お祭りと屋台と風鈴と
村の広場が、いつになく賑やかな雰囲気に包まれていた。
「成瀬さん、今日って、何か特別な日なんですか?」
ティナが顔を輝かせて訊ねてきた。
その顔には、何とも言えない期待感が漂っている。
「実は、今日は村のお祭りの日だよ。毎年、この時期に開かれるんだ」
「お祭り!?」
ティナは目を大きく見開いた。
「うん。毎年、村の人々が集まって、いろいろなことを楽しむ日なんだ。でも、今年はちょっと違うんだ」
「違う?」
「うん、今年は三日月堂も参加することになったんだ」
ティナはしばらく沈黙してから、にっこりと笑った。
「それ、すっごく楽しみです! 成瀬さん、どんな出店をするんですか?」
「そうだな……、日本の伝統的な屋台を持っていこうかと思っている」
「屋台!? それって、食べ物を売るんですか?」
「いや、食べ物もいいけど、今回はおもちゃを持っていこうと思ってる」
ティナの目がさらに輝いた。
「おもちゃ!? どんなものですか?」
「ヨーヨーとか、紙風船、風鈴とかかな」
ティナはますます興奮していった。
「それ、楽しそうですね! 絶対に、子どもたちが喜びますよ!」
「うん、そうだな。子どもたちに喜んでもらえたら、それだけで成功だと思ってる」
こうして、俺たちはお祭りの準備を始めることになった。
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その日の午後、広場に屋台が立ち並び、村の人々はわくわくした様子で集まってきた。
「成瀬さん、準備できましたよ!」
ティナが走り寄りながら言った。
その手には、俺が持ってきた日本のおもちゃが入った箱が抱えられている。
「ありがとう、ティナ。それじゃあ、早速準備しようか」
俺たちは協力して、屋台を作り上げた。
ヨーヨー風船を膨らませ、紙風船を吊るし、風鈴を飾りつける。
どれもこれも、異世界の村にとっては新鮮で珍しいものばかりだ。
村の人々が集まり始め、子どもたちは目を輝かせて、屋台の周りに集まってきた。
「ねえ、あれは何?」
「これ、どうやって遊ぶんだ?」
「わぁ、風鈴だ! すっごくいい音がする!」
子どもたちの歓声が響き渡り、村の広場は一層賑やかになった。
「成瀬さん、見てください!」
ティナが嬉しそうに言った。
彼女の横には、まだ小さな子どもたちが、ヨーヨーを持って嬉しそうに笑っている。
「うん、すごく楽しそうだな」
「これ、私たちもやってみます!」
ティナも含めて、いくつかの村人が集まって、紙風船で遊んでいた。
異世界の村に、日本の伝統的なおもちゃがこんなにも馴染んでいることが、なんだか不思議に感じられた。
その時、村長がやって来て、俺に声をかけてきた。
「成瀬さん、これで本当に良かったんですか?」
村長は少し戸惑った様子で言った。
「もちろんだよ。みんなが喜んでくれるなら、それが一番大事なことだ」
「でも、このような形で村の文化に取り入れるのは、ちょっと大胆なことだったと思います」
「でも、それがいいんだ。文化って、いつだって新しいものを取り入れて、進化していくものだろ?」
村長はしばらく黙って考え込んだ後、深く頷いた。
「成瀬さん、あなたが持ってきたものが、私たちの生活を豊かにしてくれています。ありがとう」
その言葉に、俺は少し照れながらも答えた。
「いや、ありがとうって言ってもらえるのは、嬉しいよ」
村の人々が楽しんでいる姿を見て、俺の心の中に温かい感情が広がっていく。
――こんなにも、俺が持ってきたものが喜びになっているのか。
それだけで、十分に幸せな気持ちになれる。
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夜が深まると、村のお祭りもクライマックスを迎え、みんなで集まっての打ち上げ花火が始まった。
「成瀬さん、花火、すごくきれいです!」
ティナが目を輝かせて空を見上げる。
その顔は、まるで子どものように無邪気で、幸せそうだ。
「うん、きれいだな」
花火が夜空を彩るたびに、俺の心の中で何かが震えるような気がした。
——こうして、村の人々と一緒に過ごす日々が、だんだんと大切なものになってきている。
その夜、俺は自分の心の中で一つ、はっきりとした決意を固めた。
——この村で、これからもずっと、みんなと一緒に過ごしていこう。