒り狂う般若がいた。
「無視してんじゃないわよ」
「はいティナ、あーん」
「……こんなので怒りを鎮められるとでも?」
「い・い・か・ら、あーん」
「人の話を聞き」
「あーん」
「だから」
「あーん」
「……あーん」
パクっ、と差し出された焼き鳥を食べる。
「うまいか?」
「……えぇ」
顔を赤く染めながら静かにモグモグと口を動かすティナ。機嫌直って良かったー、とイブキは内心で安堵した。
「二人ともお熱いねぇ。ここに観光しに来たのかい?」
「いや武術大会に出ようかと思って」
「へぇーおめえさん大会に出るのか」
「ああ、一応そのつもりだけど」
「そっかぁ、若えのにようやるなぁ。だが死ぬなよ、相手は本気で来るからな」
「了解。忠告ありがとなおっさん」
「いいのいいの。頑張れよー若いの。会場で会おうな!」
最後の一言が気になったが、人の波に押され手を振って別れる。
「お、あれか? 闘技場って」
「ふーん、やっぱりでかいわね」
目の前には円形型の巨大な建築物。恐らく入り口が受付なのだろう、様々な武器を持った人々が集まっている。
「今更だけどさ、ホントに出んの?」
「当たり前よ。お金の為にも優勝しないと。あのー、大会に参加したいのだけど」
受付の男に話し掛ける。男は二人を一瞥すると面倒くさそうに手で追い払った。
「無理無理、子供と女じゃ予選も突破できねえよ。出直しな」
ピキッ、とティナのこめかみに青筋が浮き出る。
「あら、女子供は参加できないなんて広告には書いてなかったわよ?」
「お前らじゃ死ぬのがおちだ。諦めな」
その言葉にとうとうティナが短剣を後ろ手に取り出した。
「ねぇ、どうしてもダメかしら?」
「だから無理なもんはひっ!?」
男の首に短剣が押し当てられる。ティナが凍るような笑みを浮かべて男に言う。
「断った場合、あんたの首がおさらばするけど?」
「わ、分かった! 分かったから剣をどけてくれ!」
首から刃が離れてホッとする男。しかし短剣をちらつかせているティナを見て慌てて参加申請書を渡した。
「ここに名前とランクを書いてくれ。後は登録証を見せてくれればいい」
そう言われて懐から登録証を取り出し提示する。
「よし、記入ミスは無いな。もうしまっていいぞ。それにしてもランク4と5か……自殺志願者かお前らは」
男の話によると大会参加者はランク7・8が普通なのだそうだ。それ未満のランクでの出場は自殺行為だと言っても過言ではない、らしい。
「要は強けりゃいいんだろ。大丈夫だって」
「俺は止めたからな、死んでも知らないぞ。予選はここの地下でやる。イブキ=センジョウは第一ブロック、ティナ=エンジェルは第四ブロックだ」
「うわっ、むさ苦し!」
ティナと別れて指定された場所に行くと、中には筋肉マッチョな人達がひしめいていた。ウォーミングアップをしていたのか汗を滴らせとても暑苦しい。
「うえーこんな奴らと闘うのか……速攻で倒そう」
イブキの発言に全員がイブキを見る。と、マッチョの一人が歩み寄ってきた。
「おうおう兄ちゃん、偉く自信あるな。なんなら俺と闘ってくれねえか?」
拳をバキバキと鳴らしながら笑うマッチョ。
いいけど気持ち悪いです、とイブキは即答した。
「……何だと」
「気持ち悪いですって言ったんだ」
その言葉に怒りで顔を真っ赤にしたマッチョは拳をイブキに突き出した。
「なっ!?」
そのまま当たるかと思われたそれは、イブキの鼻から数センチの距離の所で停止。
「残念、当たらないよ」
笑うと同時、巨体が目に見えない程のスピードで吹っ飛んだ。周囲の男達も巻き込んで壁に激突、ピクリともしなくなった。
「ほら、速攻だったろ? この際お前らまとめて相手してやるよ。掛かってきなさい」
はっはっは、と笑うイブキに全員が襲い掛かったのは言うまでもない。