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湯けむりとヒノキの香り

「これ、すごくいいですね!」


ティナが歓声を上げたのは、俺が昨日、村長に説明したヒノキの入浴剤を初めて試したときだった。


あれから数日が経ち、異世界の村での生活もだいぶ慣れてきた。

俺の店「三日月堂」の営業は順調で、村の人々は次々と新しい品々に興味を持ち、喜んでくれている。


けれど、最近一つ気になっていたことがあった。


それは、村の人々がどうやって体を洗っているのか、ということだ。


「成瀬さん、入浴って、どうしているんですか?」


一度、ティナに訊かれて答えに困った。


「え? まあ、普通はお風呂に入って、体を洗うって感じだよ」


「お風呂?」


ティナは首をかしげる。


「お湯に浸かって、体を温めるんです。そうすると、疲れが取れるし、リラックスできるんですよ」


それに、ちょっとした贅沢感もある。


「実は、この村、風呂という文化がないんです。昔から、みんな川で体を洗っているだけでした」


「川で……?」


「はい。でも、最近は寒くなってきて、川での水浴びが辛くなってきているんです」


なるほど、それで入浴剤や風呂に関する話が出てきたのか。


「それで、成瀬さん、何か良い方法はないかなと思って……」


ティナが少し恥ずかしそうに話を続ける。


「お風呂があれば、みんな気持ちよく過ごせるんじゃないかって、思うんです」


その瞬間、俺はひらめいた。


——そうだ、俺が持ってきた、ヒノキの香りを使えば、露天風呂を作ることができるんじゃないか?


「よし、決めた! 今度、簡易的なお風呂を作ってみよう!」


ティナの目が大きく見開かれる。


「え、ほんとうに?」


「うん! 簡単に作れると思うよ。ヒノキの香りを使えば、リラックスできるお風呂も作れるんじゃないかな」


「それ、すごいです! 絶対にみんな喜びます!」


こうして、俺は村の人々と共に、簡易的な露天風呂を作るプロジェクトに取り掛かることになった。


 


====


 


数日後。


村の広場から少し外れた場所に、俺たちが作った露天風呂が完成した。


最初は、ヒノキの木を切り倒し、香りを引き出すために蒸気を使った方法で温かいお湯を作り上げることから始めた。


「これなら、石でお湯を温められるし、ヒノキの香りが広がるんじゃないか?」


「わぁ、いい香りがする!」


村の人々が次々と集まり、みんなでワイワイと作業を進めていった。


途中、ティナも手伝ってくれた。彼女が木を割ったり、香りを調整したりする姿を見ていると、あっという間に時間が過ぎていく。


そして、ついに、露天風呂が完成したとき——


「できたー!」


村長や村の人々は、歓声を上げながら喜びの声を上げた。

その後、最初に試すのはもちろん、ティナだ。


「わぁ……あったかい!」


彼女が温泉の湯に浸かると、目を細めて顔がほころんだ。


「これ、本当に気持ちいい……」


「だろう? ヒノキの香りも、リラックスできるだろうし」


ティナはそのまま長く湯に浸かっていた。


その後、村の人々が順番にお風呂を楽しんだ。みんな、普段の水浴びでは味わえなかった、温かさと香りに包まれて、心からリラックスしていた。


「成瀬さん、すごいです! 本当に、私たちの生活が変わりました!」


ティナが湯船から顔を出して、嬉しそうに言った。


「いや、そんな大したことじゃないよ。ヒノキの香りを使って、お湯を温めただけだし」


けれど、心の中で俺は感じていた。


——これこそが、俺のやりたかったことだ。


——異世界にある、ちょっとした幸福を届けること。


それが、俺の生きがいだと気づき始めていた。


 


====


 


その晩、村の人々は初めての露天風呂を堪能した後、感謝の気持ちを込めて宴を開いてくれた。


「成瀬さん、今日は本当にありがとう!」


村長が笑顔で杯を持って言った。


「いや、こちらこそ。村の皆さんが喜んでくれるのが何よりだよ」


その後、村の人々と共に楽しい夜を過ごした。


ティナも、みんなで食事をしながら俺に話しかけてきた。


「成瀬さん、これからも、もっといろんなものを持ってきてくださいね」


「うん、もちろんさ」


——これからも、この村で、俺ができることをしていこう。


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