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プロローグ 看守と囚人



「2345番、飯の時間だ」

 薄暗い地下牢の中、黒髪に黒目というこの世界でも珍しい色をしている青年が鉄格子の隙間から入れられた食料を凝視した。

「いつも思うんだけどさ、たったこれだけ?」

「は、大罪人にやる飯なんてそれで十分だ」

 与えられたのはパン一枚とリンゴ一個。栄養失調になりかねない程の少なさだ。しかも傷んでる。

 殺す気か、と内心溜め息をつきながら囚人の青年――イブキは仕方なくそれらを食べた。

 途端に顔をしかめる。不味い。

(全く、時々脱獄して食料調達してなかったらとっくの昔に死んでたっつーの。やっぱりここにいるべきじゃないな)

 リンゴに噛り付きながらふと看守に話し掛ける。

「なあ、ティナの奴知らない? あいつ今日非番?」

「そうだが、それがどうした」

「いや別に。ただ気になっただけだ……ごちそうさま」

 芯だけになったリンゴを投げ捨て立ち上がった。そのまま準備運動をし始めるイブキだったが、幸い看守は背中を向けていて気付かない。

「外に出たら色んな飯食いたいなあ」

「貴様が出るなんて事は一生ない」

「分かんないぞー、もしかしたら運良く脱獄できちゃうかも……」

「そんなことになってもこの世界に逃げ場はない」

「あっはっは、確かにな。っと、準備完了。おいそこの看守」

 面倒くさそうに振り返った看守が驚愕で固まった。

 そこには、髪を白く変色させたイブキが目の前に立っていた。

「何十年も閉じ込められるのにも飽きたから俺はここを出ようと思う」

「な、貴様……!」

「この世界に逃げ場がないんだったら、下界に行けばいいんだよ」

 とてつもない波動が辺り一帯に広がる。すると、周りの壁がピシピシと音を立ててひびがはいっていった。

 看守は理解してしまった。こいつをここに留めておくことは出来ないのだと。

「ていうわけで君、今日でお役御免だね」







 昼下がり。見渡す限りの草原にぽつんと一人の女性がいた。

「……ふぅ、今日も平和ねぇ」

 ほぅ、と女性が紅茶を口に含んで溜め息をつく。そして輝くような金色の髪を指で弄りながら、背中から生えている二対の翼に身を預けた。

 いつもならこの時間帯は仕事で看守をしているのだが、とある囚人との会話が楽しく休みなく働いていたせいで上司から休むよう命令されたのだ。

「今日は非番であいつにも会えないし、本当に退屈――っ!?」

 二回目の溜め息をつこうとして、突如物凄い地響きがした。地震かと思ったがこの地域でそれはない。

 咄嗟に自らの能力を発動させて、周囲の探索を行う。

(震源地は……地下収容所から? てことはまさか……!)

 思い当たる節がありすぎて舌打ちをする。急いで収容所に向かおうと翼を広げたところで、目の前に転移反応。

「いきなり何――」

 運が良いのか悪いのか、転移した場所が女性の目の前だったのでその豊満な胸に顔を埋めてしまうイブキ。

「んむ!? っと、あ、ティナ……」

 顔を離して見上げるとそこには般若がいた。

「……イブキ、覚悟はできてる?」

 いつの間にか取り出していた短剣をそっと頸動脈に押し当てられる。軽く皮膚が切れて血が流れた。と同時に冷や汗も流れた。

「待て、それはまずい。ひとまず落ち着こう、な?」

「えぇ、うっかり手を滑らしちゃうくらいには落ち着いてるわ」

「落ち着いてないだろ。てか頼むから剣をどけてくれ」

 仕方なく短剣を懐にしまい込むティナ。イブキは冷や汗を拭いながら安堵の溜め息をついた。

「で、何があったの。地下収容所が跡形もなくなるなんてよっぽどのことじゃない」

「いや、ただの憂さ晴らしだよ。何十年も幽閉されてたんだ、これくらい別にいいだろう?」

「やっぱりね……でもどうするの? こんな騒ぎになった以上、上の連中が黙っちゃいないわよ」

 今頃討伐隊でも編成して血眼で捜しているだろう。見つかったらただじゃ済まない。恐らく以前のように戦争になる。イブキ対この世界にいる全ての神達の。

「そんなことは百も承知さ。だから下界の一つに行こうと思ってる。元々こんな世界に未練なんて無いし。それにたくさんあり過ぎてどの下界に行ったか分からないだろうからな」

「あたしにそんな喋っちゃっていいの? 敵になるかもしれないのに」

「それだけお前を信用してるってことだ。それに一緒に行くつもりだったんだけど……来る?」

 イブキの問いに少しの間考えていたティナがぽつりと言った。

「……一つだけ聞いていいかしら?」

「ああいいよ」

「何であたしなの?」

「んー、お前はあいつらと違って俺に友好的だし、話してて飽きないからかな」

「なるほどね……ふふ」

 理由を聞いて嬉しそうに笑うティナ。それにイブキが訝しげな視線を送る。

「何だよいきなり笑って」

「別に何でもないわよ。あ、返答だけど、一緒に行くわ」

 あまりにあっさりと言ったために、イブキが軽く目を見開いていた。

 イブキと一緒に行くということはつまり、この世界を敵に回すのと同義。そんな自身の命に関わる大事な選択を即決したのだ、驚くのも無理はない。

「こんな所にこの先ずっと居るより、あんたといる方が退屈しないで済みそうだしね」

 固まっていたイブキはそれを聞いてふっと笑うと、ティナの手をとった。

「じゃあ行こうか。そろそろあいつらが来そうだしな」

「そうね。でもどの下界に行くの?」

「そこら辺はまあ、適当?」

「行き当たりばったりね」




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