三日月堂、攻められる!?
成瀬が「三日月堂」を守る覚悟を決めてから数日後、異世界の村は、かつてないほどの緊張感に包まれていた。
商会の動きがいよいよ本格化してきたのだ。成瀬の店である「三日月堂」への圧力が日に日に強まる中、村長からの連絡を受けて、成瀬はまたしても村の広場に集まった。
「成瀬さん、どうしても避けられない状況が来てしまいました」
村長が深刻な表情で言った。
成瀬は眉をひそめて答える。
「商会がついに動き出したんですね?」
村長はゆっくりと頷いた。
「はい、そうです。王都の商会から使者が送られ、村に対して正式に提案を持ちかけてきました。『三日月堂』を支配し、商会の一部としてチェーン展開を行いたいと…」
「チェーン展開…」
成瀬はしばらく黙ったままでいた。
確かに、商会の力を借りれば、店は繁盛し、さらなる拡大を見込むこともできるだろう。しかし、成瀬はその提案にすぐに乗る気にはなれなかった。
「でも、それってただの買収ですよね?」
成瀬は冷静に続けた。
「商会の意図は、僕の店を利用して異世界との繋がりを支配し、利益を得ることなんでしょう?」
村長はため息をつきながら答えた。
「その通りです。商会はあなたの店が持つ異世界との『力』に目をつけている。商会の計画は、あなたの店が持つ異世界の商品を商会のネットワークに組み込むこと、そして最終的には『三日月堂』の全権を手に入れることです」
「それって…」
成瀬は深く考え込んだ。
「僕はただ、雑貨を売って、人々を幸せにしたいだけなのに…」
村長は続けた。
「そうなんです。でも、商会はその『力』を手に入れれば、王都全体の商業に影響を与えることができると考えている。異世界との繋がりを確保することで、全ての商会が利益を得られると信じているんです」
その話を聞きながら、成瀬の心には葛藤が生まれた。
自分がしていることは、あくまで雑貨屋として小さな幸せを提供することだった。しかし、それが大きな商業の波に巻き込まれ、どんどんと大きなものになっていく。自分一人の力ではどうにもならないことを、彼は改めて実感していた。
「どうするつもりですか、成瀬さん?」
村長が真剣な眼差しで問いかけた。
成瀬はその視線を受け止め、ゆっくりと答えた。
「商会の提案を断るのは簡単だけど、そうしたら村に迷惑がかかるかもしれません。もし、商会が村に圧力をかけてきたら、村の人たちが困ることになる」
「そうだな。だからこそ、商会との交渉を慎重に進める必要がある」
村長が力強く言った。
そのとき、突然扉が開き、ティナが入ってきた。
彼女は成瀬に向かって駆け寄り、何かを伝えたくてたまらない様子だった。
「店長!大変です!商会の使者たちが、村の広場に来ています!」
その報告を受け、成瀬は急いで立ち上がった。
「商会の使者が…?」
「はい。村長に伝えた通り、商会は今日正式に交渉に来ることになっています。使者たちはもうすぐ、広場に到着するはずです」
ティナは焦りながら言った。
成瀬はしばらく黙って考え込むと、ゆっくりと言った。
「分かった。じゃあ、すぐに向かおう」
村長も、成瀬と共に広場へと向かう準備を始めた。
商会の使者たちとの交渉は、今や避けられない局面を迎えようとしていた。
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広場に到着すると、そこにはすでに商会の使者たちが待機していた。
彼らはきちんとした服装をしており、その中には見覚えのある人物も混じっていた。
それは、以前、成瀬が王都の商会と接触した際に、見かけた商会の幹部、アランだった。
「成瀬さん、お久しぶりですね」
アランがにっこりと微笑みながら声をかけてきた。
成瀬は冷静に彼を見つめ返しながら言った。
「久しぶりです。商会の提案について、話を聞かせてもらいましょう」
アランはその言葉を受けて、にやりと笑った。
「もちろん。私たちは『三日月堂』の素晴らしさを評価しています。王都でも評判が良く、もっと多くの人々に知ってもらいたいと考えているんです」
成瀬はアランの言葉を無表情で受け止めながら、冷静に反応した。
「それは嬉しい話ですね。でも、商会の意図はよく分かっています。『三日月堂』をチェーン展開させることで、私たちの世界を商会の支配下に置きたいのでしょう?」
アランは少し驚いた様子で言葉を詰まらせたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「その通りです。商会は、異世界との繋がりを強化し、より多くの人々に素晴らしい商品を届けることを目的としています。しかし、それがどんなに素晴らしいことかを、あなたも分かるはずです」
成瀬は一瞬、視線を逸らした。
彼はただ、村の人々のために店を開いているだけだ。しかし、商会の影響力が増せば、店も村も彼の手を離れてしまうだろう。
「あなたの提案は断ります」
成瀬は断固として言った。
「私は、商会の力を借りてまで拡大したくはありません」
その一言に、商会の使者たちは驚きの表情を浮かべた。
「あなたがそのような決断をするとは思いませんでした。ですが、この提案を拒否することがどれだけ村に影響を与えるか、考えたことはありますか?」
成瀬は一歩踏み出して、強く言った。
「それがどうした。僕は、この店と村を守りたい。商会に操られることなく、僕のやり方で守るんだ」
その言葉に、アランは無言で立ち尽くした。
そして、次の瞬間、彼は冷徹な表情で言った。
「分かりました。しかし、これは始まりに過ぎませんよ」
その言葉を最後に、商会の使者たちは広場を後にした。
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成瀬は深いため息をつきながら、村長とティナを見つめた。
「これから、もっと大変なことになるかもしれませんね」
村長は頷き、ティナも不安そうに言った。
「でも、私たちも協力します。どんなことがあっても、三日月堂を守りましょう」
成瀬は静かにうなずいた。
「ありがとう。でも、これは僕一人では乗り越えられない。みんなで力を合わせて、守り抜こう」