魔法と電池と交換術
「成瀬さん、ちょっと見てください!」
突然、ティナが興奮気味に駆け寄ってきた。
手に何かを持っている。
「どうした?」
「これ、見てください!」
ティナが差し出したのは、俺が村に持ち込んだ懐中電灯だった。
「懐中電灯……?」
「はい! これ、すごく面白いんです!」
ティナがにっこりと笑って言った。
「昨日、私が友達にこれを見せたら、すっごく驚かれてしまって。だって、光っているのに、何も魔法を使ってないんですもの!」
そう言って、ティナは懐中電灯のスイッチを押して、明かりを灯した。
「あぁ、それはね、電池が入ってるから、電気が流れて光るんだ。魔法とは違うんだよ」
「魔法じゃないんですか?」
ティナは不思議そうに聞いてきた。
「うん。魔法は、いわゆるエネルギーを使って力を引き出すものだけど、懐中電灯は化学的なエネルギーを使って、光を出しているんだ」
「ふーん……、それで、この光はどれくらい続くんですか?」
「うーん、だいたい数時間くらいかな。電池が切れたら、また新しい電池を入れないといけないけど」
ティナはその説明を聞いて、ますます興味津々になったようだ。
「へぇー、電池っていうのは、どうやって作るんですか?」
「うーん、それがちょっと難しいんだよね。でも、今はまだ簡単に手に入るわけじゃないし」
「それで、魔法の人たちに頼んだりできないんですか?」
その時、背後から突然、声がした。
「それは、どういう意味だ?」
振り向くと、そこには一人の若い男性が立っていた。
背が高く、ローブをまとったその青年は、どこか魔法使いっぽい雰囲気を漂わせている。
「え?」
ティナが驚きの声を上げる。
「お前、確か三日月堂の店主だな?」
青年は俺に話しかけてきた。
「はい、そうですけど……。あなたは?」
「俺は、魔法使いのシオンだ。王都から来た」
シオンと名乗るその青年は、無駄に威圧感のある表情で俺を見つめていた。
「魔法使い?」
ティナが目を丸くしながら言う。
「そうだ。こっちの世界では、魔法を使うのが普通だ。だが、お前が持っているその道具は、明らかに異常だ。どうして魔法を使わずに光を出せるのか、その原理を教えてくれ」
シオンの言葉に、俺は少し考える。
——なるほど、この世界では「魔法が全て」で、科学的な原理に基づく道具に驚かれるのも無理はないか。
「まあ、簡単に言うと、魔法とは異なる原理なんだ。けれど、基本的に、化学反応でエネルギーを生み出し、それを光に変えている」
シオンは眉をひそめて、それをじっと聞いていた。
「お前、どこかで学んだのか?」
「いえ、普通の人間として、世界の仕組みを少し勉強した程度ですけど」
シオンが黙って考え込んでいたが、しばらくすると、興味深げに言った。
「……なるほど。お前が言う通り、魔法の力を借りずに、エネルギーを使って光を出す道具が作れるなんて、面白い。だが、これは魔法とは全く異なるものだな。こっちではこうした道具は見かけない」
「それなら、是非見てもらいたいんですけど」
俺は手を差し出して、懐中電灯をシオンに渡した。
シオンは受け取ると、少し迷ったように手に取った。
「ふむ……これは、確かに魔法とは違うな。だが、もし俺が魔法を使って、この道具を変化させたらどうなると思う?」
「魔法で、変化?」
俺が驚いた顔を見せると、シオンは興味深く微笑んだ。
「そう、例えば電池の代わりに魔力を使って、この懐中電灯を光らせることができるかもしれん」
「それ、できるんですか?」
シオンは一瞬、考え込むように目を閉じ、ゆっくりと呪文を唱え始めた。
その言葉は、俺には理解できない異世界の言葉だったが、彼が手に持っていた懐中電灯に魔力が流れ込んだ瞬間——
「うわっ!」
懐中電灯が眩い光を放ち、急に明るくなった。
俺は思わず目を細める。
「どうだ? 魔力で動かすと、こんなにも強く光ることができる」
シオンが得意げに言う。
「それって、どうやって制御するんですか?」
「それは簡単だ。魔力の量を調整すれば、光の強さも調整できる」
シオンはさらに実験を続け、魔法の力で懐中電灯を光らせ続けることができるようになった。
「すごい……!」
俺はただ驚くばかりだった。
科学と魔法がこんな風に交わるなんて、考えもしなかった。
「これ、もっと改良できそうだな」
「そうだな、こっちの世界で必要なものに応じて、色々な機能を追加することができるかもしれん」
二人で話し合いながら、さらに改良案を出し合う。
シオンとのこの会話から、俺は一つ確信を持った。
——この世界でも、科学と魔法の融合が新たな可能性を生み出すかもしれない。